「日本企業の終焉」
私は会社経営についてはまったくの門外漢で、知った風なことを言
える者ではないことを断った上で、とは言っても、会社と謂えども
社会の中で営利を追求する組織である限り、敢て言えば社会正義に
反して行動することなど適うわけがないと思っていたが、斯くも世界
経済のグローバル化が叫ばれる中で、如何わしい宗教団体ならい
ざ知らず、日本の優良企業と言われたオリンパスでさえ、不正を糾
そうとした元社長ウッドフォードを解職し、不正を黙認した高山修一
・現社長が策定した事業再建計画を、主要取引銀行で大株主でもあ
る三井住友銀行は支持した。
以下の記事は、決して創業者一族による相続争いでも、況してや
新興宗教の跡目争いでもない、哀しいかな日本を代表する優良企業
が行った決定である。全文転載します。
「オリンパスのウッドフォード元社長、委任状争奪戦を断念」
[東京 6日 ロイター] 損失隠し問題に揺れるオリンパスの
マイケル・ウッドフォード元社長は6日、社長復帰に向けた臨時株
主総会での委任状争奪戦(プロキシファイト)を断念することを表
明した。大株主である日本の機関投資家や主要取引銀行からの支持
を得られず、勝算がないと判断した。同氏は今後、昨年10月の社
長解任は不当だとしてオリンパスを提訴する方針で、現経営陣との
戦いの場を法廷に移す。
これによりオリンパスは、現経営陣が臨時株主総会に提案する新
たな役員の下で、経営再建を目指すことになる。現経営陣は、過去
の損失隠し問題の責任を取る形で、経営再建に一定のめどをつけた
上で退陣することを表明している。臨時株主総会では高山修一社長
を中心に策定した事業再建計画も提案される予定で、会社側が提案
する再建策の是非を株主が判断することになる。
ウッドフォード氏は同日、「新たな役員候補を提案するための活
動をきょうで打ち切る」との電子メールをメディア各社に送付した。
断念した理由について、「不正を正そうとする私の取り組みに対し、
オリンパスの主要株主である日本の機関投資家からはどこからも支
援の言葉を得られなかった」と説明。さらに、機関投資家は「汚染
された現経営陣の続投を事実上、黙認し続けている」と批判した。
同氏はまた、「委任状争奪戦で勝利を収めることができたとして
も、国内と国外の大株主の間に決定的な対立を招くことにもなりか
ねない状況で、オリンパスの将来を考えると、このような間違った
対立は私が本来望む結果ではない」と述べた。
同氏は同日午前、ロイターなど複数のメディアと会い、オリンパ
スの海外主要株主である米サウスイースタン・アセットマネジメン
トと米ハリスアソシエイツに対しては、委任状争奪戦断念の理由を
説明したとも話した。また、同氏が所有するオリンパス株について
は、株主総会に出席する権利を残しておくため、当面持ち続ける意
向を明らかにした。
<復帰しても銀行との良好な関係見込めず>
ウッドフォード氏は同日午後3時、都内の日本記者クラブで会見
し、委任状争奪戦を断念した背景などをあらためて説明した。主要
取引銀行で大株主でもある三井住友銀行から自身の社長復帰を歓迎
されておらず、委任状争奪戦で勝って社長に復職しても、「オリン
パスにとって良い状態にならない」と考えたと述べた。国内株主か
らの支持が得られなかったことに加え、経営再建で連携する必要が
ある同行との良好な関係構築が見込みにくいことも断念の理由に挙
げた。同氏は昨年12月、三井住友銀行の国部毅頭取にも会談を要
請していたが、同行は、オリンパスが設置した「経営改革委員会」
の下で同社側が策定する再生計画を支持しており、その邪魔をした
くないとして断られたことを明かしている。
ウッドフォード氏は、損失隠しの事実が明らかになっても日本の
機関投資家が批判の声を上げなかったことを指摘し、日本の株式持
ち合い制度は「戦後復興期には役立ったが、今の時代には役立たな
くなった」と批判した。だが、国内機関投資家による「一枚岩を崩
すことは一人ではできない」と述べた。さらには、「野田佳彦首相
は日本の資本市場は特殊ではないと訴えたが、実際はそうではない。
日本は特殊。まだ開かれてない」と語った。
オリンパスの主要株主である日本生命保険は、ウッドフォード氏の
決断についてコメントを控えた。
<不当解任でオリンパス提訴へ>
ウッドフォード氏は日本記者クラブでの会見に先立ち、同日午前に
複数のメディアと会った際に、不当に社長を解任されたことでオリ
ンパスを提訴する考えを明らかにした。まず英国で法的措置を開始
するよう弁護士に指示したといい、来週には英重大不正捜査局(S
FO)と面談する予定。
記者会見でもオリンパスを提訴する方針をあらためて示し、同氏
は「解職後の菊川剛元社長、高山修一社長の発言は、まったく不条
理。ぜひ法廷で両氏に会いたい」と語った。会見終了後には、「も
し私の主張に弱点があるなら言ってほしい。ないでしょう」と述べ、
勝訴に絶対的な自信を示した。
<まるで「不思議の国のアリス」>
ウッドフォード氏はまた、オリンパスの社外取締役が「まったく機
能していなかった」と指摘し、「社外取締役にはステークホルダー
の代表として監督責任がある。その責任を果たさなければ訴えられ
る法的な仕組みが必要」とも話した。
さらには、「正しいことをやった人は解職され、不正を黙認した
人がまだ役員として(会社に)残っている。まるで不思議の国のア
リスの世界だ」と語った。同氏はこれまで、損失隠しのためにオリ
ンパスが買収した本業とまったく関係ないベンチャー企業3社を「
ミッキーマウス・カンパニー(お笑い劇、取るに足らない企業)」
と表現している。
一方、会見終了後には、日本企業から社長就任の要請があった場
合は「引き受けたい」と記者団に語り、「いくつかの要素にはへき
えきしたが、日本そのものには嫌気がさしていない」とも語った。
<市場では断念に落胆の声も>
国内機関投資家からの支援がなかったとしたウッドフォード氏だ
が、一部からは、同氏の社長復帰と委任状争奪戦の断念に対して落
胆の声が出ている。改革のスピードが遅くなるだけでなく、立ち直
るまでに時間を費やせば費やすほどビジネス面へのダメージも大き
くなるとみられているためだ。同社株は現在、機関投資家の投資対
象銘柄から除外されている。
公募投信を運用する国内系運用会社の株式運用部ファンドマネー
ジャーは「スピード感を持ってスムーズに立て直しを図るチャンス
を逸したのではないか」と話す。SRI(社会的責任投資)の観点
から、現経営陣の交代や外部からの経営トップへの就任が行われた
うえで、新たなコンプライアンス体制などが発表されれば、形式的
な投資除外条件はクリアする見通しという。「問題の全容が解明さ
れ(訴訟も含めた)ごたごたが収まり、ガバナンスの強化策などが
表明され、実際に機能してくるには1─2年はかかるだろう」(別
の国内投信シニアファンドマネージャー)とみられており、投資対
象とするには程遠いとの見方もある。
ウッドフォード氏は損失隠し問題で不明朗な資金の流れを指摘し、
昨年10月に社長を解任され、同12月に取締役を辞任した。その
後、経営陣の刷新に向け、会社側に臨時株主総会の早期開催を求め
るとともに、海外株主などと連携して委任状争奪戦に持ち込む構え
を示していた。
(ロイターニュース ティム・ケリー、白木真紀、大林優香;取材
協力 程近文、岩崎成子;編集 宮崎大)