孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

クリミア、ロシア編入の手続きはじまる 双方にとって今後の問題も 

2014-03-18 23:34:49 | 欧州情勢

(クリミア半島のシンフェロポリにあるクリミア自治共和国議会議事堂前で、ロシアの国旗を持ち踊る人々(2014年3月17日撮影)。(c)AFP/DIMITAR DILKOFF 【3月18日 AFP】)

住民投票でロシア編入・・・しかし、NYダウは大幅上昇
クリミアの住民投票を受けての“独立”、ロシア編入に向けたプーチン大統領の動き・・・ということで、アメリカは対ロシア制裁を発動、今後の展開次第では更なる制裁で大国ロシアとの対立が鮮明にならざるを得ない状況にあります。

このような状況で意外だったのは、アメリカの市場がクリミアを巡る国際情勢の緊張に全く反応しなかったことです。

****NYダウは大幅上昇、181ドル高 ウクライナ懸念後退****
週明け17日のニューヨーク株式市場は、ウクライナ情勢を巡るロシアと欧米の対立懸念がやや後退し、大企業で構成するダウ工業株平均は6営業日ぶりに値上がりした。終値は、前週末より181・55ドル(1・13%)高い1万6247・22ドルだった。ウクライナ南部のクリミア自治共和国で実施されたロシア編入を問う住民投票の結果は、賛成票が9割を超えるなど市場の予想に沿った内容だった。これを受けて市場では、幅広い銘柄に買い注文が入った。ダウ平均は一時、前週末終値に比べ200ドル超上がった。【3月18日 朝日】
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クリミア問題はすでに織り込み済みだった、住民投票結果も圧倒的多数で編入が支持されることは予想されていた・・・という事情はありますが。

もともとアメリカはクリミアの問題にさほどの関心は持っていない・・・クリミアを含めたウクライナの経済破綻で困るのはロシアとEUだ・・・・アメリカは“長期戦”で構えていればいいと考えている・・・といった見方もあります。

****ウクライナ問題でアメリカはどうして「ポーカーフェース」なのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
先週末、3月14日(金)にアメリカの株式市場はかなり下げました。週末に行われるクリミア半島帰属問題での住民投票を前にして、ウクライナ情勢全般への悲観論が広がったからです。

その住民投票では、97%がロシアへの帰属に賛成票を投じたと発表されました。いよいよ、ウクライナの一部であるクリミア半島が、ロシア領になっていくプロセスがスタートしたのです。

ところが、この住民投票のニュースはアメリカでは実に小さな扱いでした。この週末の間、各局は延々とインドネシア航空機の行方不明事件を報じており、例えば30分のニュース番組の場合ですと、最初の15分がこのインドネシア航空機のニュースで、ウクライナ問題はその後の「今日のその他のニュース」で取り上げるという扱いがほとんどだったのです。

住民投票の結果を受けた週明け、3月17日のNY市場の反応も意外でした。前週とは打って変わって大幅高となったのです。ダウは181ドル強(1・1%)上げて前週末の下げの相当部分を戻した格好になります。

先週は、12日の水曜日に、首都キエフに置かれたウクライナの暫定政権のヤツェニュク首相が訪米して、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談しています。そのTVでの扱いは「まあまあ」でしたが、私が驚いたのは、アメリカはこの首相訪米にあたって、追加の金融支援のオファーは一切していないのです。

それどころか、その前週にケリー国務長官がキエフに行って約束した10億ドル(約1000億円)という融資保証について、オバマは「もったいぶって」恩を売るような発言をし、ヤツェニュク首相はこれに謝意を表明しというセレモニー的なやり取りがあったのですが、それと同時並行で議会共和党は「そんな怪しいカネは出すな」という反対論をブッていたのです。

以前にもこの欄に書きましたが、今現在、ロシアは150億ドルの援助の大部分をストップして代わりに戦車を派遣しています。一方でEUは110~130億の援助を「口に」はしています。
一方で、ウクライナの対外債務は1500億ドルあり、一説によれば今年中に返済期限が来る債務は100~120億ドルあるようで、6月末に大口の償還があると言われています。

その中で10億ドルというカネしか出さないアメリカ、しかも首相が来ている最中にその融資枠設定への反対論が公然と出るというのはどういうことなのでしょう? 

