スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

悪霊 別巻&本性の必然性

2017-06-05 19:13:15 | 歌・小説
 『謎とき『悪霊』』や『ドストエフスキー『悪霊』の衝撃』のような評論だけでなく,亀山郁夫には『悪霊』そのものの翻訳本もあります。そしてその別巻として,最初に『悪霊』が連載されたときには編集者によって排除されてしまった第二部の第九章だけを選抜して翻訳したものがあります。
                                     
 ここだけを選抜して翻訳するのにはある意図があります。実はこの部分には内容に異同がある3種類の原稿があるのです。この『悪霊 別巻』では,その3種類がそれぞれ訳され,その内容にどのような相違があるのかが分かりやすく示されています。単に各々の原稿の翻訳だけで構成されているわけではなく,冒頭に亀山による注意書きも含まれています。
 3種類がどのようなものかを簡単に説明しておきます。第一のものは初稿版です。『悪霊』は「ロシア報知」という雑誌に掲載されたのですが,これは最初にドストエフスキーが雑誌の編集者に送り,誤字や脱字等の編集だけを受けたものです。ドストエフスキーは送られてきたその初稿に,加筆と修正を加えました。それが第二のもので,ドストエフスキー稿です。僕は『悪霊』は新潮文庫版で読みましたが,そこではこの部分は本文中ではなく巻末に入れられていて,その本文は初稿版で,ドストエフスキー稿との相違は分かるようになっています。つまりこれらふたつの訳は新潮文庫版でも読むことができます。なお,この部分は第二部第九章ですが,ドストエフスキー稿では第十部第一章となっています。ただ,もし本文に挿入されるのなら,その位置は同じです。
 このほかに,ドストエフスキーの死後に夫人であるアンナが清書した原稿というのがあって,これが第三のアンナ稿です。初稿とドストエフスキー稿はドストエフスキーによる加筆と修正の相違があるだけですが,このアンナ稿はそれらとの相違はより大きくなっています。なお,初稿とドストエフスキー稿には中途に脱落があり,アンナ稿は中途で終了していて未完です。
 この部分は独立したものとして読んでも十分に楽しめます。相違を知りたい人だけが読むべきものではなく,ドストエフスキーによる短編を読みたいという場合にも読む価値があるものだと思います。

 は自己原因causa suiなので,神の本性natura,essentiaのうちに神が存在することが含まれています。これが神の存在を決定する法則です。スピノザが神の本性の必然性necessitasというとき,その原点はこの法則にあると解してよいでしょう。いい換えれば,スピノザがいう必然性とは法則のことにほかならないと考えて間違いではないということです。
 神は単に神自身の存在existentiaを決定する原因であるのではありません。神は自己原因であるといわれるのと同じ意味において万物の原因でした。同時にそれは,単に万物が存在する原因であるということを示すだけではなく,万物の本性の原因であるということも示すのでした。したがって,万物が存在に決定される法則,また同時に万物の本性が決定される法則は,神の本性によって神の存在が決定されるその法則と同一の法則でなければなりません。そうでないと神が自己原因であるというのと神が万物の原因であるということが同じ意味となり得ないからです。
 僕はかつてスピノザの哲学には二種類の因果性があるかないかということについて詳しく探求したことがあります。そのときには,第一部公理三を援用して,原因と結果との間の必然性は,どのような場合にあっても同一の必然性でなければならないので,種類によって,いい換えるなら数的に区別できるような複数の因果性があってはならないという観点から,その必然性は「唯一」でなければならないと結論しました。すなわちいわゆる垂直と水平の因果性は,実際には同一の因果性であると考える必要があるといったのでした。それと同じように,神が自己原因である必然性すなわち法則と,神が万物の本性および存在の原因であるという必然性は,同一の必然性でなければならないのです。
 すると,僕たちが自然のうちに認識するような必然性すなわち法則は,神の本性の必然性すなわち法則と同一の必然性でありまた法則であるということになります。つまり僕たちが一般的に自然法則というものは,神の本性の必然性にほかなりません。このことは延長の属性Extensionis attributumにも思惟の属性Cogitationis attributumにも同様に妥当するのですから,僕たちが自然法lex naturalisと解するものも実は自然法則と同一であることになります。

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