孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  富裕層増税で著名俳優ロシア市民権取得へ  経済悪化で支持率低下するオランド大統領

2013-01-04 22:56:57 | 欧州情勢

(12月10日 オスロ EUのノーベル平和賞受賞式でのフランス・オランド大統領とドイツ・メルケル首相
“flickr”より By Statsministerens kontor http://www.flickr.com/photos/statsministerenskontor/8264037094/)

【「受け入れられてうれしい。ロシアは住み心地が良いだろう」】
富裕層への増税では、アメリカの「財政の崖」をめぐる論議でも問題となっていますが、フランスの社会党・オランド大統領は選挙公約に従い、「年収100万ユーロ以上の高額所得者への75%課税」を進めています。
アメリカ共和党などからすれば、社会主義そのもののとんでもない政策ということにもなるでしょうが、当然ながらフランス国内富裕層は激しく反発、「国外流出」も起きています。

“高級ブランド「LVMH」のベルナール・アルノー会長兼CEO(最高経営責任者)が隣国ベルギーの市民権取得希望を表明したのに続き、十二月には俳優のジェラール・ドパルデューも「ペルギー移住」の章同を示した。
ドパルデューの場合、エロー首相が「情けない」とフランスのテレビでコメントしたことから、怒った俳優が「私は過去四十五年間で一億四千五百万ユーロの税金をフランスに支払ってきた。エローさん、あんたいったい、何様のつもりかね」と反撃した。首相はあわてて「私が『情けない』といったのは、税逃れの行為そのもので、ドパルデューさんのことではない」と発言を修正し、政府の動揺を一段と印象付けた。”【1月号 選択】

上記のように、著名な俳優ドパルデュー氏はこれまでベルギーへ移住するものと思われていましたが、ロシア市民権取得の話も報じられています。

****ロシア:仏俳優に国籍授与へ 富裕層増税を批判****
ロシアのプーチン大統領は3日、富裕層への増税を批判しフランス国籍返上を宣言していた俳優のジェラール・ドパルデューさん(64)にロシア国籍を与える大統領令に署名した。ドパルデューさんも受け入れる意向。

フランスのオランド政権は年収100万ユーロ(約1億1400万円)以上の国民に対し、2年間の限定措置ながら、課税率を41%から75%へ上げる方針を打ち出した。このためドパルデューさんは隣国ベルギーに移住し、国籍取得を目指す考えを表明。更にロシアが13%の均一税制を敷いており、同国籍に関心を示していた。

ドパルデューさんは3日、ロシア国営テレビ局に書簡を送り、「受け入れられてうれしい。ロシアは住み心地が良いだろう」と表明した。ロシアは欧米諸国への人材流出に悩まされており、自国の魅力をアピールする狙いがありそうだ。

ドパルデューさんは「シラノ・ド・ベルジュラック」で、カンヌ国際映画祭男優賞を受賞するなど、フランスを代表する俳優。【1月4日 毎日】
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もちろん、ロシアの“13%の均一税制”は大きな誘因でしょうが、ドパルデュー氏はかねてからロシアのセレブ界と交流があり、しばしばモスクワを訪れているとか、ロシア企業のCMを引き受けているとか、個人的にロシアに対する好印象を持っているようです。
フランスを含め欧米諸国では、とかく人権問題などでロシアのイメージはよくありませんが、その点でドパルデュー氏はかなり一般とは異なる考えの持ち主のようです。

ロシア・プーチン大統領も、ここぞとばかりに前面に出てきての対応となっています。
もっとも、オランド政権の富裕層増税に対しては、ロシアだけでない海外からの冷ややかな視線があります。
“ロンドンのポリス・ジョンソン市長は、「サンキュロット(仏革命時代の無産階級)の国」とあざけり、企業や富裕層の英国移住を促した。”【1月号 選択】

違憲判断で修正を迫られる
フランス国内においても、“税の公平性を欠く”ということで違憲判決が年末に出ており、これを受け、エロー首相は法案を修正し再提出する意向を示しています。

****富裕層75%税は違憲 仏憲法会議判断、政権に打撃****
フランスで法律の違憲審査などを行う憲法会議は29日、オランド政権が年収100万ユーロ(約1億1千万円)超の高額所得者に最高税率75%を課す税制について、違憲との判断を示した。オランド大統領が大統領選で公約に掲げた主要政策の一つだけに、政権にとって打撃となる。

ロイター通信によると、判断は「75%課税」が税の公平性を欠くと指摘。具体的には夫婦いずれかの所得が100万ユーロ超なら課税されるが、ともにわずかでも下回れば対象外となり、世帯の合計所得が高い夫婦の税負担が軽くなる可能性があるとの問題点を挙げた。

