晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ミネソタ大強盗団」(72・米) 80点

2015-01-21 11:47:07 | 外国映画 1960~79
 

 ・ 伝説の英雄を俯瞰して描いたP・カウフマンのニュー・シネマ西部劇。

 長編3作目のフィリップ・カウフマンがブルース・サーティースのカメラ、デイヴ・グルーシンの音楽を得て、開拓時代末期伝説の英雄となったジェイムズ=ヤンガー強盗団を描いたファン必見の西部劇。

 1866に結成されたジェイムズ・強盗団に68年から8年間ヤンガー兄弟が加わり、ミズーリ州で名を馳せる。州議会は民衆に支持者がいることに配慮して特赦を議題にしようとしていたが、痛い目にあった鉄道会社はピンカートン探偵社を雇い、追手を差し向ける。

 本作は76追い詰められた強盗団が、ミネソタ州ノースウェストのファーストナショナル銀行を襲撃した経緯をリアル・タッチで追ったドラマ。B・サーティースのカメラが自然光が美しい西部の雰囲気を醸し出し、名手D・グルーシンの音楽がバックを支えてニューシネマらしい映像を演出している。

 ジェシー・ジェイムズは<西部のロビンフッド>と仇名されるほど義賊として名高く、映画では30年代から度々登場している伝説の人物。かたやコール・ヤンガーは、その相棒として記憶されているがその歩みはドラマ性に乏しいきらいがあった。

 のちに話題となった「ロング・ライダーズ」<(80)・ウォルター・ヒル監督>とともにコールが中心人物として捉えられた数少ない作品でもある。

 コールを演じたのは「まごころを君に」(68)でオスカー主演男優賞受賞の実力者クリフ・ロバートソン。革製の防護服を子供たちに見せ、何発も銃弾を浴びたが不死身であることを自慢するパフォーマンスの反面、州議会が特赦を論議する間は犯行を諫めるなど、自分たちの置かれた立場を冷静に読み行動する目端の利いた面もある。

 対するジェシーは、コール同様南軍ゲリラから列車強盗へ転身した時代を背負って登場した感のあるアウトロー。本作では巷間言われるような義賊的側面は殆どなく、市民を殺す冷酷な面が強調されている。地主から追い立てされそうな老未亡人にお金を渡し救う美談も、あとで地主を殺し金を取り戻し未亡人が疑われそうな証拠品まで残す人物として描かれている。

 ジェシーを演じたのは話題作「ゴッド・ファーザー」(72)で強烈な印象を観客に焼きつけたロバート・デュヴァル。時代に取り残された刹那的男の象徴として描かれるものの、脇役に廻った印象。多面的な人間を演じるにはもってこいの俳優なので適役でもある。

 強盗を仕掛けるにもコールは牛の買い入れ業者を装い頭取に信用され、仲間を警備員として送り込むなど用意周到である。ただ時代は刻々と変わり、ノースフィールドではベースボールに興じたり、蒸気自動車が走っていたり、街頭で蒸気オルガンが奏でられたり、ミズーリ州では観たことがないものばかりで目を見張ることも。

 強盗が成功しなかったのは、機器蒸気オルガンを精神異常者が弄るのを見張りの手下が銃殺したのがキッカケで、住民達が銀行強盗に気付いてしまう。

 カウフマンは時代考証を忠実に投影しリアリズムを追及しながら、変革について行けない強盗団を俯瞰で捉え、かなり突き放して描いている。

 義賊として称えられたジェシー=ヤンガー強盗団は、いまや住民たちの反感を買うようになり、コールらの逮捕で一旦終息する。

 その後コールは25年服役後反省の自叙伝を出版し社会復帰、ジェシーは6年後自宅で仲間に背後から銃殺された。

 こうして伝説の英雄2人は好対照を見せながら悲劇性という面で仲間の誰よりもドラマチックなジェシーの英雄伝説が肥大化していったのだ。

 カウフマンはその後の作品「ライトスタッフ」(83)、「存在の耐えられない軽さ」(88)などでメジャーな監督となって行く。本作はそのキッカケとなった作品だが、西部劇ファンでもリアルタイムでは観ていない。筆者も念願叶って観たひとりだ。


「スルース」(07・米) 80点

2015-01-20 08:18:38 | (米国) 2000~09 

 ・ 2人だけの密室サスペンスを映像で楽しむ。

     
 アンソニー・シェーファーの戯曲を、’72にジョセフ・L・マンキウィッツが映画化した「探偵スルース」のリメイク。前回はローレンス・オリビエとマイケル・ケインの2人だけの舞台劇をみるような楽しさがあったが、今回はさらに斬新な映像美が加わった。

