※本稿は、片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。


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☆「食べすぎ」の害のほうが大きい

疲労回復や疲れにくい体をつくるのに、食事も大きな影響を与えます。
こういうと「栄養のバランスのとれた食事をすればいいんでしょう?」と思うかもしれません。
それももちろん大事なことです。

しかし休養学では「食べないこと」や「食事の量を減らすこと」も重視します。
食べすぎないことが、体を休めることになると考えるからです。

ですから、休養のために何か特定の食べ物をすすめるというようなこともしていません。

現代社会では、食べ物がない栄養不足の害よりも、
むしろいつでも豊富な食べ物が手に入るため、「食べすぎ」の害のほうが、大きくなっています。

図表1は横浜市で、就労者に「健康上の課題は何か」と質問した結果です。

運動不足を課題に感じている人が大勢いるのに対し、
栄養に課題を感じている人は、少ないことがわかるでしょうか。

栄養は健康の3要素の1つですが、課題だと感じている人がそれほど多くないのは、
おそらく一日に必要な消費カロリーは、十分とれているという自覚があるのでしょう。

【図表1】健康上の課題は何か
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)より

私は「食べない栄養」というものがあると思っています。

たとえば正月三が日は、ご馳走をたらふく食べるでしょう。
しかしその後は、七草がゆを食べて胃を休めます。

こんなふうに、体の消化器系を休ませたり、
老廃物を排出するデトックスに焦点を当てたりするほうが重要です。

無理に食べない、軽い食事で済ませることのほかに、白湯さゆなどで体を温めるのもいいですね。

「栄養をとる」という足し算の考え方ではなく、
いかに栄養摂取を控える機会をつくるか、という引き算の考え方をもってほしいと思います。

【図表2】休養になる食事のとり方
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)より



☆朝食をとる時刻を固定して自律神経を整える

ちなみに最近では「時間栄養学」も注目されています。

これは、食事をとる時刻によって、生体時計を調整することができるというものです。
これまで主流だった「どんな栄養をとるか」という考え方ではなく、
「いつ食べるのか」に着目したアプローチといえます。

朝に太陽の光を浴びることによって、生体時計が24時間サイクルにリセットされますが、
朝食を毎日決まった時間に食べることによって、
さらにしっかりとリセットされることがわかってきたのです。

食べ物を口に入れると、自動的に消化器系の活動がスタートします。
消化器系が動き出すことによって、生体時計を調整するスイッチが入るしくみです。

逆にいえば、朝食をとる時刻を毎日固定するだけで、自律神経を整えることができるというわけです。

☆「腹八分目」で寿命は延びる

昔から「腹八分目が健康にいい」といわれてきました。

江戸時代の儒学者である貝原益軒の書いた医学書『養生訓』に、こんな一節があります。

「珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。
十分に飽きみつるは後のわざわいあり。少しの間、欲をこらゆれば後の禍なし」

つまり腹八分目を心がけようということです。

満腹になるまで食べるのではなく、
「まだ食べられるけれど、けっこうおなかいっぱいになったから、
このへんでやめておこう」というのが腹八分目です。

腹八分目が、体にいいという説が科学的に正しいかどうかを、1990年に実験でたしかめた人がいます。
私の師匠である東海大学の田爪たづめ正氣せいき先生が、満腹のマウスと腹八分目のマウスの寿命を比較しました。

田爪先生の実験によると、いつも満腹になるまで食事をしていたマウスが、
マウスの平均寿命である約2年生きたのに対し、
いつも腹八分目だったマウスは約3年生きました。
つまり寿命が1.5倍になったのです。

1.5倍というのはかなり大きな差ではないでしょうか。
人間の寿命が100歳だとしたら、その1.5倍ですから、150歳まで生きることになるわけです。

このとき田爪先生は、腹八分目のマウスは活動量が多く、
満腹のマウスは、活動量が減ることも発見しました。

人間もお腹がいっぱいになると、動きたくなくなります。
活動量が減るのは、そのせいかもしれません。

あるいは腹八分目のときは、もっと餌を探そうとして、活動量が多くなるのかもしれません。
いずれにせよ、食べる量を減らすことと、適度に運動をすることで、
寿命が延びるのは間違いないようです。

私たちも活力を得るためには、必要以上に食べないことを心がけることです。
それが体に休養をとらせることになります。



☆むしゃくしゃするとスイーツが欲しくなる理由

「腹八分目が健康にいい」とわかっていても、ストレスがかかると、
やけ食いをしたり、甘いものを食べたくなったりしませんか?

これはストレスを何とか抑えようとする体の防御反応、自己防衛行動です。

食事をとると、副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。
ストレスがかかると、分泌されるホルモンです。
コルチゾールには、抗炎症作用と免疫抑制作用がありますが、そのほかに、血糖値を上げる作用もあります。

まず、食事をとると当然、血糖値が上がります。
血糖値が上がると、インシュリンが膵臓から出てきて血糖値を下げようとし、
そのあとに血糖値が一気に下がります。

今度はこの下がった血糖値を上げないと、もとの状態に戻りません。
このときにコルチゾールが出ます。

コルチゾールは、ストレスに対抗しようと交感神経を上げるので、戦闘態勢に入ることができます。
ですから、むしゃくしゃすると何か食べたくなったり、甘いお菓子を欲したりするのです。