高倉健主演の映画「あなたへ」を見てきました。私の周りでも、妻を亡くした友人、知人が何人も出てきており、他人事と思えない年齢になってきただけに、妻の遺骨を散骨に富山から長崎県平戸市に1200キロのキャッピングカーで旅する健さんの姿を共感をもって見てきました。そして「一期一会」で出会った人たちの、背負ってきた人生の哀しさも映し出され、何度か涙をぬぐいました。
映画のキモの話なので、詳しくは書けませんが、旅先で会ったイカメシ販売員(妻と娘と離れて一人暮らし)が生命保険金詐欺をした元漁師であることが分かるプロセスがきちんと描かれていないなどの、物足りない点もありましたが、話題作にふさわしい映画だと私は感じました。
妻(田中裕子さん)の歌手が歌う「星めぐりの歌」が宮澤賢治の作詞作曲であることや、種田山頭火の「分け入っても 分け入っても 青い山」「このみちを たどるほかない 草のふかくも」が取り上げられていることで、映画の背景に流れている考えが読み取れそうです。
映画職人の降旗康男監督のショットはすばらしく、健さんが訪ねる「天空の城」といわれる竹田城址(兵庫県朝来市和田山町)を、カメラが後ろに引くと、雲海の中に浮かぶ竹田城址となる映像は見事しか言いようがありません。ロードムービーにふさわしい、日本の風景の素晴らしさも楽しむことができました。
でも、81歳の健さんが60代前半の役を演ずるのは少し無理かな、とも感じました。映画の会の世話人のMさんによると、映画の大画面で主役を演じることができる男優は、健さんしかいません。健さんのイメージである、不器用だが誠実な生き方をする役割で一定した興行収入が見込めるため、同じ役回りになってしまう。女優では、吉永小百合さんが同じで、イメージを変える役を求めるリスクを冒す映画会社はない、と言います。
今の健さんにふさわしい役を演じる映画を見てみたいものです、と話しますと、Mさんは「ギャラが1億円を超えるから、脇役では使えません」ときっぱり。「あなたへ」で漁船の船長役の大滝秀治さんの「久しぶりに、きれいな海ば見た」と話して画面を引き締めましたが、そんな役をする健さんもすてきだと思いますが‥‥。