 M・ケインは35年前後にL・オリビエが演じたベストセラー推理作家アンドリュー・ワイクに扮している。これはプロデューサーを務め、妻の浮気相手マイロ・ティンドル役のジュード・ロウのご指名とか。
 加えてケネス・ブラザー監督、ノーベル賞作家ハロルド・ヒンターを脚本に迎えた豪華スタッフ。89分間、決して名前負けしない2人だけの密室サスペンスを堪能した。

 社会的な成功者にして富と名誉を兼ね備えたワイクには、若さに対する嫉妬が満ち溢れている。若くて繊細な神経の持ち主ティンドルには、尊大さと知性に欠けている。2人の男がひとりの女を巡り、騙し合いの壮絶なゲームに没頭する。ドラマの中に人間の奥に潜むエゴが見え隠れしてなかなか面白い。

 前作と比べ、余韻を持たせたラスト・シーンに好みが分かれるところだが、久々に大人が楽しめる贅沢な映画を観た。

「グロリア」(80・米) 70点

2015-01-19 08:03:50 | (米国) 1980~99 
・「子連れ狼」をヒントに、「レオン」のお手本となったJ・カサヴェテスの娯楽アクション。



インディーズ映画の元祖ジョン・カサヴェテス監督・脚本による唯一の商業娯楽アクションで、ヴェネツィアの金獅子賞獲得作品。愛妻ジーナ・ローランスの好演も相まって、不本意ながら?彼の代表作のひとつとなった。

NYマフィア・ボスの元恋人グロリアが、組織の隠し口座をプエルトリコ人会計士がFBIに漏らそうとしたため一家の生き残りの少年を匿うハメになり、はからずも組織に追われるアクション。カサヴェテスは、幼い子供を守り闘うヒーロー「子連れ狼」をヒントにこのドラマを書き上げたという。本作がヒントで「レオン」が作られたのも納得がゆくストーリー。

アクション映画で中年女性がヒロインという設定がユニークだ。しかも正義の人ではなく叩けば誇りの出そうなマフィアのドンの元恋人で、子供が嫌い。親友の一家が仲間を裏切り殺され、託された子供をシブシブ引き受けた。6歳の男の子はマセタ口を利くが家に帰りたがる。頼りになるのがこの小母さんだけだと知ってまつわり付くことになる。

カサヴェテスは人間描写が総てというほど2人の関係をカメラで追い続ける。子供が嫌いだったユニークなヒロイン・グロリアが、思ったより強かで徐々に母性愛に目覚めるさまをじっくりと描き、観客の目をくぎ付けにして行く。大都会NYの表の顔・摩天楼ではなく、荒んだブロンクスという裏の顔を舞台に繰り広げられる2人の逃避劇は、まるでドキュメントを観るような空気感が漂う。地下鉄・バス・タクシーでの移動や街の雑踏・安いモーテルなどその映像はオールロケながらシッカリとした固定カメラからのものなので撮影したフレッド・シュラーの苦労が目に浮かぶ。

シャローン・ストーンでリメイクされているのも観たが、人間描写で数段まさる本作はキャッチフレーズどおり「タフでリアルなヒロイン」である。





「エド・ウッド」(94・米) 80点

2015-01-18 07:48:18 | (米国) 1980~99 
・「史上最低の映画監督」は愛すべきキャッチフレーズ、エド・ウッドの半生記。



50年代ハリウッドで映画作りに情熱を捧げたエドワード・D・ジュニア(通称エド・ウッド)の半生を、愛情たっぷりに描いたティム・バートン監督。彼もエド・ウッドを愛して止まない監督のひとりであると自称している。
30歳を迎えるのに映画作りのチャンスがないエドにとって性転換の映画を作ると言う業界紙情報は願ってもない企画。彼は女の子を望んでいた母親の影響で女装趣味があって、恋人ドロレスにも内緒にしていたからだ。製作会社への説得材料として偶然出会った往年の怪奇スターベラ・ルゴシ出演を武器に「グレンとグレンダ」を3日間で書き上げ初監督する。

本作を皮切りに「怪物の花嫁」「プラン9 フロム・アウタースペース」の3作品はB級カルト映画として、「<早い、安い、面白くない>3拍子揃った映画のようなゴミ」とまで酷評されながら現存していたのは、ハリウッドに憧れる映画作りに情熱を賭ける大多数の映画人にとって、純粋なエド・ウッドへのリスペクトがあったから。「史上最低の映画監督」というのは愛すべきキャッチフレーズなのだ。

