孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・パキスタン カシミールで報復の応酬

2013-01-11 21:51:24 | 南アジア(インド)

(カシミール実効支配線で監視するインド軍(多分)兵士 【1月9日 TBS News-i】http://news.tbs.co.jp/20130109/newseye/tbs_newseye5226937.html

6日、8日、10日と相次ぐ衝突
インドとパキスタンはこれまで3回の戦争を経験した宿敵の関係にあることは周知のところですが、このところは関係改善に向けた動きが報じられていました。
しかし、両国が領有権を争うカシミール地方で、実上の国境線である実効支配線を挟んで対峙するインド軍とパキスタン軍の間の衝突が続いています。

1月6日には砲撃戦でパキスタン軍兵士1名が死亡。

****カシミールで印パ砲撃戦、兵士2人死傷****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で6日、実効支配線(事実上の国境線)を挟んだ砲撃戦が発生し、パキスタン側のハジピル地区で兵士2人が死傷した。

インド陸軍は、6日未明にパキスタン側からインド側のウリ地区に砲撃があったため応戦したと説明した。軍関係者は「2003年の休戦合意に違反する」とパキスタンを非難した。一方、パキスタン軍は「インド軍が国境の検問所を襲撃してきたので応戦した」と説明している。

カシミール地方では昨年10月以降、印パ両国軍の衝突が度々発生し、その度に非難合戦が展開されてきた。08年のインド・ムンバイ同時テロ以降冷え切った両国関係は、昨年9月の外相会談で団体観光ビザの発給に合意したことや、人気スポーツのクリケット交流戦の再開などで全般に改善が指摘されている。
ただ、「カシミールを巡る問題だけは、むしろ悪化している」(インド政府関係者)との見方もある。【1月6日 読売】
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この衝突後、パキスタン側が再発防止を求め、インド側も「実効支配線の厳守が信頼醸成のために重要だ」などとして、事態は収束に向かうかとも見られていました。

****パキスタン:カシミール対立 インドとの衝突回避へ****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で両国軍が6日に衝突し、パキスタン兵1人が死亡した問題で、パキスタン外務省は7日、インドのイスラマバード駐在代理大使を呼び、正式に抗議するとともに再発防止を求めた。

今回の衝突は、インド軍が実効支配線(停戦ライン)付近のパキスタン軍検問所を急襲するという異例の事態となった。しかし、パキスタン側が「再発防止」を訴えることで事件は収束に向かい、両国間の深刻な対立は回避される見通しとなった。

両国が03年に停戦合意した後も実効支配線付近で散発的な銃撃戦が起きていた。過去2年間は両国とも関係改善に努め、昨年12月には両国民の相互訪問を促す査証(ビザ)発給手続きの簡素化が始まったばかりだった。【1月8日 毎日】
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しかし、1月8日、こんどはインド軍兵士が頭部を切断されるという異例の状況で死亡。

****パキスタン:軍が攻撃、インド兵2人死亡 再び緊張か****
インド軍当局によると、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で8日、パキスタン軍が実効支配線(停戦ライン)を越えてインド軍のパトロール隊を攻撃し、インド兵2人が死亡した。

インドの民放NDTVによると、死亡した兵士のうち1人は頭部を切断され、もう1人の遺体も故意に傷つけられたような形跡が見られるという。パキスタン軍当局は関与を否定したが、遺体切断という異例の事態にインド側は衝撃を受けている。

停戦ライン付近での両軍の衝突は6日にもあり、パキスタン兵1人が死亡したばかり。印パ両国は近年、信頼醸成に努めてきたが、相次ぐ交戦で再度緊張が高まる可能性もある。

NDTVによると、8日の交戦ではパキスタン軍が実効支配線から約400メートルインド側に侵入して奇襲攻撃を仕掛けたという。ロイター通信によると、パキスタン軍報道官は「パキスタン側が先に攻撃した」とのインド側の主張を否定した。

