晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「華様年華」<00・中国(香港)> 80点

2016-03-26 15:03:50 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ ストイックな大人の恋愛映画を描いたウォン・カーウァイ。

                   

 カンヌ映画祭で60年代香港の魅力を存分に披露したウォン・カーウォイの製作・監督・脚本による本作。静謐でスタイリッシュな映像と絶妙な間に流れる様々な音楽とともに観る人の想像を掻き立てる大人のラブ・ストーリー。

 新聞の編集者チャウ(トニー・レオン)と商社秘書のチャン夫人(マギー・チャン)は偶然同じ日にアパートに引っ越して隣人同士となる。

 チャウにはホテル勤めの妻がいて、チャン夫人の夫は海外出張が多く互いにスレ違い夫婦だった。やがてお互いの最愛のヒトに夫々愛人がいることに気付き、2人が度々会話するようになる・・・。

 文学的にいえば、<禁断の愛>だが平たく言えば<不倫の恋>で、表現次第では所謂<ロマン・ポルノ風>映画になりかねないテーマ。

 ラブ・ストーリーには不可欠なベッド・シーンは全く登場せず、キス・シーンすらない。夕食を共にするなど、何度も逢瀬を重ねながら手を握ることすらしない前半の2人。

 クリストファー・ドイルのハイ・スピードカメラが2人を追いながら、<夢二のテーマ音楽>が流れる香港の路地裏はオリエンタル・マジックそのもの。

 なかでもT・レオンが煙草をくゆらすシーンは男の色気を感じ、襟が高いチャイナドレスに包まれた妖艶なM・チャンの官能美に目を奪われる。

 僅かに手を握り合い、チャン夫人がチャウの肩に頭をもたれ掛かったり涙を流し抱き付くシークエンスで、禁欲的な物語の進展度合いを描くことによって文学的表現を具現化している。

 主演のT・レオンは、ヴェネツィア金獅子賞受賞作品「ラスト・コーション」(06)で魅せたヌードのベッド・シーンとは好対照な内省的な演技で、見事にカンヌの主演男優賞を受賞している。

 禁断の愛に相応しいナット・キング・コールの「チーク・トゥー・チーク」「キサス・キサス・キサス」が流れ、随所に魅力的な緑や深紅が目に鮮やかに焼き付いたスレ違いのメロドラマは、シンガポールとカンボジア・アンコールワットで終焉を迎える。

 <アートを気取った独りよがりで中身のない恋愛映画という評価>もあるが、筆者は欧米では描けない<東アジアの神秘性を見事に映像化した深遠な大人のラブ・ストーリー>だと思う。

「巴里のアメリカ人」(51・米) 70点

2016-03-22 16:04:16 | 外国映画 1946~59

 ・ ミュージカル映画はアメリカの誇り!

                   

 ジーン・ケリーといえば、フレッド・アステアと並んでダンス・ミュージカル映画のスターだが、タキシード姿で華麗にタップを踏むF・アステアに対して、G・ケリーは肉体派でキャップが似合いそうなイメージがあったのは本作のせいか?

 パリで画家として身を立てようとしていたジェリー(G・ケリー)は、ミロ(ニナ・キャロン)のバックアップを受けるが、酒場で出逢ったリズ(レスリー・キャロン)に一目惚れ。

 リズには歌手のアンリ(ジュルジュ・ゲタリ)という婚約者がいるが、だんだんとジェリーに惹かれていく。ジェリーは皮肉にもピアニスト・アダムの紹介でアンリと友情を誓う間柄となっていた。

 ガーシュインの<パリのアメリカ人>をバックにジャズとクラシックが融合し、タップとクラシック・バレエが画面いっぱいに繰り広げられる本作の魅力は、大画面で観るとさぞかし華麗でダイナミックに感じることだろうが、残念ながらその機会に恵まれていない。