近年では「アーティスト」がそうであったように、本作もモノクロで50年代の雰囲気を再現していて、カラーにはない美しい深みと陰影のある映像が臨場感を醸し出している。主演したのはT・バートンと名コンビのジョニー・デップで、奇想天外な愛すべき映画青年を繊細かつ奔放に演じている。ベラ・ルゴシに扮したマーティン・ランドーは、往年の大スターの雰囲気を漂わせつつ、誰も振り返ってくれない晩年の哀れな姿を見事に演じてオスカー(助演男優賞)を獲得。エドとの年齢差を超えた父と子のような友情がジンと来るものがあった。エドが憧れのオーソン・ウェルズを始め、トー・ジョンソン、妖婦ヴァンパイラなどそっくりな人物が登場してメイクアップ賞も受賞しているのも見どころのひとつ。友人のオカマにビル・マーレイが扮しているのも見逃せない。

見所いっぱいの本作だが、これを機に本物を観てみたいと思うのは余程のマニア以外はお薦めできない。なにしろ才能より映画作りの情熱だけで3本作っただけでも奇跡的な出来事で、アマチュア映画より見劣りすること間違いない。エドの女装マニアぶりやルゴシによる巨大タコとの格闘シーン、宇宙人の存在を知らせるため死者をゾンビとして蘇らせる話に興味があれば、どうぞというレベル。
それでも愛すべき映画人・エドは口癖である「パーフェクト!」と言っていたことだろう。




「シン・シティ」(05・米) 70点

2015-01-17 08:01:26 | (米国) 2000~09 

 ・ 豪華キャストで、アメコミ・ファンが理屈抜きで楽しめる作品。

       
 フランク・ミラーが自身のアメコミを忠実に映像化するため、ロバート・ロドリゲスと共同監督として名を連ねている。1部シーンをクエンティ・タランティーノが担当しているのも興味深い。豪華キャストで原作ファンも納得のカット割りとパート・カラーにすることで独特の世界を創出している。

 3つのエピソードを交えながらブルース・ウィルス、ミッキー・ローク、クライヴ・オーウエンを始め、イライジャ・ウッド、ベニチオ・デル・トロ、マイケル・クラーク・ダンカンなど男くさい個性的な俳優が勢揃いして、それぞれの役を楽しそうに演じている。

 エピソード1はM・ローク主演の「ハード グッバイ」、エピソード2はC・オーウェン主演の「ビッグ ファット キル」、エピソード3はB・ウィリス演じる「イエロー バスタード」。いづれもハードボイルドなキャラクターが大切な女のため敵に挑むというストーリーは、それぞれヒロインと敵役が巧く配置されていて飽きさせない。

 俳優以外は全てCGという特異な映像構成で、残酷なシーンを幾分緩和している。それでもR15なのは原作が持っている大人のコミックの宿命だろう。ロドリゲスの盟友タランティーノがゲストでワンシーンを受け持っているが、どのシーンかを探るのもマニアには興味のあるところ。エピソード2のシュールな設定場面での軽妙な会話が彼の特徴を物語っている。
 
 理屈抜きで、自宅のソファでリラックスして観るのに最適な作品。

「ミスティック・リバー」(03・米) 85点

2015-01-16 08:31:57 | (米国) 2000~09 

 ・ ハリウッド作風に一石を投じたC・イーストウッド監督。

                    

 ある殺人事件をキッカケに25年振りに再会した幼馴染みの3人の運命が交錯するサスペンス・ドラマ。デニス・ルへインのミステリーを「L・A・コンフィデンシャル」(97)のブライアン・ヘルゲランドが脚本化、クリント・イーストウッドが監督した従来の勧善懲悪、ハッピー・エンドのハリウッド作品とは一線を画した異色作。

 ボストンの貧民街(東バッキンガム地区)で11歳のジミー、デイヴ、ショーンの3人が遊んでいたとき、警官を偽装した誘拐犯にデイヴだけが4日間拘留され性的虐待を受けてしまう。

 その後交流がなかった3人だが、25年経ってジミーの愛娘ケイティが殺害され、刑事となったショーンが捜査担当となり、容疑者のひとりとしてデイヴが浮かび、再会を余儀なくされる。

