中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第7回紬きもの塾  織る

2011年11月05日 | 紬塾 '9~'12

午前中から夕方まで、4人の方に順番にお越しいただき、一人ずつ小さな布を織っていただきました。

朝、仏壇に向かって「4人の方が無事織れますようにお守りください」と祈りました。
おおげさなようですが、本格的な高機の私の機に座繰りの経糸をかけ、
まったくの未経験の方に織りの体験をしてもらうには、教える私にも覚悟がいります。

自分で紡いだ糸や機にきちっと向き合って、
人の根源的な仕事に少しでも気づきがあって欲しいと、
マンツーマンでの指導による織り実習を、講座に組んでいます。
今までの6回の講義の段階を踏んでいますので、参加されるみなさんが
きちんとわかって来て下さっているとは思います。

織り上がると毎回そうですが、緊張が解けてみなさん素直に
「うれしい!」「素敵!」「美しい!」「いとおしい!」と
自分で織った布を見つめ、つぶやかれます。
そしてとてもいい表情をされます。
私も、終わるとホッと肩の荷が降りたような気になります。



今期もの方も今までと同じ条件――地糸を6~7色の中から選ぶ、自分の糸は使いきる、
色糸は使っても使わなくてもよい、織る時間は1時間半以内――での課題でしたが、
それぞれの人のカラーが出た、小さな布が織り上がりました。
ミミの仕上がりもまずまずです。仕上げ後のアップの画像はまた後日。

以下はみなさんからいただいた感想やデザインの構想です。

Tさん

織りの物語[作物の恵み]
地表の下深くにある粘土質のケイ酸、ミネラルや地表までの様々な無機質が微生物・発酵の働きに助けられて植物の根により、吸い上げられ、惚れ惚れするような色をした若葉が芽をだします。
その後、丈夫に育ち、植物がそれぞれ土から、必要な養分・ミネラルで育ち、花を咲かせ、実を実らせたりします。
わたしたちは、大地の恵みをいただきます。
野菜作りを織りで表現しました。


Nさん

今年の九月に夫とサイパンに旅行をし、その道のりは私たちにとってとても重要なもので、あの旅を境に色々なことが変化しつつあると感じています。

今回、織りをするにあたり、ぱっと思いついたのは、その旅行の最終日に見た夕日でした。遠浅の海の向こうに沈むバラ色から橙、様々な色に変化する夕日を、緯糸の縞のグラデーションで…?
実際に織ってみて、糸の太さや見え方で最初の計算からはどんどん変わっていきましたが、出来上がってみると考えていたよりも、私にとっては遥かにあの夕日を思い出せるものになったと感じています。織っている最中に夕日を思い出し続けたせいかもしれません。。。ただ、経糸、緯糸の太さ細さが面になったとき、写真以上にあの時の波や雲や風、光のきらめき、何よりも自分の気持ちを思い出せる表情を持っている気がしてとても嬉しいのです。糊を抜くのが楽しみでなりません。

余談ですが、その夕日の反対側、夕日に背を向けた東の空には大きな虹がかかっていて、本当に特別な気持ちでした。今回の作品を家に持ち帰る日も、夫に見せるのも、とても楽しみです。

Yさん

たった一度の織りの実習。可能な限り全力で、と思うのは私の常。
ところが、デザインの段階ですでに頭はパニック。
設計図を作らなければいけないのに、選ぶ色とつながりや組み合わせ、織り進めたときの具合など、織られた後のイメージがまったく出来ないのです。
それでも、試行錯誤の末、なんとかデザインを終え、体調を整えてねとの先生のお言葉に、
前日は早めに休み当日を迎えました。エンジンは全開です。

しかし、結果は散々たるもの・・・・
「食べたこともない食材を、料理のいろはも知らぬのに作り始めてしまった」
まさにそんな感じだったと思います。
気持ちばかりが先にたち、想像していたようには出来なかったのです。
知識も技術も、また具体的にイメージ出来ないのに多くを欲張りすぎてしまいました。
織り進めて、設計図と現実のギャップに失望しながらも、後半時間もなくなったとき、
目の前の布の具合を見ながら、次はこの色をこれくらい・・と勝手に織り進めたときはすごくワクワクしました。

心をこめて紡ぎ、染め、織ることを重ねたとき、目の前に現れる布のかたちが、ささやかな喜びと共に実感出来たことは大きかったです。
もし、次回、というものがあるのならば、もっと素直に、もっと謙虚に糸と向き合えたならと切に思います。
経験は宝、今はイメージが具体的に沸いてきている事がとても嬉しくもあります。
ありがとうございました。

Oさん

まさか自分が布を織ることができるなんて思ってもいませんでした。
ましてや自分で糸を紡いで、染めた糸で、そして、先生が実際にお使いの立派な織り機を使わせていただくなんて・・・・と、自分は不器用かなと思っていますので、今でも信じられない感じです。

でも、実際に織らせていただいて、すごく楽しかったです。
もともと「織る」ってどういうこと?というか、糸をどんなふうに織るとどんな布(柄?)になってゆくのか、全く感じがわからないので、とりあえず、デザインを描いてみて織ってみる、という手探り状態でした。
それが、初めて経糸横糸がセットされた織り機に向かわせて頂いて、布はこんな風に織られるんだ、柄は糸の組み合わせででき上がるんだ、糸の風合いが布の風合いを作るんだ・・・という(当たり前??)のことがわかりました。

そして、楽しかった、というのはたぶん(ほんの少しかもしれませんが)、”ものを作る喜び、楽しさ”ということを感じさせていただいたから、のような気がしています。ほんの少しづつ、布ができあがっていくとき、とても嬉しかった!です。少し歪んでいましたが、(自分にとっては)可愛い布でした。

昔の女の人が長い時間をかけて家族のために着物を織る、という作業はきっと楽しいことだったのではないか、と想像しました。

それともうひとつすごく感じたことは、やはり、先生の織られる布がいかに美しいかということ・・・・、私たちが糸を紡ぐところから布を織るところまでほんの入り口を体験させていただいた、その先の先の究極にゆくと、あのようにおおらかで軽やかな美しい織物があるのかと、それはすべてがそろったときに現れる稀な美しさであると、しみじみ感じました。
本当に貴重な経験をさせていただきましてありがとうございました。




紬塾の方で私の紬を着てくださっている方がその着物で来て下さり、なんと!機織をしたのです。私も着物で機織をしたことはないのですがすごいことですね!クリップで袖を帯に止め織ってました。着物はまだ初心レベルの方ですが、ありがたいですし、また頼もしく心強い限りです。


コメント
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