 ミュージカル音痴の筆者でも、ジェリーとアンリの「スワンダフル」は魅力的だし、ラストの20分弱のロートレックなど名画をバックに素敵な衣装で踊るG・ケリーとL・キャロンのダンス・シーンは圧巻!L・キャロンはG・ケリーに見出されこれがデビュー作。キュートだが美人ではないのに、G・ケリーと踊るシーンはまさに息がぴったり。

 ガーシュイン好きにとっては、アダムに扮したオスカー・レヴァントが奏でるピアノや、指揮者になった幻想シーンなど見所が満載だ。

 アカデミー作品・脚本・撮影など6部門を受賞しているが、G・ケリーは「羅生門」の黒澤明ともども名誉賞に止まっている。監督のヴィンセント・ミネリも受賞ならなかったが、後にL・キャロン主演による「恋の手ほどき」(58)で獲得している。

 いま観るとストーリーが安易な気もするが、「雨に唄えば」(52)とともにG・ケリーのダンス・ミュージカル映画の代表作で、アメリカの誇りを感じる映画史に残る作品だ。
 
 

「エール!」(14・仏) 75点

2016-03-19 17:50:59 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ ハンディキャッパーを美化したり卑下したりしない仏映画。

                   

 昨年6月、東京有楽町で開催したフランス映画祭のオープニング上映され観客賞を受賞した本作。原題は「ペリエ一家」で、ヴィクトリア・ブドスの原作を「プレイヤー」(12)のエリック・ラルディゴが脚本・監督した<ひとりの少女の成長と自立の物語>。

 酪農経営のペリエ家は、長女のポーラ以外両親と弟が聴覚障害を持っているが、「耳が聴こえないことは個性である」という父のもと、ハンデキャッパーであることを卑下しない暮らしをしている。

 ポーラが通訳の役目を果たし、健常者とのコミニュケーションは不自由していない。高校生になったポーラはコーラス部に入部するが、音楽教師が個人レッスンでその才能を見出しパリの音楽学校への進学を勧められる。

 家族でかけがえのない役割を果たしているポーラ。家族の反対もあってパリでのオーディションをためらうが・・・。

 ポーラは本来中学生ぐらいが相応しい役柄だが、演じたのは映画初出演の歌手で当時16歳のルアンヌ・エメラ。仏オーディション番組「The Voice」で準優勝して監督の目に留まった。

 とても素直な演技は彼女自身がオーディション育ちなので、身近な役柄だったからかもしれない。手話も特訓で見事にこなしている。

 母・ジジ役のカリン・ヴィアールは「しあわせの雨傘」(10)などの著名な女優。父・ロドルス役のコメディアン、フランソワ・ダミアンは台詞(音声)がなく演技力を問われる役柄。

 手話とその仕草で、明るく陽気な美しい母と、猪突猛進だが思い遣りのある父をそれぞれ鮮やかに演じていた。弟のカンタン役のルカ・ジェルベールは聴覚障害者だが、事実を知らなければ一家は本当の家族のようだ。

 ポーラが歌うミシェル・サルドゥのシャンソン「Je Vole」は、本作のハイライト。

 シリアスなテーマなのに、下ネタなどコミカルな逸話を交えながら必要以上に美化することなく、<家族の絆の深さ>が全編に渡って感じられる良作だ。

「ヴィンセントが教えてくれたこと」(14・米)80点

2016-03-18 12:08:54 | (米国) 2010~15

 ・ ハートウォーミングなB・マーレイのコメディはハリウッドの王道!