 重いテーマで「スリーパーズ」(96)を想わせる内容だが、復讐物語ではない展開は主要3人を始め周りの人物描写の確かさで、重厚な人間ドラマとなっている。

 ショッキングなシーンを巧みなカメラ・ワークとクールなカット割り、静謐な音楽に載せた映像処理はイーストウッドが監督として研鑽を重ねてきた結晶といえる。本作あたりからヒット作を狙う作品よりも自分が本当に製作したい作品監督へと転換を果たしたように窺える。ハリウッドの巨匠という称号は不似合いかもしれないが、代表的監督としてその地位を確立したといえる。

 悪童から裏社会でその地位を固めつつあるジミーにはショーン・ペン、少年時代のトラウマを抱えながら地道に暮らしているデイヴにティム・ロビンスが扮し、それぞれオスカー受賞を果たしている。貧民街から大学へ進み父の後を継いで警察官になったショーン役のケビン・ベーコンも、ふたりと遜色ないリアルな演技で息詰まる物語の芯を支えている。

 さらにデイヴの妻セレステに扮したマーシャ・ゲイ・ハーデンが、夫を愛しながら殺人犯ではないかという不安をどう直視すべきか思い悩む等身大の女を好演し、助演女優賞を獲得してもおかしくなかった。従姉妹でジミーの後妻アナベスは社会道徳を超えた家族愛で夫を支える烈女ぶりがセレステと好対照なのも見所のひとつ。アナベスを演じたのがローラ・リニーなのもキャスティングの妙だ。

 ほかにも「マトリックス」(99)のローレンス・フィッシュバーンがショーンの相棒刑事としてなかなかいい味を出しているし、ノンクレジットながらイーライ・ウォラックが酒屋の店主で友情出演していたのも嬉しい。

 本作は、宣伝にある「スタンド・バイ・ミー」(86)を想像したり、犯人探しミステリーとして期待して観たひとには、動機の掘り下げ不足な中途半端な作品だとガッカリしたかもしれない。だが良い作品はひとりひとりの人物描写に長けていて、登場人物がどう生きているか想像が膨らむように描かれている。

 パレードで描写された3人の家族がどんな人生を送って行くのかを想像させる秀逸なラスト・シーンは、観終わってもあれこれ空想できる秀逸なシークエンス。街を流れる<神秘的なチャールズ川>がこれからも3家族を見守って行くに違いない。

 
 

「007/カジノ・ロワイヤル」(06・英=チェコ=独=米) 75点

2015-01-15 07:29:31 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・若返った6代目J・ボンドはD・クレイグ。

  
 オールド・ファンには懐かしいスパイ・アクションのバイブル的存在。21作目ジェイムス・ボンドには公開前から賛否が話題となったダニエル・クレイグ。若返った6代目ボンドは大成功で違和感ない。イアンフレミングの原作シリーズ第1作を忠実に映画化して原点に戻った。監督はマーティン・キャンベルが復帰して拘りの演出が窺える。

 いきなりのノンストップ・アクションから目が離せなくなる。空港でのカー・アクションや水に沈むヴェニスの家などの見せ場に、敢えてCGを使わないことで却って迫力が増した。お馴染みのボンドガール(エヴァ・グリーン)が知的で人間味もあって魅力的。

 脇を固めるマッツ・ミケルセンとのポーカー・シーンも見もの。お馴染みM役のジュディ・デンチ、CIAのジェフリー・ライト、キーマンであるマティス役のジャンカルロ・ジャニーニと多彩なキャスティングも魅力だ。

 上映時間の長さを感じなかったのは、ポール・ハギスの脚本によるところが大きい。ジャンルを超えた脚色能力の高さに感心させられた。

 まずまずのクレイグ・ボンドは果して何作続くのだろうか?。

「アメリカを売った男」(07・米) 75点

2015-01-14 07:58:22 | (米国) 2000~09 

 ・ 矛盾だらけの人間をK・クーパーが好演。

     
 20年以上KGBに国家機密を漏らしていた<米国史上最悪のスパイ事件>と言われる実話を、ビリー・レイ監督・脚本で映画化したクライム・サスペンス。この映画にも登場するFBI元捜査官エリック・オニールがアドバイザリー・スタッフとして関わっているだけあってリアル感がある。

 何よりクリス・クーパー演じるハンセン捜査官が、複雑な人物像としてキメ細かく描かれていて、正悪を別にして思わず同情してしまうほど。FBIきってのロシア分析専門家でありながら国家への裏切り、熱心なカトリック教徒で家族を愛する善き父親でありながら性倒錯者、部下に捜査官の心得を説きながら猜疑心が異常に強いなど、矛盾に満ちた人間を見事に演じている。

