「市気匠気(いちきしょうき)」
私自身の覚書として夏目漱石『文芸の哲学的基礎』より、
「文芸は感覚的な或物を通じて、ある理想をあらわすものであります。
だからしてその第一主義を云えばある理想が感覚的にあらわれて来な
ければ、存在の意義が薄くなる訳であります。この理想を感覚的にす
る方便として始めて技巧の価値が出てくるものと存じます。この理想
のない技巧家を称して、いわゆる市気匠気(いちきしょうき)のある芸
術家と云うのだろうと考えます。市気匠気のある絵画がなぜ下品かと
云うと、その画面に何らの理想があらわれておらんからである。ある
いはあらわれていても浅薄で、狭小で、卑俗で、毫も人生に触れてお
らんからであります。私は近頃流行する言語を拝借して、人生に触れ
ておらんと申しました。」(以下略)
――明治四十年四月東京美術学校において述――
「青空文庫」https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/755_14963.html
※「市気匠気」・・・【市気】人々の歓心を得ようとおもねる気持ち
【匠気】芸術家・職人などが技術・技巧に趣向
をこらす気持ち
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