                    

 NYブロンクスに住む独居老人のヴィンセント。酒とギャンブルに明け暮れ破産寸前だが、クライスラー ルバロン・コンパーチブルを乗り回している。ロシア人ストリッパー・ダカと懇ろになるなど、エネルギッシュな姿勢は崩そうとしない意地っ張り。

 隣に引っ越してきたシングル・マザーのマギーにも不愛想で毒舌を振りまく。ひ弱な息子・オリバーが学校でイジメられたことがキッカケで、シッターを引き受けたヴィンセント。

 もともとヤル気がないので競馬場やバーなど小学生には相応しくない場所へ連れて行き、馬券やドリンクのオーダー、喧嘩のやり方などを教え込む。

 「ブロークン・フラワーズ」など、偏屈だが何処となく憎めない老人の人生を紐解くと若い頃の人生が垣間見られ、ほろりとするという役柄に定評があるビル・マーレイ。キャリア・ハイの演技で魅了してくれた。

 このハリウッドの王道を行くハートウォーミングなコメディを製作・演出・脚本を担当し映画化したのは、本作がデビュー作のセオドア・メルフィ。予定調和という批判もあるが、破天荒なヴィンセントの人物像がだんだん明らかになっていくというシナリオがなかなかいい。

 撮影が進むにつれて子役嫌いで有名なB・マーレイに気に入られた、オリバー役のジェイデン・リーベラーは当時10歳。その可愛らしさと演技力の確かさで、将来のデカプリオを目指して欲しい逸材だ。

 2人と肩を並べるほど素晴らしい演技で役に成り切ってダカに扮したのがナオミ・ワッツ。決して若くはないロシア人ポール・ダンサーで、妊婦の娼婦という汚れ役なのに明るく前向きに生きている。とてもダイアナ妃を演じたとは思えないはまり役で、オスカーにノミネートすらなかったのが不思議。

 マギー役のメリッサ・マッカーシーやオリバーの教師クリス・オダウド、ヤクザの金貸しテレンス・ハワードなど手堅く抑えた演技で周りを固めているのも好感が持てる。

 介護・貧困・いじめ・人種問題などシニカルなテーマを交えながら、人生はそんなに捨てたもんじゃないという希望を持たせてくれた本作。

 ボブ・ディランの「嵐からの隠れ場所」が効果的に使われているのも、見終わって清々しい気分にさせてくれた。

「誰が為に鐘が鳴る」(43・米) 60点

2016-03-13 18:20:49 | 外国映画 1945以前 
 ・ スペイン内戦を背景にしたメロドラマは、第二次大戦中に製作された。

                    

 アメリカの文豪アーネスト・ヘミングウェイの長編小説を、「打撃王」(42)のサム・ウッド監督、「駅馬車」(39)のダドリー・ニコルズが脚色した、スペイン内戦を背景とした戦争ドラマ。

 ’30年代後半、米国の教授ロバート・ジョーダン(ゲイリー・クーパー)は、スペイン人民戦線派を応援する国際義勇軍に参加していた。

 フランコ軍補給路である北部峡谷に架かる橋の爆破命令を受け、同志でジプシーのアンセルモを連れて山間に向かう。そこに潜むゲリラの元闘士・パブロに協力を仰ぐが、そのゲリラたちの食事世話係にマリア(イングリッド・バーグマン)がいた。

 一瞬でローバートとマリアは恋に落ちる。

 鉄橋爆破の期限は3日後未明という緊迫感の中でゲリラたちの内部分裂の様子が描かれているが、本作最大の見所はロバートとマリアのラブ・ロマンスの行方。

 「キスのとき鼻が邪魔?」という有名なシークエンスも、スター2人によるアップ多用が為せる業。

 国際義勇軍に参加した経験をもとに40年に出版した原作者のヘミングウェイは、政治的描写が殆ど描かれずヒタスラ2人のラブストーリーに焦点が当たった映画化に不満があったようだ。

 I・バーグマンは気合充分の熱演だったが、筆者には本人の意向とは裏腹に、「カサブランカ」(42)のほうが数段美しく出来も好ましく映った。
 
 著名な原作を優れたスタッフ・有名なスター俳優を起用したカラー作品は、オスカー9部門にノミネートされた。
 
 しかし受賞したのはゲリラの妻ピラー役のカティナ・パクシノウの助演女優賞だけだったのが本作を象徴している。

 だが、第二次大戦中にこのような映画を製作したハリウッドの底力を感じさせる作品であった。
 

「家族ゲーム」(83・日) 60点

2016-03-11 17:06:21 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 
 ・ 80年代、家族の在り方を問題提起したブラック・ユーモア。

