・ 料理と芸術は人の心を豊かにしてくれる。
19世紀、デンマークのユトランドを舞台に、牧師の父親とその遺志を継いで伝道師となった姉妹の半生を描いた小品だが心に染み入る大人の寓話。ガブリエル・アクセル監督・脚本によるアカデミー外国語映画賞受賞作。
原作は自伝的小説「愛と哀しみの果て」(アフリカの日々)のカレン・ブリクセン。
寒村で慎ましく暮らす人々を導くプロテスタント牧師一家は父と美しい姉妹の3人家族。そんな処へやってきたスエーデンの若い士官ローレンスは姉・マーチネに好意を抱く。後ろ髪を引かれながら別れを告げ、恋は実らなかった。
パリの人気歌手パパンは、不安な気持ちを静めるためにユトランドにやってきて、妹・フィリパの美声に驚き父親にレッスンを申し入れる。「ドン・ジョバンニ」のデュエットがもとで傷心のままパリへ戻っていく。
1871年パパンの手紙を携えた女性が、初老となった姉妹の家を訪ねてくる。2人はパリ・コミュンで身寄りのない女性・バベット(ステファーヌ・オードラン)を家政婦として受け入れる。
清貧な暮らしの姉妹は、干しカレイを湯で戻し乾パンをビールに浸して食べるのが日課。バベットはコンビーフに塩を買う余裕ができ、姉妹が感心するほどのやりくり上手だった。
十数年後、バベットが宝くじで1万フランが当たったという手紙が届き、姉妹はバベットとの別れを予感する。
村人たちも年を取り我儘や愚痴が多くなり布教も儘ならない姉妹は、亡き父の生誕百年の会開催を思いつく。コーヒーとパンだけのつもりだった会を、バベットは仕切らせて欲しいと願い出る。
バベット一世一代の晩餐会の料理は姉妹にとって魔女の料理だった。
前半の小さな漁村の質素な暮らしを淡々と描いて後半は対照的にフランス料理の調理と晩餐会の様子を丁寧に描き、料理とは?心の豊かさとは?幸せとは?を問いかけてくる。
バベットの料理が如何に素晴らしいかを将軍になったローレンスが解説してくれるのが楽しい。一流シェフの料理はワインの選定から、おもてなしの心遣いまで全てが芸術なのだ。
プロテスタントの食事は概して慎ましく、黙々と食べることが当たり前のようで、美味しいは禁句のよう。それでも村人たちは美味しさが顔に出て、いがみ合っていた人々が和やかになっていく。
バベットの晩餐会は人々を幸せにして、自身の芸術心を満たしてくれるものだった。
来月デジタル・マスターズ版がロードショー公開されるが、大画面で見るとその幸福感が倍増するかもしれない。
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