孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフリカの貧困・混迷はかつての植民地支配の結果か?自己責任か?

2007-07-30 14:08:39 | 国際情勢

(“flickr”より By RemyOmar)

写真はかつて奴隷貿易の基地のひとつであったアフリカ、タンザニアのザンジバル島にあるモニュメント。
15世紀から19世紀のヨーロッパ列強による奴隷貿易によって、1500万人とも3000万人とも言われるアフリカの人々が犠牲になったと考えられています。

今月の26日・27日、リビア、セネガル、ガボンのアフリカ3カ国を訪問したサルコジ仏大統領が「いつまでも(西欧に)植民地支配の責任を押し付けるばかりではなく、独裁や貧困のない自立したアフリカを築くべきだ」「植民地主義は過ちだったが、それが虐殺や内戦、貧困などのすべての理由とは言えない。」「汚職や暴力、貧困を排除したければ自分たちで決意すべきだ。」と発言したそうです。
これに対し、アフリカ連合のコナレ委員長は「植民地支配がアフリカを他の世界から置き去りにしたのは歴史的事実だ。」と反論しています。

過去の歴史認識で紛糾するのは日本と中国・韓国の間でも見られることですが、西欧諸国とアフリカ諸国の間には、植民地支配、奴隷貿易という過去をどう清算するかという大問題があります。

2001年、南アフリカのダーバンで反差別世界会議が開催されました。
以下、「アフリカ21世紀」(NHK「アフリカ」プロジェクト)に記されているところの一部を紹介します。

この会議は国連主催によるもので、世界中のあらゆる差別撤廃を目指すという壮大なものでした。
冷戦後の世界各地では排外主義的な民族紛争が多発しており、過去の未解決諸問題を清算することで差別偏見のない21世紀を切り開く転換点としようという趣旨です。

この世界会議で中心議題となったのが、中東問題と欧米が過去に行った植民地支配・奴隷制に対する謝罪と賠償の問題でした。
会議は最初から紛糾しました。
アフリカ諸国は、過去の植民地支配、奴隷制・奴隷貿易、アパルトヘイトをすべて「人道に反する罪」(Crimes against Humanity)と捉えて、欧米に対し謝罪と賠償を要求しました。

「人道に反する罪」とはドイツナチスの戦争責任を問うニュルンベルク裁判で登場した概念です。
その内容は「犯罪の行われた国の国内法に違反すると否とにかかわらず、戦争または戦争中のすべての一般市民に対する殺人、殲滅、奴隷化、強制移送、その他非人道的行為、もしくは政治的、人種的行為または宗教的理由に基づく迫害・・・」というものです。

アフリカ諸国は欧米の行った植民地支配・奴隷制はナチスのジェノサイドに匹敵する罪であると断罪し、その謝罪及び対外債務の帳消し、ODAの増額等の補償を求めました。
「今日アフリカ諸国が貧困に苦しんでいるのは、長く植民地支配・奴隷制で植民地を収奪し続けた旧宗主国の責任である。」という主張です。

これに対し、ヨーロッパ諸国は強く抵抗しました。
「過去の奴隷制については“遺憾”とされるべきものであるが、数世紀前の政府が行った行為に対して現代の政府が責任を負うのは適切でない。」(昨日まで参院選で争われていた“年金問題”のようでもあります。)
「そもそも“人道に反する罪”という概念はニュルンベルク裁判で確立した概念であって、それ以前の事象には適用されない。」
西欧諸国は“「罪」を認めると際限のない補償問題につながる”という危惧がありました。
その中でも、「人道に反する罪」は認めないが、過去の奴隷制に対しては“謝罪”してもいいのではとするベルギー等の11カ国に対し、イギリス、ポルトガル、スペイン、オランダの4カ国は“遺憾”に留めるべきと強く主張したそうです。

アフリカ諸国にも“援助国との関係をこじらせたくない”という不安もありました。
結局、宣言文は以下のようになりました。
「奴隷制・奴隷貿易は人道に反する罪であると認める。過去の奴隷制や大西洋を渡って行われた奴隷貿易については、当時、人道に反する罪という考え方があったなら、そうであったかもしれない。」

前半の「奴隷制・奴隷貿易は人道に反する罪であると認める。」という部分は、現在もアフリカの一部などで行われているものを指しており、欧米が過去行ってきたものではありません。
後半の婉曲な表現は要するに“当時は人道に反する罪という考え方がなかったので、その罪にはあたらない”というものです。
ほぼ、西欧諸国の主張に沿ったものです。
アフリカ諸国の主張は退けられました。

今回のサルコジ大統領の発言、それに対する反応もこのときの会議をなぞる議論です。
独立後数十年経過して、今もなくならない貧困と飢餓、蔓延する民族・部族・氏族対立による内戦、繰り返される暴力、累積する対外債務・・・
確かに、サルコジ大統領の言うところは正論のようにも聞こえます。
しかし、「すき放題やったお前らにえらそうなこと言われたくないよ!」というアフリカの心情も理解できます。

昨日のブログでも世界各国の所得格差を紹介しましたが、「なぜアフリカはこんなに貧しいのか?何故テイクオフできないのか?同じ植民地支配から出発したアジアの国にはテイクオフしている国が多くあるのに。何がアフリカとアジアで異なるのか?」という思いがありました。
また、「なぜ、いつまでもアフリカには内戦・紛争・暴力・虐殺が絶えないのか?」という疑問もあります。
この点については、今後も考えていきたいと思っています。

コメント (4)
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