反対しているのは共和党で、基本的には反ロシア、オバマはプーチンに甘いという非難を繰り返しているグループが、10億ドルの拠出に難色を示しているのです。西側が思い切りカネを出して、プーチンを追い払えという意味での「強硬論」は今のところ、アメリカにはありません。

そんな中での、NY市場の180ドル高というのは何なのでしょう? このアメリカの「ポーカーフェース」ぶりをどう理解したら良いのでしょうか?

それは、この問題の当事者はロシアであり、EUだという認識です。そしてカネの面で言えば、まずロシアが相当額を出し、次いでロシアにエネルギーの依存度を高めているドイツが相当の負担をすればいいというスタンスです。

更に言えば、非常に自己中心的な姿勢ではありますが、アメリカとしては(1)ウクライナが最悪の場合にデフォルトになっても困らない、また(2)この地の混乱により化石エネルギーの価格が上昇してもシェールガスも出るので以前ほどには困らない、というスタンスがあるようです。

更に言えば、ロシアの金融事情は厳しいものがあるのです。現在のロシアの株価指数MICEXは、3月3日に大暴落した水準をウロウロしており、年初から15%下げた状況が続いています。ロシアの通貨ルーブルも、対ドルの水準ではダラダラと下げが続いています。そんな中、オバマは「長期戦」で構わないというスタンスを取りつつあるようです。

以前にも書きましたが、困っているのはロシアであり、ウクライナが破綻して連鎖倒産するのは困る、とりあえず借金の担保にクリミアを切り取る構えで西側を怒らせてカネを出させようとしたが乗ってこない、そうこうするうちに、株も通貨も下げが止まらない......強気のウラでプーチンは困り果てている、恐らくアメリカはそのように読んでいるのではと思います。【3月18日 Newsweek】
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クリミアへのロシア・プーチン大統領の強硬な対応は表向きで、実際は“借金の担保にクリミアを切り取る構えで西側を怒らせてカネを出させようとした”というのがロシアの本音だ・・・というのは冷泉氏の持論ですが、そこまではどうでしょうか?

プーチンを止められなかったアメリカ
「ソビエト連邦の崩壊は20世紀最大の地政学上の悲劇だ」と言明し、旧ソ連圏諸国での政治動向には欧米の反ロシア的な画策が背後にあると信じるプーチン大統領が、ウクライナの政変に乗じて素早く、極めて強引な手法で“強いロシア”復活のために動いた・・・、欧米側は“19世k的”“別世界”のロシア・プーチン大統領に対し有効な対応策をとれなかった・・・といのが常識的ではありますが、本当のところでしょう。

****プーチン氏を過小評価した米政権****
ウクライナ南部クリミア自治共和国のロシア編入が現実味を帯びるなか、オバマ米政権の多国間協調主義による外交政策は、プーチン大統領の帝国主義的な領土の回復と拡張の野望を阻止できず、限界を露呈した。

「21世紀に19世紀の行動を取っている」(ケリー米国務長官)、「プーチン氏は『別世界』にいる」(ドイツのメルケル首相)-。

欧米はプーチン氏の行動を、米国が主導してきた第二次世界大戦と東西冷戦後の世界秩序を変更する試みであり、領土拡張主義という「亡霊の復活」とみてきた。

ただ、厄介なことに、政治・経済ブロックが東西に二分されていた冷戦時代とは異なり、今や経済のグローバル化が進み、欧米とロシアの経済利害は複雑に絡み合っている。ここに対露経済制裁の難しさもある。

従って欧米、とりわけオバマ政権にとっては、グローバル化時代の領土拡張主義を相手に、戦後の世界秩序をいかに維持し新たなルールを見いだすのか、外交・安全保障上の重要な試金石となっている。

オバマ政権には「断固とした決意と行動」が求められ、大統領は「代償を伴う」と繰り返し警告した。だが、政権の内情を知る元政府関係者は「政権は当初、ロシア軍のクリミア侵入はないと分析するなど、プーチン氏の姿勢を過小評価していた」と証言する。

