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スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第三部定理一五備考&自殺の肯定

2025-07-09 10:29:59 | 哲学
 スピノザが同感sympathiaおよび反感antipathiaについて語っているのは第三部定理一五備考です。その冒頭で次のようにいっています。
                       
 「これによって我々は,その原因を知らずにただいわゆる同感〔先入的好感〕および反感だけからある物を愛したり憎んだりするということがどうして起こりうるかを理解する」。
 これというのは当然ながら第三部定理一五でありまた第三部定理一五系のことです。そこでいわれているのは,あるものは偶然によって喜びlaetitiaや悲しみtristitiaの原因causaとなり得るということであり,またそれが偶然であるのにそのものを愛したり憎んだりもするということです。これは偶然の原因ですから先入観にほかならないのであって,僕たちはその先入観によってものをのを愛することもあるし憎むこともあるのです。
 このときに岩波文庫版の訳者である畠中尚志は,同感に対して先入的好感という訳注を入れました。この訳注が入れられているのにもはっきりとした理由があります。スピノザはこの備考Scholiumの終りの方で,同感とか反感という語は,通常は事物の中に隠れた性質を表そうとする場合に使用されるという意味のことをいっています。ここでスピノザが同感および反感という語で示そうとしたのは,事物の性質ではなく事物を観想するcontemplariときの人間の思惟作用についてです。たぶんスピノザの時代には,同感も反感もスピノザがいっているような意味で使用される語であったのであり,しかしスピノザはそれとは異なった意味で同感といいまた反感といったのです。なのでそれが事物の性質ではなく思惟の様態cogitandi modiであるということを強調するために,この訳注を入れる必要があったのです。
 たぶんスピノザはこの影響があって,同感も反感も感情affectusとしては定義しませんでした。この種の感情は,同感については好感propensio,反感については反撥aversioという別の語を用いて定義することになったのです。

 これを『エチカ』に沿って考えていきます。
 第二部定理四八でいわれているように,ある意志作用volitioは何らかの原因causaによって決定され,その原因もまた何らかの原因によって決定されるといった具合に,この因果関係の系列が無際限に続いていくことになります。ただ,第二部定理四九でいわれているように,個々の意志作用というのは個々の観念ideaを肯定しまた否定するnegare作用のことなのですから,これは第二部定理九に訴えることによっても論証することができます。他面からいえば,第二部定理九と第二部定理四九を合わせれば,個々の意志作用というのは何らかの観念,ある意志作用を伴なった観念を原因とするという関係が無際限に続いていくということが理解できます。
 そこで現実的に存在するある人間の精神のうちにXという観念があるとして,その観念がそれを否定する意志作用を伴なっていると仮定しましょう。一般に何事かを苦にするといわれるときにはこうした思惟作用がその人間の知性intellectusのうちにあるということができます。病気を苦にするといったらXが病気であるということですし,借金を苦にするといえばXが借金であるということになるからです。
 ここではこれが否定する意志作用を伴なっていると仮定されていますから,その人間はそれを忌避しようとするコナトゥスconatusを有します。これは第三部定理一三を参照すれば,なぜそのようにいえるのかということが理解できると思います。このときに,自殺をするということがその苦しみから逃れることであると表象されるならば,少なくともこの限りにおいては自殺の観念はそれを肯定するaffirmare意志作用と同時にあるということになるでしょう。これはあくまでもこの限りなのであって,自殺の表象像imagoは別の表象像とも因果関係で連結されますから,そのときにはそれがそれを否定する意志作用と同時に存在する場合があります。要するに同じ人間の精神のうちで,自殺の表象像がそれを肯定する意志作用とともにありかつそれを否定する意志作用とも同時にあるという場合もあり得ます。ただここでは,少なくともそれが,それを肯定する意志作用とともに精神のうちにある場合があるということが重要です。

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