                   

 本間洋平の原作を森田芳光が監督・脚本化した話題作。バックに音楽を一切使わず、SEだけで臨場感を出したり、家族の食卓はいつも<最後の晩餐>のような横一列など、ユニークな表現法で度肝を抜いた。

 ウォーター・フロントの高層マンションといっても、何となくアパートのような建屋に住むサラリーマン一家。

 父親(伊丹十三)はいつも仕事にカマケテ、子供たちのことは妻に任せっきり。母親(由紀さおり)は専業主婦で家を離れることなく、息子2人の心配ばかり。

 兄(辻田順一)は名門高校に合格したが、やりたいことがあり学校も休みがち。弟は中学3年生で成績は下から9番目のいじめられっ子。

 そんな弟・茂之(宮川一朗太)に家庭教師・吉本(松田優作)がついた。

 ドラマは茂之と吉本の可笑しな絡みを中心に、当時中流家庭といわれる普通の家族が如何に表層的で自分のこと以外興味関心を持っていないかを、コミカルに誇張して描いている。

 森田監督は若手のホープとして注目を浴びていた。本作で邦画界を牽引する監督として期待されたが、惜しくも11年61歳で亡くなりこれが代表作となった。

 筆者にとって、三谷幸喜と並んで肌が合わない人で、才能は認めるが劇場で観たいとは思わない監督なので、どうしても粗探しになるため長文は控えたい。

 巷間高評価の食卓シーンも単なる悪ふざけにしか見えなかったし、名ラストシーンも技巧的に走り過ぎた気がした。

 この年を代表する邦画の名作をこれ以上けなすのは控えよう。故・森田監督、松田優作、伊丹十三に合掌!

 

「バベットの晩餐会」(デンマーク・87) 80点

2016-03-10 18:34:27 | (欧州・アジア他)1980~99 

 ・ 料理と芸術は人の心を豊かにしてくれる。

                     

 19世紀、デンマークのユトランドを舞台に、牧師の父親とその遺志を継いで伝道師となった姉妹の半生を描いた小品だが心に染み入る大人の寓話。ガブリエル・アクセル監督・脚本によるアカデミー外国語映画賞受賞作。

 原作は自伝的小説「愛と哀しみの果て」(アフリカの日々)のカレン・ブリクセン。

 寒村で慎ましく暮らす人々を導くプロテスタント牧師一家は父と美しい姉妹の3人家族。そんな処へやってきたスエーデンの若い士官ローレンスは姉・マーチネに好意を抱く。後ろ髪を引かれながら別れを告げ、恋は実らなかった。

 パリの人気歌手パパンは、不安な気持ちを静めるためにユトランドにやってきて、妹・フィリパの美声に驚き父親にレッスンを申し入れる。「ドン・ジョバンニ」のデュエットがもとで傷心のままパリへ戻っていく。

 1871年パパンの手紙を携えた女性が、初老となった姉妹の家を訪ねてくる。2人はパリ・コミュンで身寄りのない女性・バベット(ステファーヌ・オードラン)を家政婦として受け入れる。

  清貧な暮らしの姉妹は、干しカレイを湯で戻し乾パンをビールに浸して食べるのが日課。バベットはコンビーフに塩を買う余裕ができ、姉妹が感心するほどのやりくり上手だった。

 十数年後、バベットが宝くじで1万フランが当たったという手紙が届き、姉妹はバベットとの別れを予感する。

 村人たちも年を取り我儘や愚痴が多くなり布教も儘ならない姉妹は、亡き父の生誕百年の会開催を思いつく。コーヒーとパンだけのつもりだった会を、バベットは仕切らせて欲しいと願い出る。
 