その後の外交・制裁圧力も奏功しなかった。クリミアがウクライナにとどまる代わりに、自治権を拡大するという米側の提案は一蹴された。渡航制限や資産凍結は、「何ら抑止効果をもち得ない」(ゲーツ元国防長官)うえに、「外交圧力を支えるものとしての軍事的な抑止力も不十分」(元政府関係者)である。

こうした対応は、ロシアが後ろ盾となっているイランやシリア、何よりアジアで領有権の拡大を図る中国に、「米国に挑むリスクは低い」との誤ったメッセージを送るだろう。

世界経済における中国の影響力は、ロシアの比ではない。中国が東シナ海などで軍事力を行使した場合、経済制裁を含めオバマ政権の対応が行き詰まることは、目に見えている。

今後はウクライナ東部が焦点となるが、ロシアとの対立構造が固定化され、中東も不安定化すれば、オバマ政権はアジア重視戦略の見直しも迫られかねない。ウクライナ情勢は日本や東南アジア諸国にとり、「対岸の火事」ではない。【3月18日 産経】
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ただ、これまでのブログでも書いたように、国家帰属の問題においては最終的には住民の意思が最大限に尊重されるべきものであり、国土は絶対不可侵のもの、あるいは“固有の領土”といったものではなく、そのときどきの力関係・諸事情によって常に変動してきているものであり、更に言えば、クリミア問題は西側勝利で終わった冷戦終結の構図の“微調整”に過ぎないという見方からしても、“ロシア・プーチン大統領のやりたい放題を許している”と悲憤慷慨する必要もないように個人的には思っています。

ロシア編入がもたらす問題も
クリミアのロシア編入は、クリミア住民、ロシア双方にとって、それほどバラ色の未来ではないようです。
現在はロシア民族主義が高揚したクリミアにおいても、失地回復を喜ぶロシアにしても、クリミア併合がもたらす負担の側面は「まとないチャンスが到来した。併合のコストについて言い争う者などいない」と、問題視されていませんが、将来的には大きな問題となってきます。

****クリミア、ロシア編入でもウクライナ依存―電気・水道の大半供給****
ウクライナ・クリミア自治共和国は、住民投票でロシアへの編入を承認したが、ウクライナ本土とのインフラ面の結び付きを断ち切るのは難しそうだ。

乾燥して風の強いクリミア半島には、名高いリゾート地と港湾を支えるための自前の資源がほとんどない。ロシアとは陸地でつながっておらず、天然ガスの約25%、水道の70%、電力の90%をウクライナ本土に依存している。

ロシアが先週末にウクライナ本土に侵入しガス輸送施設を一時占拠したことで示されたように、クリミアのウクライナ依存度の高さが紛争の発火点になる恐れがある。ロシアはクリミアへの資源供給確保のため、その他のインフラも占拠する可能性があるからだ。

ガス施設の占拠についてクリミア政府スポークスマンは、ガス輸送が停止され、クリミア東部が停電に見舞われたため必要だったと説明した。しかしウクライナ政府側は、輸送は停止されていなかったと否定した。
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ウクライナ政府にとって、クリミアを失うことは政治的な打撃となる一方で、年間10億ドル(約1010億円)のクリミア向け予算の削減となる。ロシアがクリミアの併合に踏み切ったとしても、クリミアは存続のためにウクライナへの経済的な依存を続けなければならず、皮肉にも併合がウクライナにロシアとの交渉材料を与えることになる。

ウクライナは理屈の上では、クリミアが分離すれば電力供給を遮断できるが、そうすれば全国的な電力供給網が混乱に陥る恐れがある。(中略)ただ、ウクライナ政府がガスや電気、水道の供給を停止すれば、クリミアに大混乱を引き起こすため、供給停止命令を出す可能性は極めて小さいとみられている。

しかし、本土からクリミアへの供給ラインはぜい弱で、ロシア軍とウクライナ軍との間で戦闘が起きれば供給ラインはすぐにも遮断の脅威にさらされる。クリミアは電力需要の約10%を独自の小型発電所で満たせているが、残りについてはウクライナ本土からの2系統の送電網で電力供給を受けている。