仏政府は29日、来年実施予定の税制の見直しを表明。ただ、最高税率自体は維持されるとみられ、財政赤字削減目標達成への影響もないとしている。政権は財政健全化のため富裕層の課税強化に乗り出しているが、高額所得者の国外流出を招くとの批判もある。【12月30日 産経】
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失業者数、15年ぶりの水準に悪化
このところフランス経済は低迷しており、失業者数が増大し、15年ぶりの水準に悪化しています。

****11月の仏失業者数は引き続き悪化、約15年ぶり高水準に****
フランス労働省が27日発表した11月の本土での失業者数(登録求職者数)は、前月比2万9300人(0.9%)増の313万人となり、1998年1月以来ほぼ15年ぶりの水準に悪化した。
増加は1年7カ月連続。政府は、雇用創出と競争力の強化に向けた労働関連法の改正が急務としている。

オランド大統領は、パリ郊外の卸売食品市場を訪問した際「わたしの目標は、過去約2年間増加している失業者数を減らすことだ」と言明。2013年末までにこの傾向を反転させるとの立場をあらためて確認した。

労働省の統計は雇用関連のデータとして注目度が高い。ただ国際労働機関(ILO)基準には準拠しておらず、失業率も発表されない。【12月28日 ロイター】
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【「オランド政権は、再生プランもないのに『雇用を減らすな』と言うだけ」】
経済低迷に有効な対応策を打ち出せないオランド大統領の支持率も就任当初の55%から半年後の昨年11月には30%台に急降下しています。
そうしたなかでの富裕層増税には、“金持ち叩きのポピュリズム路線”といった批判的な見方もあるようです。

****経済「失策」連発のオランド政権 ユーロ危機「次の火種」はフランス****
フランソワ・オランド仏大統領の社会党政権が、時代遅れの社会主義政策をひた走っている。「緊縮財政より経済成長」を掲げて当選しながら、経済再生策は全く打ち出せず、国策会社に雇用維持を遣るばかり。ゼロ成長、富裕層重税、労働組合優遇で2013年のフランスは、ユーロ危機の新たな焦点になりそうだ。

「いざとなれば国有化する」
事件は十二月半ば、パリ郊外のオルネースーボワで起こった。この地にあるプジョー・シトロエン(PSA)工場の労働者が、同社のリストラ計画に抗議して事務所に乱入。本棚を倒したり、テレビや観葉植物を倒したりと、粗暴な破壊行為に走った。フランスは日米に比べ労組の示威活動に遥かに寛容だが、この蛮行には仏メディア
も批判的だった。

ところが労組本部だけでなく、仏政府も沈黙した。社会党政権は、PSAが12年七月に「オルネースーボワ工場閉鎖」など八千人削減計画を発表すると、これに断固反対して、労組を勢いづかせた張本人。党内左派の指導者であるアルノー・モントブール産業再生相は、「自動車産業には多額の公金が出ている。(リストラで譲歩しなければ)公的支援は今後一切お断りだ」と威嚇し、労組支援を約束した。
これ以後、労組の行動はエスカレートするばかりで、九・十月のパリ・モーターショーを一時的に占拠したこともあった。

フランスの自動車産業は1990年代のピーク時には年産370万台を超えていた。だが、グローバル化に遅れて、11年には230万台にまで減少し、世界ランキングでも10位に後退した。高級車やSUVがなく、海外市場ではドイツ車に大差をつけられている。PSAのオルネースーボワ工場はピーク時の年産四十万台から、三分の一の十四万台に減らし、仏産業衰退の象徴になっていた。

「オランド政権は、再生プランもないのに『雇用を減らすな』と言うだけ。最後は適当な理由でカネを出してメンツを保つだろうが、政府が支援や介入をするほど、業界の自助努力、近代化が遅れる」と、仏在任の邦人記者は言う。

モントブール再生相は、自動車産業以外でも大企業の合理化に目を光らせ、様々な労使紛争に口を出す。今やピエール・モスコビシ財務相らを差し置いて、オランド政権の左派政策の顔になった。
十月に、鉄鋼のアルセロールミッタルが北部フロランジュにある高炉の閉鎖計画を発表すると、モントプール再生相は、従業員600人の代弁役に回った。「ミッタルなんて、フランスには必要ない」などとインドの富豪一族をののしり、「いざとなれば国有化する」と発言したため、仏産業界全体に「80年代のミッテラン政権の悪夢再来」との衝撃が走った。

再生相の発言は明らかに暴走だが、大統領もジャンマルク・エロー首相も止めないため、経済界は政権全体への不信を募らせる。(後略)【1月号 選択】
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“時代遅れの社会主義政策”云々の評価は立場によるところもありますが、産業再生のビジョンを持ち合わせておらず、“『雇用を減らすな』と言うだけ”・・・・という批判は当たっているかも。
もっとも、産業再生のビジョンを持ち合わせていないのは、日本を含め多くの国の政権に共通する話ではありますが。
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