「ええぞ! 栄養映画の会」の呼びかけ人、Mさんは市川雷蔵さん主演の「忍びの者」に出演したとき、監督から大目玉を食らったといいます。忍者ですから、覆面姿です。覆面をかぶって全力で走るシーンを撮影するとき、息がしやすいように、覆面を口の下にまで下ろしました。全力で疾走するのですから、覆面を口から外した方が合理的で、忍びの者はこの覆面姿で走ったと考えたからです。それに、雷蔵さんも覆面は口の下まで下ろしています。「顔を見せる奴があるか」と怒鳴りまくる監督さんに「雷蔵さんも覆面を下ろしていますよ」と口をとがらせると、監督さんは「主役はいいんだ。観客は雷蔵の顔を見に来るんだから」と言われました。
主役は夢を売る仕事だから、お金には頓着しません。勝新太郎さんは大部屋俳優や裏方さんを連れて飲みに行くのが好きでした。勝さんが飲みに行ったと聞くと、次々と俳優や裏方さんが押し掛け、最初4、5人だったのが、あっという間に50~60人になったそうです。最上級のブランデーやウイスキーをドンドンあけ、一晩で数十万円を使うキャバレーやクラブの最上客です。支払いはすべて勝さんのつけ。昭和30年代の数十万円です。会社員の月給が「1万3800円」と歌謡曲で歌われた時代です。現在ならば、一千万円以上に上るでしょう。妻の中村玉緒さんが次々と届く請求書を、黙って支払っていたそうです。勝さんが競馬で1400万円も勝ったが、一週間で使ってしまったという週刊誌の記事を、昔読んだことを思い出しました。
主役級のお金は千円単位だったそうです。女優さんが「煙草を買ってきて」と千円札を出すと、80円のハイライト1箱を渡して、おつりはお使い賃。「おつりは、というスターさん、準スターさんはおりません。夢を売る商売の人がお金をけちってはいけません」とMさん。大衆の夢を裏切らないため、容色の衰えを感じたら、銀幕からさっさと降りる女優さんも少なくありませんでした。「女もつらいよ」ですね。