「言葉のひびき」
(2)
かつて学生運動が盛んな頃、デモ隊の学生たちを扇動する活動家
は、学生たちに「諸君!」と漢字で呼び掛けることはあっても、決
してひらがなで「みなさん!」とは訴えなかった。
さらに言えば、戦時中、政府は国民全員を戦争遂行に協力させよ
うとの目的で「八紘一宇」「挙国一致」「堅忍持久」の三つのスロ
ーガンを掲げたが、これらは何れも漢字熟語で、この「漢字のひび
き」こそが我々に高尚な言葉のように感じられて何か上から押し付
けられている、そしてそれに応えなければならない思いにさせた。
それは、ニーチェの言葉を借りれば「声調における何か嘲笑めいた
もの、冷やかなもの、どうなりかまわんといったもの、なげやりな
もの、そうしたものが」やまとことばに慣れ親しんだ日本人に「高
尚なというふうにひび」いたのかもしれない。
(つづく)