げしし。
まさかと思ったが、その笑い声。若旦那だ。
別に避けているつもりはないのだけれど、
仕事場の階段を降りたところに鎮座していたので、
逃げようにも逃げられず、世間話をする羽目に。
「げしし。映画にも詳しいんですよね」
ええ。まあ好きですけど、
そんなに詳しいわけではないです。
と謙遜したら。
「小津安二郎っていいですよね。げしし」
いきなり小津ですか。意外な名前が出ましたね。
それはまあ、小津はいいですよね。
「アレがいいですね。
笠智衆が死んじゃうやつ。げしし」
死ぬ? 笠智衆が?
それって「父ありき」ですか。
笠智衆が父親で、佐野周二が息子を演った。
二人で川釣りをするシーンが印象的な。
あれは確かにいい映画でしたけど。
「それじゃないです。アレですよ、アレ。
大阪万博に行って、そのあと死んじゃうじゃないですか。
あれは良かったですね。げしし」
それは「家族」じゃろが。監督は山田洋次じゃ。
こんくされ外道! 何まちごうとるんじゃ、あん?
とブギーマンのごとく、
首をちょん斬ろうと思ったけれど、
若旦那はまったく悪びれることなく、含み笑いを続けるのでした。
「げしし。同じ松竹じゃないですか。おおむね正解ですよ。
そういえば『シン・ゴジラ』また見ちゃいました。
エヴァの新作はいつになるんですかね。げしし」
ゴジラの話はもうええんじゃ。
これ以上言うなら、エヴァの新作を見れん体にしちゃる、
と言おうと思ったけど、
すでにブギーマンは精も根も尽き果ててしまったのでした。