 「FBIは銃を持たないと出世できない」というFBI批判は見え隠れするが、実話がベースだけにいまひとつ突っ込み不足は否めない。

 ただ人間ドラマとしては魅力的で、機密は妻にも言えない訓練捜査官のE・オニール(ライアン・フィリップ)はハンセンをどこかで崇拝していて、複雑な心境を吐露できずにいる。孤独な上司パロウズ捜査官(ローラ・リニー)や温厚なプリザック捜査官(デニス・ヘイスバード)など、出番は少ないが見せ場はソレゾレしっかりとある。

「Dear フランキー」(04・英) 85点

2015-01-13 07:59:10 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 母と子の絆を見事に描いたオーバック監督の佳作。

    
 CM出身のショーナ・オーバック監督の長編デビュー作。スコットランドの海辺の町を背景に、母と子の絆を描いた佳作。

 リジー(エミリー・モーティマー)は難聴の息子フランキー(ジャック・マケルホーン)と母の3人家族。グラスゴー近くの海辺の町へ引っ越してくる。実は、夫のDVのために逃げてきたのに息子には本当のことを言えず、ACCRA号で世界中を航海しているという架空のハナシを造り、何年もウソの手紙を送り続ける。偶然その船が街に寄港することを知って、2日間だけのストレンジャー(ジェラルド・バトラー)を雇うことになる。

 母と子の絆を描きながら、単なる甘ったるいお涙頂戴ものではない人物描写にオーバックの6年間の準備期間は無駄ではなかった。カンヌ映画祭で上映後20分間もスタンディング・オべーンションが鳴りやまなかったのも頷ける。

 初主演のE・モーティマーはスコットランド地方の地味で芯の強い母親でありながら、控えめな女の感受性を持ち併せる女性役を好演している。孤独なストレンジャー役のG・バトラーは「オペラ座の怪人」のファントム役と両極の<白鳥の騎士役>で、誰が演じても好い役を、シッカリとキャラクターを浮き出させて存在感を魅せた。16歳まで父親を知らなかった実体験が何処かに生きていたのかもしれない。

 事実上の主役はJ・マケルホーンで、ハンデキャッパーでありながら、母親をそれとなく守っている賢い少年役を等身大で演じていて、将来性を感じた。心温まる佳作を堪能した。

「白いリボン」(09・オーストリアほか) 85点

2015-01-12 08:27:55 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・抑圧された時代背景を切りとったM・ハネケの傑作。

    

 「ファニー・ゲーム」(97)「ピアニスト」(01)のミヒャエル・ハネケ監督・脚本によるクライム・ミステリーで、カンヌ国際映画パルムドール受賞作品。ミステリーといってもそこはハネケで、次々と怒る事件の犯人探しの映画を期待するとついて行けない。

 ときは1913年、第一次大戦直前で、ところは北ドイツの寒村で荘園主の男爵(ウルリッヒ・テトュクール)が支配する村。唯一の医師(ライナー・ボック)が馬で帰宅途上自宅前に張ってあった針金で重傷を負うのをキッカケに次々事件が起きる。敬虔なプロテスタントの村民は疑心暗鬼となりながら、真相を追及しない。

 <白いリボン>とは、子供が悪さをしたトキその戒めとして、大人が腕や頭に白い布を巻きつける。牧師(ブルクハルト・クラウスナー)は自分の子供に不条理な抑圧の象徴であるリボンとともに鞭打ちまで行う。それは純潔であれという子供への欺瞞に満ちた大人の願望でもあった。

 この閉塞的な寒村の情景をモノクロの美しい映像と、BGMを一切使わない雰囲気が、抑圧された時代背景を見事に切り取って魅せる。男爵を頂点として家令・牧師・医師とそれぞれの家族は、権威主義の塊でその言動が妻や子供達に無意識な悪意を振りまいているのに気付かない。

 唯一の救いは、都会から赴任してきた若い教師(クリスチャン・フリーデル)。良識を持ち合わせ、乳母の17歳の恋人もできる。彼が晩年に振り替える物語という構成でもある。ハネケはこの教師を仕立屋の息子で恋人の名をエヴァにしたのは、ナチス・ドイツの予感を観客に暗示したのだろう。

 子供達は大人の前では従順だが、欺瞞だらけの大人の世界をしっかり観ていた。この世代が’19ドイツ労働党結成とともに次の時代を担って行くのだ。

 現代を抑圧されたこの時代に置き換え大人たちへの警告を込めた本作。ハネケの信条である<観客にポップコーンを食べさせない>骨太な作品を2時間25分堪能した。