また、パキスタン軍トップのキヤニ陸軍参謀長は8日午後、「国内外のいかなる脅威にもパキスタン軍は対応する」とする声明を出した。パキスタンでは、「遺体切断のような手法を軍が取るはずがない。パキスタン国内の武装勢力による犯行ではないか」(イスラマバードの記者)との見方が出ている。(後略)【1月8日 毎日】
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この事態に、国連事務総長スポークスマンは9日、現地の国連監視団が両国に対し停戦を順守し緊張の激化を対話を通じ回避するよう強く要請していると述べ、事態の鎮静化を促しています。
しかし、10日、更なる衝突があり、パキスタン軍兵士1名が死亡したことが報じられています。

****インド軍の銃撃でパキスタン兵死亡…カシミール****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で10日、インド軍部隊による銃撃でパキスタン兵1人が死亡した。パキスタン軍が発表した。

発表によると、事実上の国境線である実効支配線のパキスタン側にある検問所がインド軍の襲撃を受けた。パキスタン軍は「一方的な攻撃だった」としてインドを非難している。(後略)【1月10日 読売】
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この報復の応酬が続く状況に、インドのクルシード外相は9日、「事態をエスカレートさせてはならない」と述べ、パキスタンのカル外相も「正しい在り方だ」と同調するなどともに事態の沈静化を呼びかけています。

現場指揮官が独自の判断、イスラム過激派の関与
一連の交戦のきっかけとなったのは、インド側のカシミールに住んでいた70歳の女性が昨年9月、実効支配線をひそかに越えてパキスタン側に越境したことだったとも報じられています。

****印パ衝突:70歳女性の越境が遠因か****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で両軍の衝突が相次ぎ、緊張が高まっている問題で、インドの主要紙ヒンズーは10日、インド側のカシミールに住んでいた70歳の女性が昨年9月、実効支配線(停戦ライン)をひそかに越えてパキスタン側に移り住んだことが今回の衝突の遠因だったと報じた。
女性の越境後、住民の自由な往来に危機感を抱いたインド軍が実効支配線に沿って監視強化の塹壕(ざんごう)を設置し、これに反発したパキスタン軍との間で対立が激化したという。

同紙によると、この女性の息子たちはインド当局から密輸容疑をかけられ、数年前に実効支配線を越えてパキスタン側に逃亡していた。高齢になった女性は、晩年を息子と一緒に過ごそうと9月に越境した。

女性の越境を受け、インド軍は監視強化の塹壕設置を始めた。パキスタン軍は「03年の停戦合意に違反する」と抗議したが、インド軍側は違反を認識しながらも「パキスタンの脅威にならない」と工事を続行した。
パキスタン軍は10月、インド側に銃撃して警告し、流れ弾を受けたインド側の一般住民3人が死亡した。これ以降、双方の銃撃がエスカレートしていったという。

この間▽パキスタン側がインド兵2人を殺害して頭部を切断した▽報復としてインド側もパキスタン兵2人を殺害して頭部を切断した−−との情報もある。
印パ両政府はこの2年間、信頼醸成促進を印象付けてきたが、こうした現場レベルでの対立激化は一般に知られていなかった。

一方、インドのDNA紙などによると、今月6日の両軍衝突(パキスタン兵1人死亡)は、インド軍の現場指揮官が独自の判断でパキスタン側に越境攻撃を仕掛けた可能性がある。インド政府は「越境」を一切否定しているが、政府当局はこの情報を把握している模様で、インド軍が近く指揮官から聞き取り調査をする見通しという。また、8日の衝突(インド兵2人死亡)では、パキスタンのイスラム過激派ラシュカレトイバ傘下の武装勢力が攻撃した可能性も報じられている。【1月10日 毎日】
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言うまでもなく、インド・パキスタン両国は核保有国です。
その両国が対峙する最前線で「現場指揮官が独自の判断で越境攻撃を仕掛けた可能性がある」といった、中央の統制が疑われるようなことは、危険極まりないことです。
また、イスラム過激派の関与云々についても同様です。まかり間違えば核戦争の引き金にもなりかねない危険地域ですから、奇妙な言い方にもなりますが、対峙するならするで、両軍はきちんと管理統制された状態でないと困ります。

