(童話)万華響の日々

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三浦綾子作品ー7 「青い棘」 その印象

2012-07-06 21:59:29 | 読書三浦綾子作品

読書「青い棘」三浦綾子 学習研究社発行 昭和57年

日本の過去の侵略戦争へ関わった心の痛手と禍根、一方妻以外の女性との情事を男にとって自然なことと考える男の性の身勝手さという二つの異色な話題を登場人物たちの経歴や性格をうまく絡めて夫婦親子姉妹のそれぞれの生き方を問いみつめる。

邦越康郎は社会学の大学教授、後妻の富久江との間に長男、長女がいる。長男の寛は最近結婚し妻の夕起子は康郎夫婦と同居している。長女のなぎさは教員の佐山兼介と結婚し一女、加菜子をもうけている。しかし、なぎさは働きに出ており加菜子を夕起子に預け面倒をみてもらっている。

康郎には出征直前で結婚した緋紗子という妻がいたが、不幸にして終戦の日の一日前に江田島で船に乗って機雷で死んでしまった。康郎は緋紗子のことは富久江以外の誰にも話したことはなかった。

しかし、嫁の夕起子の物腰や声が緋紗子に酷似していることが康郎に夕起子への複雑な想いを抱かせるのである。

 一方、なぎさの夫の兼介は外に女をつくり妊娠させ堕胎させる。健介はなんら反省の態度がなく至極当然と言い放つ。
このことがなぎさや夕起子に知れ、なぎさは離婚をも決意しようとする。

夕起子は夫の寛が韓国へ出張にゆく際に、なぎさから寛が女遊びの誘惑にあうおそれがあると注意される。男のなかに蠢く浮気の虫を容認するかしないかというやりとりが結末まで続く。


一方で、夕起子もまた人気教授で義父である康郎に憧れていた自分の思慕の情をいかんともしがたいが、妊娠が分かったとき母となる重い責任に気づき夫の寛への信頼が肝心であると気づくのである。


 さて、本作品のもう一つの重いテーマが並行して流れる。それは戦争への嫌悪と過去の戦争への懺悔であり非戦・平和への厚い誓いである。康郎自身が南方へ赴いたとき、靴のひもがゆるんでいたため、いつもより朝の軍隊での整列に遅れたことで、友人が先に並ぶことになり、友は乗船した軍艦が撃沈されて死んでしまった。

そんな運命の分かれ目に遭遇し、自分の身代わりに死んだ戦友への申し訳ないという気持ちを抱き、かつ最初の妻の機雷死に遭うなど、彼は自己の過去にやりきれないこだわりを抱いてきた、それが
彼自身を社会学の教育に携わせてきて過去の戦争責任にかんして講演などでその責任思想を述べてきたのだ。

康郎が居住する北海道旭川での中国人連行強制労働による死亡事件の受難碑の前であらためて非戦への決意を確認し人の命の尊さを訴えている。

かつ、なぎさを通して夫との関係を天の父にゆだね、最後には善となしてくださるだろうと言わしめる、このような新たな希望を感じさせる展開が最後に待っていた。

「青い棘」という題名、抽象的で解りにくい。人の心の中にある棘だという。作者はそのすがたをまだ明確には示していないように思えるが、なぎさが神への信仰を持ってみたいとか、夕起子が自分の心の棘をはっきりと自覚するとか、男女の姦淫の底に潜むそのすがたはぼんやりと暗示されたように思える。それはキリスト教でいう「罪」といい換えてもいいのであろう。だが、非戦とのかかわりは中途半端に終わったという感じである。 (表紙写真は講談社版)


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