 バベット一世一代の晩餐会の料理は姉妹にとって魔女の料理だった。

 前半の小さな漁村の質素な暮らしを淡々と描いて後半は対照的にフランス料理の調理と晩餐会の様子を丁寧に描き、料理とは?心の豊かさとは?幸せとは?を問いかけてくる。

 バベットの料理が如何に素晴らしいかを将軍になったローレンスが解説してくれるのが楽しい。一流シェフの料理はワインの選定から、おもてなしの心遣いまで全てが芸術なのだ。

 プロテスタントの食事は概して慎ましく、黙々と食べることが当たり前のようで、美味しいは禁句のよう。それでも村人たちは美味しさが顔に出て、いがみ合っていた人々が和やかになっていく。

 バベットの晩餐会は人々を幸せにして、自身の芸術心を満たしてくれるものだった。

 来月デジタル・マスターズ版がロードショー公開されるが、大画面で見るとその幸福感が倍増するかもしれない。
 
 

 

「カサブランカ」(42・米) 85点

2016-03-09 17:06:12 | 外国映画 1945以前 
・往年の一大メロドラマは、プロパガンダ映画だった・・・。

                   

 07年、AFI(アメリカ映画協会)が選んだ作品ランキングに堂々3位にランクされた本作。「君の瞳に乾杯!」など数々の名台詞をはじめ散々語り尽くされた名作でオスカー3冠(作品・監督・脚色)を受賞している。

 第二次大戦下、戦禍を免れ欧州からアメリカに逃れるためには、どうしても通らなければならない仏領モロッコのカサブランカ。
 ここでカフェ・アメリカンを経営するリック(ハンフリー・ボガート)のもとへ、かつて恋人だったイルザ(イングリッド・バーグマン)が夫のレジスタンス指導者・ラズロとともに現れる。

 ピアノ弾き・サムが歌う「時の過ぎ行くままに」(As Time Goes by)がパリでの2人の烈愛ぶりを蘇らせる。
 「君は何者で今まで何をしていたんだ?」(リック)、「聞かない約束よ」(イルザ)、「君の瞳に乾杯!」(リック)

 20代に初めて観たとき、顔に似合わずなんてキザな台詞だろうと思ったが、これが男のダンディズムなんだなと納得する展開であった。

 「君と幸せだったパリの思い出があるさ」という精一杯のやせ我慢も泣かせる。

 30年代、ハンフリー・ボガートは敵役が多かったが、「マルタの鷹」(41)と本作で主役スターへ躍進し、99年AFIで男優の1位に選ばれている。当時、帽子にコートの襟を立てたスタイルや、煙草の銜え方などに憧れた似非ボギーがいたという。

 そういえば阿久悠が作詞した沢田研二のヒット作に「時の過ぎ行くままに」「カサブランカ・ダンディ」という歌があった。
 
 I・バーグマンは「別離」(39)でハリウッドで知られ、本作でトップスターとなったスウェーデンの美人女優。本作でもアップを多用してその美貌を際立たせ、ボガート夫人に浮気を疑われたほど。

 とぼけた署長・ルノー(クロード・レインズ)が、親独・ヴィシー政権下のフランスの複雑な立場を象徴するように、アメリカにとって欧州の情勢は傍観している場合ではなかった。

 アメリカも欧州戦線に参戦するには、世論を納得させる必要があった時期。本作がその一助となったプロタバンガ映画であったことは、間違いなさそうだ。

 当初キャスティングされていたロナルド・レーガンが演じていたら映画の評価も大分違ったものになったことだろう。
 

「ヨーク軍曹」(41・米)70点

2016-03-08 17:05:06 | 外国映画 1945以前 

 ・ 善良なアメリカン・ヒーローを描いた<戦意高揚映画>。

                    

 アメリカがドイツに宣戦布告した第一次大戦中、アルコンヌ攻撃で20名を射殺、132名を捕虜にした英雄アルヴィン・ヨークの伝記映画。

 監督はハワード・ホークス、ヨークを演じたゲーリー・クーパーがオスカー主演男優賞を受賞した。

 テキサスの片田舎の貧農で、酒を飲んで暴れる乱暴者のアルヴィン・ヨークだが母親には従順で、昼は懸命に農地を耕す4人家族の長男。

 ある日、出会ったグレイシー(ジョーン・レスリー)に恋して一念発起、土地を手に入れようと昼夜違わず働くが恋敵サムに奪われてしまう。

 傷心のアルヴィンは彼に復讐しようとするが、雷に打たれ教会の讃美歌488に惹かれ信仰に目覚める。感動的だが、素直に受け取れないシークエンス。名優ウォルター・ブレナンが牧師役に扮し、味のある演技をしていても不自然さは否めない。筆者がクリスチャンではないためか?

