70代の男性の腰を軽く押しただけで、腰椎すべり症を起こしたケースを報告しましたが、どれだけ細心の注意を払っていても、施療中の事故をゼロにすることは、とても難しいことです。私は、事故1件につき最高4000万円を補償する保険に入っていますが、医療事故の裁判では、1億円を超える補償を求められる例もあり、院長仲間と話し合ったとき、補償額を増やすことも話題になりました。
開院して5年の私の場合、幸いなことに事故になる例は起こしたことはありません。だが、いつ起こるかは、誰にもわかりません。別の整骨院長の男性は、高齢の男性の患者さんに、腰の痛みをやわらげるため、梨状筋を押圧したとき、「イタッ」と言われました。院長は100キロを超える偉丈夫ですが、施療には十二分に注意をしているので、肘で軽く押しただけなのです。
後日、患者さんが来院し「痛みが引かないので、病院の整形外科を受診したところ、梨状筋が断裂していると診断されました」と告げました。それ以来、院長は肘による押圧はしていません。
こうしたケースでは、最悪の場合、施療事故裁判を起こされます。患者さんとの間で、信頼関係ができていないと、裁判ざたになることも覚悟しなければなりません。
2件のケースとも、患者さんに丁寧な説明と適切な施療で、何回も疼痛を治していただけに「先生が施療して起こったことだから、仕方がない」と了承してくれたといいます。患者さんとの信頼関係をきちんとつくることがいかに大切か、を教えられた事例でした。