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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

バングラデシュ 選挙によらない内閣によって進む政治改革

2007-07-18 13:36:44 | 国際情勢

(写真はバングラデシュの首都ダッカ、港も近いオールドダッカの歩道橋から眺めた街の喧騒。2006年9月撮影。フェリーのストライキ期間のため、これでも普段より格段にリキシャの数は少ないそうです。)

バングラデシュの総選挙は、与党政権がいったん退陣して選挙管理内閣としての暫定政府のもとで行われます。
選挙での与党の不正、介入を防ぐのがその目的です。
逆に言えば、過去それだけいろいろな問題があったということでしょう。

今年1月に行われる予定だった総選挙については、この選挙管理内閣の組閣が難航しました。
憲法では最高裁長官が首相になることになっていますが、最高裁長官のハサン氏が与党寄りの人物であるということで野党が拒否して混乱、結局軍の圧力があったようで昨年10月にようやくアーメド氏を首班とする選挙管理内閣が成立しました。

混乱する政党対立の状況で総選挙は今年に延期されたのですが、まだ実施されておらず、「来年後半実施の見通し」とも伝えられています。
現在、この軍の支持を受けた“選挙管理内閣”のもとで、与野党それぞれの党首が逮捕されるという劇的な政治改革が進んでいます。

バングラデシュの二大政党は与党のバングラデシュ民族主義党(BNP)と野党のアワミ連盟(AL)。
印象的なのは、この二大政党の党首がいずれも女性で、似たような経歴で、かつ非常に仲が悪いということです。
与党BNP党首は前首相のカレダ・ジア。
彼女はジアウル・ラーマン元大統領(軍部出身で、軍政から民政に移行させた。)の未亡人で、夫ジウル・ラーマン元大統領は軍部のクーデターで暗殺されました。
野党AL党首は元首相のハシナ・ワゼド。
彼女はバングラデシュ独立時の初代大統領ムジブル・ラーマンの長女で、父ムジブル・ラーマン元大統領も軍部クーデターで殺害されています。

民政移管後はBLPとALが交互に政権を担うかたちで、ジア前首相とハシナ元首相を軸にまわってきました。
女性の権利保護に問題があると指摘されるイスラム教国家(バングラデシュはもともとパキスタンと同一国を形成していたようにイスラム国家です。)にあって与野党とも女性党首というのは奇異な感じがしますが、日本でも権力者がなくなった場合、未亡人とか娘が急遽身代わりに選挙に出てくるのはときどき目にすることです。
身内の誰かを立てないと陣営がまとまらない、自分たちの既得権益が守れないということでしょう。
こういう現象が政治のトップで見られるあたりが、バングラデシュの民主主義の現状を反映していると想像できます。

バングラデシュに限った話ではないでしょうが、政権=利権であり、汚職と腐敗が蔓延しているとも言われます。
与党が独占するこの甘い汁を求めて、野党はハルタル(ホッタール)と呼ばれる一種のゼネストを仕掛けて政権を揺さぶります。
ハルタルには一部野党熱烈支持者のほか、日雇いで動員された群集、特に日頃の鬱憤を晴らそうと暴れる若者が参加し、人々はシャッターを閉めて家で息をひそめます。
このハルタル、元来はインド独立の指導者ガンジーの提唱した非暴力抵抗運動だったようですが、バングラデシュでは政争の具となっているようです。
昨年9月にバングラデシュを旅行しましたが、ハルタルではありませんが、ダッカ市内で大規模な政治集会があるとかで市内に入るのは危ないと、急遽旅行のスケジュールを変更しました。
TVでは群集と警察の衝突の様子などが流れていました。
(当時は事情が飲み込めず、「何で集会があるぐらいで市内にはいれないんだよ・・・」と思っていましたが。)

こうした政治の腐敗、政治運動の混乱に対し、今回の選挙管理内閣は「汚職に関わった政治家は立候補させない」という厳しい態度で臨んでいるようです。
もちろん、単なる選挙管理内閣にそんな荒療治はできませんので、推測ですが、選挙管理内閣とは言っても恐らく軍部の傀儡政権ではないでしょうか。

当初はこれまでのバングラデシュ政治の中心にいたジア前首相、ハシナ元首相を国外追放にするつもりだったようですが、それはできず逮捕・拘束に切り替えたとのことです。
今月15日、汚職と殺人の罪でハシナ元首相を逮捕、16日には自宅軟禁下にあったジア前首相に出頭を命じたそうです。
また、ジア前首相の後継者であった長男も恐喝罪で起訴されているとか。

随分劇的な処置ですが、政党側も「現党首抜き」を想定した党改革の動きがすでに出ているそうで、女性党首同士の争いを軸に展開してきたバングラデシュ政界は今後、変化が加速するとみられています。
一時ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行運動の創始者ユヌス氏が総選挙に打って出るという話がありましたが、その後断念。この話はもう復活はないのでしょうか。
いずれにしても、選挙管理内閣(暫定政府)の背後にいる軍部の意向次第というところでしょうか。

この軍の影響下の選挙管理内閣が1月にスタートしてから開発援助プログラムが順調に進みはじめたとの国際協力関係機関の日本人の話もあります。
民主的な選挙では選ばれていない政権(恐らく軍が背後に控える政権)で政治改革が進み、行政もスムーズに機能するという現状は、民主主義・民主化を重視する立場からは“なんとも言い難い”奇妙な感じを受けます。
民主主義の基盤が十分でないところでの形だけの民主化が、混乱と腐敗を生むというこのような現実は、おそらくバングラデシュだけでなく多くの途上国でも見られることかと思います。

軍事政権・強権政治を良しとするわけでもありませんが、また、その“効率のよさ”を過信してもいけませんが、将来的な民主化に向かう方向に沿っているか否かの視点で、現実に即した対応が必要とされるケースもあるのではと感じます。

オールドダッカの雰囲気はこちらの旅行記で
http://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10095086/
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