(北京近郊の「労働教養制度」の収容施設(1986年6月12日撮影)【1月21日 AFP】http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2922392/10143710)
【裁判所の判断を経ずに最長4年間の身柄拘束と強制労働】
中国社会には、日本や欧米の基準から考えると容認できない問題が多々あり、ひとつひとつ取り上げているときりがないほどですが、その大きな問題のひとつに「人権侵害の温床」とも言われる「労働教養制度」があります。
****裁判なしで「懲役刑」*****
中国の悪名高い「労働教養制度」・・・・は、警察などの行政機関が政治犯や軽犯罪の容疑者らを対象に、裁判所の判断を経ずに最長4年間の身柄拘束と強制労働を科すことができる。
・・・・1957年に始まった同制度は、警察が実質的な「懲役刑」を科すことができるもので、工場や農場を併設した労働教養施設に収容される。中国紙によると、麻薬常習者をのぞく収容者は多い時で約30万人、2012年で約6万人に上っている。処分の基準が明確でないため、人権侵害や警察権力の暴走を招くとして、中国内でも見直しを求める声が高まっていた。・・・・【1月8日 朝日】
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つまり、強制労働による再教育制度ですが、法律・裁判によらず警察だけの判断で執行できる点が、非常に怖い制度です。
不服申し立ての陳情者など、地方政府や警察当局の意に沿わない行動をする者なども、よく対象とされるようです。
****陳情女性、強制労働のうえ遺体置き場に3年放置 中国****
中国で、当局に拘束された夫が受けた扱いに苦情を申し立てた女性が強制労働処分を受けたうえ、刑期後も3年にわたって未使用の遺体置き場に身柄を拘束されていたことが分かった。国営環球時報が25日、報じた。
報道によると、この女性は陳慶霞さん。苦難の発端は2003年、当時流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の検疫を逃れようとしたとして、陳さんの夫が「労働による再教育」の刑を科せられたことだった。
刑期を終えて釈放された夫の体はあざだらけで、精神も衰弱していたことから、陳さんは夫が受けた扱いを直接、中央政府高官に訴えようと北京へ赴いた。ところが、その結果、陳さん自身も1年半の「労働による再教育刑」を科せられてしまった。
陳情者を労働再教育施設送りにするのは中国ではよくあることだが、陳さんは刑期が終わった後も、黒竜江省の遺体置き場に3年間、留め置かれていたという。遺体置き場では、複数の清掃作業員が警備に当たっていたという。
環球時報によると、陳さんは現在、車椅子生活を余儀なくされ健康状態も著しく悪化している。陳さんの夫も、統合失調症と診断され病院の精神科に入院しているという。
地元政府は陳さんへの賠償を約束したと同紙は伝えている。
労働による再教育制度は、初代国家主席だった毛沢東が導入したもの。警察当局の判断のみで裁判なしに最高4年まで市民を拘束できる。
だが、政府を批判した人や陳情者を黙らせる目的で用いられているとの批判が高まっており、中国メディアは法務当局高官の話として21日、同制度は年内にも廃止される方針だと報じていた。【1月25日 AFP】
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【「現在の中国には安定した法制度がある」】
“中国メディアは法務当局高官の話として21日、同制度は年内にも廃止される方針だと報じていた”という件に関しては、以下のとおりです。
****裁判無しで拘束、中国が労働教養制度を廃止へ 国営メディア****
中国国営メディアは21日、法務当局高官の話として、「再教育」を施すための労働教養制度とその収容所を年内に廃止すると伝えた。
「再教育」を目的とするこの制度では、警察当局の判断で、最高4年間市民を拘束することができる。裁判手続きを踏まない半ば強引な手法には広く批判が集まっていた。この高官の発言に先立ち、中国共産党の新指導者、習近平党総書記も同制度を問題と認識していると発言していた。だが今年初め、この「労働教養制度、労教」が廃止されるとの報道が流れた際には、直後に「改革が実施される可能性がある」との報道に置き換えられたこともある。
中国法学会の陳冀平副会長は国営英字紙チャイナ・デーリーに対し、3月に開かれる全国人民代表大会(全人代=国会)でこの制度を廃止するまでの期間、制度の使用を厳しく制限することについて会議で合意したことを明らかにした。
労働教養制度について陳氏は、「中国共産党が国をまとめ、社会秩序を正す時代に貢献した制度だが、現在の中国には安定した法制度がある」と述べている。当局者によれば、労働施設には現在およそ6万人が収容されている。大半は6か月から1年ほどの収容だという。
現在、労教制度の下で処分を受けた者は、農場や工場などで労働を強制されている。【1月21日 AFP】
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【指導部内にも意見の対立か?】
上記記事にもあるように、1月初旬に、警察・司法機関を総括する共産党中央政法委員会トップの孟建柱書記が幹部会議で「労働矯正制度」を今年中に停止すると表明したことが中国国内メディアで報じられました。
この方針については、“習近平(シーチンピン)体制は、党の直面する課題に「法治」実現を掲げており、「人権侵害の温床」(中国の人権活動家)とも言われながら温存されてきた同制度の廃止を通じ、憲法が定めた権利の実現に向けた強い姿勢を示そうとしているとみられる”【1月8日 朝日】とも見られています。
しかし、その後「廃止ではない」とか「制度改革を推進」とか、トーンダウンさせた報道が流れていました。
****中国、労働矯正制度の見直しへ…「改革」強調も「年内停止」は微妙****
中国各メディアは7日、中国共産党で公安・司法部門を担当する孟建柱・中央政法委員会書記が同日、軽微な違法行為者を裁判なしに強制労働に従事させる「労働教養(労働矯正)制度」の「年内停止」を発表したと伝えた。ただしその後の報道では「廃止」ではないと強調、8日の報道では「制度改革を今年推進」と表現がトーンダウンしている。
中国国営メディアの新華網や央視網は7日午後、公式ブログで「労働教養(労教)制度停止」のニュースを伝えた。記事によると、「孟書記は同日午前に北京で開かれた全国政法工作会議で、労働教養など4項目の制度について今年は一歩進んだ改革を推進すると述べた。会議上、孟書記はさらに、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に報告して承認されれば、党中央は労教制度の年内停止を検討していると明らかにした」という。(中略)
しかし人民日報系のニュースサイト、人民網は央視網の記事を「労教制度の『年内停止』は『廃止』とは違う」との見出しで転載。「廃止」ではないことを強調した。
また当初、「年内停止」と伝えた中国各メディアの記事も、その後ネット上から次々に削除された。8日の報道では、「今年、労教制度改革を推進」(8日付京華時報)などと表現がトーンダウンしている。【1月8日 Searchina】
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共産党指導部内部での意見の対立も窺わせるような展開ですが、【1月21日 AFP】が報じているところは、「廃止」で決着したということでしょうか?
これまでの経緯を見ると、国営とは言いながら、英字紙での発言ということで、どこまでオーソライズされた見解なのか疑念が残ります。
【1月25日 AFP】にあるように、人民日報の国際版である環球時報が制度の被害者を取り上げたという点では、期待もできますが・・・。
なお、労働矯正制度が廃止されても、“薄熙来・元重慶市書記を批判する詩をネット上で公開したとして11年に1年間の労働教養処分を受けた元公務員の方洪氏(46)は「政府を批判する人間を精神病患者として病院に送り込むなど、弾圧の手段は多く残っている」と警戒を解いていない” 【1月8日 朝日】といった指摘 もあります。
上記のような問題はあるにせよ、労働矯正制度が廃止されれば中国における人権問題の前進として歓迎すべきことでしょうが、評価は3月の全人代を待った方がよさそうな感があります。