スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

Kの恋心&植物の認識

2017-10-19 19:27:39 | 歌・小説
 Kが奥さんに「私は金がない」と言ったのは,先生との結婚を「祝えない」という意味だったのであり,奥さんや静に対して嫌味を言ったわけではないと僕は読解しています。その根拠に,先生とKの関係が裕福な男と困窮した男であるということについて,Kの自己意識はきわめて稀薄であった,というか意識されているならKにとっては誇りであったという点を示しました。つまりこのときにだけ都合よく卑屈にそれを想起する可能性は低いとみるのです。そしてもうひとつ,別の根拠もあります。
                                     
 Kが嫌味を言ったのならば,それが嫌味であるということが相手に伝わらなければなりません。この場合は奥さんがそれを嫌味であると理解できる,実際に理解するかはともかく,理解する可能性はあるとKが考えているのでなければ,Kは嫌味を言いません。嫌味を言うとはそういう行為であるからです。
 もしこれを嫌味と解するなら,先生は金があるから静と結婚できるが,自分は金がないから結婚はおろかお祝いもあげられないという意味である必要があります。するとこの意味が奥さんに伝わるためには,K自身が静との結婚を望んでいるということを奥さんが知っているという必要があります。先生もKも静と結婚したいから,金がある先生が結婚して金がない自分は結婚できないという意味が奥さんに伝わることになるからです。
 ところが,奥さんはそのことを知りません。あるいは少なくとも,奥さんがそれを知っているということをKは確実に認識できていません。Kは自分の静に対する恋心を,先生にだけは話しましたが,先生以外のだれにも話していないということがテクストから明らかになっているからです。つまり話していない自分の恋心を,奥さんが知っているとはKは認識していないのです。そしてそうであるなら,自分がこのような嫌味を言ったとしても,奥さんにそれは伝わらないとKは認識した筈です。
 よってKがこの意味の嫌味を言うことはないでしょう。だからそれは嫌味ではなかったと僕は解するのです。

 植物一般の本性essentiaなるものが存在するのであるとしたら,それは植物一般が現実的に存在する限りにおいて存在するというものではありません。いい換えれば,もし地上からありとあらゆる植物が絶滅してしまったとしたら,確かに植物の本性もまたそれと同時に消滅するといわなければならないのですが,それは単に時間tempusの下において消滅するという意味でしかなく,神Deusの属性attributumのうちでは永遠に存在するのであり,この意味においては植物一般の本性は消滅しません。そして同時に,植物が現実的に存在する限りにおいて植物の本性も現実的に存在するすなわち持続するdurareといわれ得るのですが,その間にも植物の本性は永遠なaeternusものとして神の属性のうちには存在しています。これらのことは第二部定理八系から明らかであるといわなければなりません。
 次に,第三種の認識cognitio tertii generisというのはものの本性を永遠の相species aeternitatisの下に認識するあり方です。よってそれが神の属性のうちにあるとみなされるような事柄については,第三種の認識の対象ideatumになるといわなければなりません。あるいは少なくとも,それは第三種の認識によって認識され得るあるものでしょう。よって,ゲーテJohann Wolfgang von Goetheが植物一般の本性を認識し得るということ,実際にそうしていたかどうかは別に,それがゲーテにとって可能であったということについては,これで担保されることになるでしょう。
 一方,もし植物一般の本性は第三種の認識によっては認識できないのだと仮定する場合でも,以下のようなことは可能です。
 第五部定理二四の意味から明らかなように,スピノザは現実的に存在する人間の精神mens humanaが個物res singularisを第三種の認識で認識することが可能であるということについては肯定します。これを肯定しないとこの定理Propositio自体が何も意味を有さなくなるのですからこれは明白でしょう。したがって少なくともあの植物,この植物といわれるような個々の植物については,僕たちは第三種の認識によって認識することができるのです。そこでもしゲーテがこの仕方で各々の植物について第三種の認識によって認識していたとしたら,各々の植物に共通する本性についても第三種の認識によって認識していたといわねばなりません。

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