水野和夫2017『閉じていく帝国と逆説の21世紀経済』集英社新書
本書は前著「資本主義の終焉と歴史の危機」に続くもので、0金利がなぜも長く続くのかということに、応えたものとしています。1000年の歴史的な視点とグローバルな視点で、日本経済の出口なき経済戦略の問題を解き明かしています。だが、10月の総選挙の結果安倍続投が決まり、格差と貧困の増大、株主優先の企業の不正、国の借金増大、企業のための成長戦略など、まだまだ国民の苦難は続きます。以下ポイントを抜粋します。
21世紀の超低金利では、「実物投資空間」から蒐集できず、歴史の終わりである。これが資本主義の終焉で、グローバル資本に振り回されたくない、社会や資本を閉じる方向へ。国民国家への揺り戻しであり、イギリスのEU離脱、アメリカファーストでトランプ大統領の誕生である。格差の拡大は実質賃金と企業利益の推移に表れている。国家と国民は離婚状態である。
グローバル経済が可能なのは、世界秩序が安定していることが前提である。国家が資本を管理できない。国家はグローバル企業、すなわち資本が活動しやすいよう規制緩和や法整備することで資本に奉仕すれば、経済成長を実現でき、国民もそれなりに満足するとおもっている(トリクルダウンの誤信、筆者)。動力革命、燃料革命など様々な革命で世界が一つになったが、フロンティアはなくなった。IT革命では実物経済は成長できない。金融工学、原子力の魔術性、宗教性はリーマンショックや福島原発で失敗したが、ビッグデータ、AIなど宗教性を自覚しないと資本主義は終わらせられない。「成長教」の信奉者の代表格は日本銀行である。資本主義と民主主義が結合しない。成長を追い求めれば民主主義の破壊となって現れる。グローバリゼーションも、イノベーションも瞬時にものを買うことができ、遠方の労働力を利用できる。機械のように合理的に労働者を管理できる。
政府も日銀もデフレ脱却を言うが、平時の金利水準に戻りたい、近代に戻りたい、という「近代引きこもり症候群」にかかっている。アガンペン「法治国家から安全国家へ」で、緊急事態の宣言はヒトラーの権力掌握で、一度発令されたものは二度と解除されなかった。「安全国家」は、国内に恐怖をつくり出すことで、自身の存在理由を維持するようになる。日本もその道を進んでいる。オリンピックの開催でテロが高まると、人々に恐怖をイメージさせて、共謀罪法を強行した。ゼロ金利は、資本の自己増殖の停止を意味する。日銀が国債を買い占め、市場に出回る国債が消滅し、市場メカニズムが働かなくなる。日銀自らが資本主義の幕引きを行っている。
9・11以降、現在のISに至るまで、世界中でテロが頻発している。日本では安保法制が成立し、貧困と格差が拡大し、国民の財産よりもグローバル企業の利益が優先する(まさにトヨタ城下町に見て取れる、筆者)。EUのなかにポスト近代の可能性がある。金融取引税や金融統合案などである。
今後中国も住宅バブルがはじける。先進国と新興国の経済がともに落ち込んでいる現状では、過剰生産力を輸出で吸収することもできない。ソ連の場合はボーランドやチェコだけで、過剰生産力を吸収できなかった。それがソ連の解体であった。「一帯一路」は中央アジア、欧州までのフロンティアであるが、中国の生産力を吸収できないだろう。
日本はアメリカ金融帝国の「属国」の道を選び、今なお近代にしがみつこうとしている。レーガノミクスの失敗を日本は繰り返すのか。アメリカファーストはこれまで以上に日本を抑圧してくる。EUに学び、アジアの地域帝国を作る準備をする。成長至上主義と決別し定常状態へ移行させる。①普通国債を増やさない。国債発行を0にする。②エネルギーの国産化し、自給率を高める。③5つか6つの「地方政府」、経済圏を作る。
日本はEU帝国を先導したドイツとは対照的に、対米従属に固執し、国民国家のまま、「閉じたアメリカ」の中で搾取される従属体制を強化しようとしている。本書と前著「資本主義の終焉と歴史の危機」は、ゼロ金利がなぜかくも長期にわたって続くのだろうという疑問に対するひとつの回答を示した。