 信仰による<良心的兵役拒否>も実らず入隊する。聖書の教えと戦争の矛盾に悩み上官と論争するが、10日間の休暇をもらって従軍を決意。1918年10月8日アルコンヌ攻撃で殊勲をあげ一躍アメリカの英雄となる。

 公開されたのが第二次大戦突入直後のこの映画は、<戦意高揚映画>の役割を果たして大ヒットした。巨匠H・ホークス監督は単なるプロパガンダ映画になるのを回避して何とか面白いものになるよう苦心の跡が窺える。

 主人公の泥臭く誠実な人柄を強調しながら善良なアメリカン・ヒーローに描いて、G・クーパーの新しい面を惹きだし見事オスカー受賞に結びつけている。

 <自由を守るための戦争>という大義名分はアメリカの歴史から消えることはないだろう。一歩間違えるとトンデモナイ愚作になりかねない本作は、スタッフ・俳優の頑張りで名作となることができた。

「白い肌の異常な夜」(71・米)70点

2016-03-05 08:55:58 | 外国映画 1960~79

 ・ 邦題から妄想したイメージとは違う?サイコ・サスペンス。

                   

 原題は「THE BEGUILED」だから<騙し>という意味だが、邦題は何とも思わせぶりでポスターもヒット作「ローズマリーの赤ちゃん」を意識したホラー映画の趣き。

 南北戦争末期、南部ルイジアナにあったファントワース女子学院に負傷した北軍兵士が運び込まれた。院長・マーサ(ジェラルディン・ペイジ)は、南軍警備隊に引き渡さず匿って手当をする。

 兵士・ジョン・マクバニー伍長は、無事回復すると12歳から40代まで女だけの学院だけに男の本能が疼き出す。演じたのは「荒野の用心棒」・「夕陽のガンマン」のヒットでハリウッドへ凱旋帰還したクリント・イーストウッド。髭を剃ってからの彼は女好きのドンファンで、正義のガンマン・イメージとはかけ離れた役柄だ。

 女だけの世界へ突然現れた魅力的な男に興味津々な女たち。女盛りの院長・マーサはさり気なくワインで誘い、若い処女の教師・エドウィナは理想の王子様と想い、17歳の生徒・キャロルは疼く身体を持て余し、夫々ジョンを恋の虜にしようとする。
 
 キャロルの誘いに乗ったジョンが屋根裏での情事をエドウィナに見られ、階段から落ち足を骨折。マーサは医学書を手にアヘンチンキで麻酔しノコギリで右足を切断してしまう。女の嫉妬は留まることを知らない。

 最後に自らの行いを反省し、エドウィナと学院を去る決心をしたジョンを待っていたのは、大好きなキノコ料理での仲直りだった・・・。

 ドン・シーゲル監督が自身の最高傑作と称した本作。のちにスティーヴン・キング原作の映画「ミザリー」(82)で、キャシー・ベイツがストーカーとなってジェームズ・カーンの足首を斧で叩き折る過激なシーンで再現されている。

 シーゲル、イーストウッドコンビは同年の「ダーティ・ハリー」でブレイク、シーゲルを師と仰ぐイーストウッドが監督・主演した「恐怖のメロディ」も同じ年だ。

 現在押しも押されもしない大御所・イーストウッドだが、まだ若かった頃の本作は彼にとってターニング・ポイントとなった3作品のうちの1本である。