昨日は立秋。早くも秋が来たのである。
このところの天候異変で、今も梅雨が続いているような様相である。今年は夏が来る前に秋が来たのではないか? からりとした夏の太陽も、青空にもくもくと浮かぶ入道雲も、ついぞお目にかからない。
入道雲はお目にかからないが発生はしているらしく、山口、北部九州を襲った大雨のニュースでは、気象予報士の方々がいつも入道雲の話をしていた。たしかに、入道雲も発生しないでは、あんなにひどい雨は降ることもないのだろうから。
この時節の酒は何だろう。と言われても、夏をすっ飛ばしたので秋と言われてもぴんとこない。今から短い夏が来るのであろうが、そのあとに一挙に来た秋では酒も間に合わないかもしれないから、秋の酒を探そう。
俳句の季語では、新酒も古酒も秋である。新酒は文字通りその年の米で造った生まれたばかりの酒であるが、今は早くてもその年の米の酒は冬になり、むしろ翌春先の方が新酒としてはぴんと来る。私の持論は、昨年冬から今年の春にかけて造った酒を、夏の間寝かせて(熟成させて)、この秋に出すものが本来の酒(特に純米酒)と思っているので、これを新酒と呼ぶべしと思っている。
古酒は、昨年造った酒が一年たった今も残っているものを古酒と呼び、従ってちょうど秋の季語に相当することになるのだ。つまり季語の古酒は、単に去年の酒と言う意味だ。前述した私の新酒は古酒の部類に入るのかもしれない。しかし本来の古酒は、少なくとも三年は寝かした酒を言うべきだろう。
8月も中旬を過ぎて朝晩が涼しくなる頃、気持ちよい冷気の中で飲む古酒は美味しい。昨夜、岐阜県美濃加茂市の『御代桜』の古酒を飲んだ。20年以上熟成させた酒で、「大寒手造り山田錦仕込み長期塾成瓶囲い」とある。
毎年この時期になると友人が送ってくれる酒で、まろやかな味と熟成香が何ともいえない。天麩羅や野菜の煮付けなど、日本伝来の食べ物にぴったり合う。一挙に飲むのはもったいない。少し秋が深まるまで保存しながらちびちび飲(や)ろう。
秋風に中々古酒の酔長し 松根東洋城