パキスタン:過去数年間で最大規模のテロ
パキスタン国内で相次ぐテロについては、12月31日ブログ「パキスタン 頻発するテロ 今後の状況はアフガニスタン情勢とも連動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121231)でも取り上げましたが、年が改まっても事態が変わっていません。

****パキスタン:テロ相次ぎ死者114人に 南西部****
パキスタン南西部バルチスタン州クエッタのビリヤード場で10日、自爆テロによる爆発があり、81人が死亡、121人が負傷した。この日は他に2カ所で爆弾テロとみられる爆発が相次いでおり、1日の死者数は計114人と過去数年間で最大規模となった。AFP通信などが伝えた。

クエッタのビリヤード場の建物内で同日夕、自爆テロが発生。さらに約10分後、近くの車に仕掛けられた爆弾が爆発し、最初の爆発で集まってきた警官や報道関係者らが巻き込まれた。クエッタはイスラム教少数派のシーア派住民が多い都市。AP通信によると、イスラム教スンニ派武装勢力「ラシュカレジャングビ」が犯行声明を出した。【1月11日 毎日】
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同日に3か所でテロがあり、死者が114名・・・こうした国に“中央の統制管理”を期待するのは難しいものがありますが・・・・。

インド:レイプ事件で問われる警察の対応
インドの方では、12月26日ブログ「インド 性犯罪罰則強化を求める抗議活動 不評の国民会議派シン政権 政権交代の可能性も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121226)で取り上げた“レイプ事件”が未だに収まっていません。

****服なく放置」「病院まで3時間」印レイプ事件、友人男性テレビで証言****
インドの首都ニューデリーで女子学生(23)が男6人にレイプと暴行を受けて死亡した事件で、女子学生とともに無認可バスの中で暴行を受けて負傷した友人男性(28)が4日、地元テレビ局のインタビューに初めて応じ、2人とも犯人に服をはぎとられて路上にほうり出されたが誰も衣服を貸してくれず、病院に運びこまれるまで約3時間もかかったと証言した。

男性が5日付のジー・ニューズ(電子版)に語ったところによると、路上で通行人に助けを求めたが、車やバイクは速度を落としたものの停止せず、見回り中の住民が警察に通報するまで25分かかった。警察が到着したのは解放から45分後で、その後も警察はどこの警察署が管轄するのかを決めるために時間を浪費し、病院に着いたのは、警察到着から2時間以上も後だった。その間、警察や病院内の人は誰も衣服を貸してくれず、シーツの切れ端を提供されただけだった。

男性は、レイプ事件をめぐる抗議デモについて、ろうそくに火をともしても人々の考え方は変わらないと批判。「道で助けを求めている人がいれば、助けなければならない」と訴えた。
一方、PTI通信によると、警察はインタビューの放映がレイプなどの被害者の身元特定を禁じた法律に違反するとして、同テレビ局を訴追することを決めた。【1月6日 産経】
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事件をめぐる警察の対応には凶悪犯罪の認識も、被害者への配慮も欠如しています。
女性がレイプされるなどは、大した問題ではないとの認識なのでしょう。
一方、抗議活動の抑え込みには熱心で、被害女性が死亡すると「夜明けまでに火葬するよう」に被害者家族を急がせ、近隣住民には「被害者の家に近づくな」と命じ、現場に2500名もの警官を配備したとか。【1月16日号 Newsweek日本版より】

被害者男性のインタビューを報じたテレビ局を訴追するというのも、失態隠しのように思われます。
なお、死亡した女性の父親は「世界に娘の名を知ってもらいたい」「娘は何も悪くない。娘の名の公表で、似たような犯罪の被害者に勇気を与え、力になれる」と述べ、実名報道を希望しているそうです。

この国に“当たり前のこと”を期待するのも難しいかも・・・。
コメント
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