晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「白いリボン」(09・オーストリアほか) 85点

2015-01-12 08:27:55 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・抑圧された時代背景を切りとったM・ハネケの傑作。

    

 「ファニー・ゲーム」(97)「ピアニスト」(01)のミヒャエル・ハネケ監督・脚本によるクライム・ミステリーで、カンヌ国際映画パルムドール受賞作品。ミステリーといってもそこはハネケで、次々と怒る事件の犯人探しの映画を期待するとついて行けない。

 ときは1913年、第一次大戦直前で、ところは北ドイツの寒村で荘園主の男爵(ウルリッヒ・テトュクール)が支配する村。唯一の医師(ライナー・ボック)が馬で帰宅途上自宅前に張ってあった針金で重傷を負うのをキッカケに次々事件が起きる。敬虔なプロテスタントの村民は疑心暗鬼となりながら、真相を追及しない。

 <白いリボン>とは、子供が悪さをしたトキその戒めとして、大人が腕や頭に白い布を巻きつける。牧師(ブルクハルト・クラウスナー)は自分の子供に不条理な抑圧の象徴であるリボンとともに鞭打ちまで行う。それは純潔であれという子供への欺瞞に満ちた大人の願望でもあった。

 この閉塞的な寒村の情景をモノクロの美しい映像と、BGMを一切使わない雰囲気が、抑圧された時代背景を見事に切り取って魅せる。男爵を頂点として家令・牧師・医師とそれぞれの家族は、権威主義の塊でその言動が妻や子供達に無意識な悪意を振りまいているのに気付かない。

 唯一の救いは、都会から赴任してきた若い教師(クリスチャン・フリーデル)。良識を持ち合わせ、乳母の17歳の恋人もできる。彼が晩年に振り替える物語という構成でもある。ハネケはこの教師を仕立屋の息子で恋人の名をエヴァにしたのは、ナチス・ドイツの予感を観客に暗示したのだろう。

 子供達は大人の前では従順だが、欺瞞だらけの大人の世界をしっかり観ていた。この世代が’19ドイツ労働党結成とともに次の時代を担って行くのだ。

 現代を抑圧されたこの時代に置き換え大人たちへの警告を込めた本作。ハネケの信条である<観客にポップコーンを食べさせない>骨太な作品を2時間25分堪能した。