クリミアは家庭向けの水道供給は十分にあるが、かんがいや工場向けは本土に頼っている。天然ガスに関しては、沖合ガス田の生産がブームとなっているおかげで、需要の約4分の3は自前で賄える状況だ。

政情不安に加えてこうしたライフラインの供給不安があるため、観光客の足は遠ざかりそうだ。昨年クリミアを訪れた観光客の70%はウクライナ本土から来ていた。また、クリミアのインフラやホテルは投資不足のため老朽化が進んでいる。

ウステンコ氏によれば、今回の危機発生前から、インフラ問題や犯罪率の高さ、「影の経済」活動のせいで、多くの投資家はクリミアを敬遠していた。今やウクライナやロシアだけでなく国際投資家にとっても、クリミアに新規投資を行うのは問題外になるという。

今後はロシア政府がクリミアに対する主要な投資者にならざるをえない。ロシア政府当局者によると、クリミア併合に伴う費用は1年目だけで40億ドルに及ぶという。

しかし、ロシア国内ではクリミア併合への支持は強い。この当局者は「まとないチャンスが到来した。併合のコストについて言い争う者などいない」と語る。
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すでに通貨問題で住民生活への不安も出てきています。

****ウクライナ:クリミア…興奮の陰に通貨など生活直撃の課題****
ロシア連邦への編入手続きが始まったウクライナ南部クリミア自治共和国では18日、ロシア系住民を中心に歓迎ムードが広がった。一方、ウクライナからロシアへの「国替え」には、水や食料、電力の確保などさまざまな問題も浮上している。

18日付の地元紙「クリムスカヤ・プラウダ」は1面に「双頭のワシ」をあしらったロシアの国章とロシア国歌の全文を掲載。自治共和国の首都シンフェロポリの議会前では、ロシア国旗をもった自衛部隊のメンバーが「プーチンは我らの大統領だ」と話した。

一方、ウクライナの大手銀行「プリバトバンク」は18日、クリミアにある支店の営業を停止し、ATMでの現金引き出しを1人につき1日500フリブナ(約5300円)までに制限した。

銀行側はクリミアの公式通貨となったロシア・ルーブルへの対応や、ウクライナの政変後に現金を引き出す人が増えて「十分な現金を確保できないため」としている。

だが、プリバトバンクは、創設者の新興財閥コロモイスキー氏が反露派のウクライナ新政権に近いことから、今回の騒動には政治的背景も指摘される。

ルーブル導入に関しては他の銀行も対応に追われており、一部の商店で銀行カードが使えなくなるトラブルも発生。現行通貨のフリブナは2015年末まで使える予定だが、2通貨を当面どのように両立させるのか明確でなく、不安を抱く住民もいる。3月30日からクリミアの現地時間を2時間早めてモスクワ時間に合わせることになり、市民生活の混乱が予想される。

また、クリミアはウクライナ本土に淡水85%、電気80%を依存し、食料も70%が本土から搬入されている。
自治共和国のテミルガリエフ第1副首相はロシア紙のインタビューで「クリミアには1カ月分の食料備蓄がある」と強調したが、ロシア編入でウクライナとの関係が「断絶」した場合、深刻な影響を受けるのは必至だ。【3月18日 毎日】
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アメリカの“内向き姿勢”】
アメリカ国内の保守派やアメリカの強いプレゼンスを必要としている国からは、“ロシア・プーチン大統領のやりたい放題を許している”とアメリカ・オバマ政権の弱腰対応、内向き姿勢を批判する声があります。

しかし、「世界の警察官ではない」とは言いつつも、現実問題としてアメリカは世界中の国際問題に関与し、その動向が注目されています。

クリミアが問題となっている日にも、オバマ米大統領はホワイトハウスでパレスチナ自治政府のアッバス議長と中東和平交渉を巡って会談しています。
イラン核問題の最終解決に向け、欧米やロシアなど主要6カ国とイランは18日、ウィーンで実務協議を再開しています。
シリア問題もあります。

アメリカとしてこれらに深く関与して、場合によって実力行使で・・・と言っていたら、とても身が持ちません。
アメリカが多国間協調主義で“内向き”と取られがちな対応に終始するのも当然のことのようにも思えます。
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