晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「婚約者の友人」(16・仏/独 )85点

2018-04-20 16:16:21 | 2016~(平成28~)

・ 嘘をテーマにしたオゾン監督・脚本によるミステリー・タッチの人間ドラマ。




1919年ドイツとフランスを舞台に、戦死した婚約者の謎めいた友人と残されたヒロインによるミステリー・タッチの人間ドラマ。

モウリス・ロスタンの戯曲を映画化したルビッチ監督「私の殺した男」(32)のリメイクだが、フランソワ・オゾン監督が大胆に翻案している。

時代の雰囲気を出すためか35ミリフィルムのモノクロ画面とロマンティックな音楽が静謐な雰囲気を醸成してくれる。

ドイツの田舎町に住むアンナ。フランスとの戦いで婚約者フランツを亡くし、フランツの両親とともに悲しみに暮れる日々を送っていた。
ある日、フランツの墓前で花を手向け泣いている見知らぬ男を目撃する。

男はアドリアンというフランス人で、フランツの家に訪ねてくると問われるままに戦前のパリでフランツと知り合い親しくなったと言い、想い出を語り始める。その話を聴くうちアンナや最初は拒絶していた父親たちの癒しとなっていく。

だが、男には秘密があった・・・。

アドリアンはパリ管弦楽団のバイオリニストで、苦悩を抱えた繊細な芸術家タイプ。女性的な面や脆さを窺わせた風貌で演じたピエール・ニネが謎めいていて、ミステリー感満載だ。
筆者はてっきり彼の秘密は同性愛ではないか?と推測した。仲良くルーブル美術館を散策したり、彼の手引きでヴァイオリンを弾く回想シーンは色鮮やかなカラー画像となっていたからだ。

アドリアンにフランツの友人以上の感情を抱き始めたアンナにとって彼の秘密は驚愕そのものだった。その秘密を告白するためにドイツにきたという。アンナは、両親には自分が伝えるといってアドリアンを追い返してしまう。

アンナに扮したのはオーディションで選ばれた21歳のパウラ・ベーア。一途さと力強さを兼ね備えた可愛らしい瞳が印象的で、ヴェネチアの新人賞を受賞している。

ルビッチ作品とは違って、本作はドイツ人アンナの視点で描写される。そのため終盤までミステリー・タッチが生かされ、さらに当時のフランスを客観的に捉えている。アドリアンがドイツで受けた仕打ちは、後半パリに渡ったアンナが観た光景となって展開する。まるでナショナリズムが蔓延しそうな今のヨーロッパへの警鐘のようだ。

アンナは嘘をつくことで神に赦しを請いフランツの両親を救うが、アドリアンはアンナを傷つけたことに気づくのがあまりにも手遅れだった。
彼女はルーブル美術館で<若者が仰向けになっているマネの絵>を観ることで生きる勇気が沸いてくるという。

歴史はさらに過酷な第二次大戦を迎えるが、アンナには新しい人生を生き抜いて欲しいと願わずにはいられないエンディングだった。

40代の最後で、成熟した大人向け映画を作ったオゾンに拍手を送りたい。