孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ・インド・タイ  宗教的不寛容

2007-11-24 16:52:55 | 世相

(アヌポン氏の作品 刺青をしてくちばしをつけた僧侶が食べ物をむさぼっているという刺激的な作品 “flickr”より By Y-Not ?)

最近、宗教的冒涜に対する不寛容に関する記事をイスラムと仏教で目にしました。
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イスラム教を冒涜する小説を出版したとして、バングラデシュのイスラム原理主義組織から「死刑判決」を受けた同国の女性作家タスリマ・ナスリン氏(45)に対し、避難先インドのイスラム教徒が国外追放を求め、抗議行動を激化させている。
ナスリン氏は逃避行の途中、PTI通信に電話で「私は精神的に参り、打ちひしがれている」と語った。
【11月23日 時事】
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93年に出版した、バングラデシュのイスラム教徒によるヒンズー教徒迫害を告発する「ラッジャ(恥)」という本がイスラム教徒の怒りを買い「死刑判決」となったそうです。
逃避先のインドのコルカタでは21日、同氏の追放を求める群衆が暴徒化して外出禁止令が敷かれ、コルカタからジャイプール、更にニューデリーと転々と避難しているとのこと。

一方、仏教の方はタイからの記事。
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タイでは、画家のアヌポン・ジャントン氏が描いた絵画『 Bhikku Sandan Ka (Monks With Traits of a Crow)』が、仏教を侮辱しているとして僧侶らの反発を買っている。
同作品はその美術的価値が認められ、9月には国民芸術賞を受けた。この作品には、口がカラスのくちばしのようになった2人の仏教僧侶が食べ物をついばむ姿が描かれている。
約100人の仏教僧侶・信徒らは9月末、作品が展示されているシラパコン大学の前に集まり、「同絵画は国内の仏教僧侶を侮辱している」と述べ、アヌポン氏に授与された賞の取り消しと展示の撤去を求めた。
【11月22日 IPS】
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近年、タイでは汚職や性的虐待など僧侶による不祥事が相次ぎ、社会問題になっていることから、この絵も描かれたようです。
アヌポン氏は僧侶らの要求には応じない姿勢を見せており、「この絵を通じて、国民が安らかな心を取り戻してほしいのだ」と語っています。

葬式仏教の日本ではなかなかイメージできませんが、スリランカ、タイなどの上座部仏教の国では僧侶は人々から敬愛されています。
(“スリランカ、タイ、ミャンマーなど”と書こうとして、「必ずしもそうとも言い切れないのか・・・」と思ってしまいましたが。)

初めてスリランカを旅行したとき、僧侶の足元で地面にひれ伏し、頭を僧侶の足につけんばかりに拝んでいる女性の姿を見て、そのあたりの日本との差を実感したのですが、一方で「僧侶はなんであんなに偉そうにしているのだろうか?あんなに人々から敬われることはかえって僧侶自身の人格・修行に悪影響しないのだろうか?」なんてちょっと思ったりもしました。

山にこもって修行する訳ではなく、人々の日々の暮らしと濃密な関係をもっているだけに、社会問題とされるような事柄も起きてくるのでしょう。
そのことを批判すること自体は、多くの仏教徒はそれほど抵抗はないのではないかと思いますが、絵画という形でつきつけられて一部の僧侶が激怒したようです。

もっとも、作品が“国民芸術賞”というかたちで社会的には高く評価されていること、(“地獄に堕ちろ!”ぐらいは言うかもしれませんが)“死刑宣告”などという物騒なことは僧侶達も言わないことで、イスラムの場合と差異はあります。
殺生を忌む仏教ですから、生命にかんしては他宗教とは若干の差があるのかも・・・葬式仏教とはいえ、仏教徒のはしくれとしてはそのように期待するのですが、どうでしょう。

イスラムも本来は他宗教と比べてんなに宗教的不寛容の強い宗教ではなかったように理解しています。
「右手にコーラン、左手に剣」という言葉もありますが、ジズヤを収める形で他宗教を認めることも一般的だったように聞いています。
もちろん、近代的な人権意識が確立する以前の世界では、イスラムであれ、キリスト教であれ、宗教や民族の異なる者への扱いはときに残虐をきわめたことは言うまでもないことですが。

近年のイスラム世界でのこの種の問題の多発はどのように理解すべきものでしょうか。
経済的に遅れた立場に置かれていること、アメリカを中心としたアフガニスタン、イラク、あるいはイランへの露骨な圧力への反抗・・・そういった面が強いのでしょうか。

扱う方も、この種の問題が非常に“取り扱い注意”であることを強く意識して、不用意に宗教的、ひいては政治的軋轢をひきおこさないように留意することは、やはり現時点では現実的対応として求められることかと思います。

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