お早よう
1959年/日本
格調高い?小津のコミカルなホームドラマ
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 80点
名匠・小津安二郎監督のカラー2作目は戦後十数年経った東京郊外・新興住宅街での格調高い?コミカルなホームドラマ。
大人の名優たちを向こうに廻し、中学一年の実(設楽幸嗣)、小学低学年の勇(島津雅彦)の兄弟が主役だ。小津演出は子供たちの自然な演技を引き出すのが巧妙であることを示してくれた。実とホボ同世代の筆者にとって、まるでタイムスリップで蘇ってくるハナシが次から次へと出てきて、それだけでも珠玉の作品だ。とくに三種の神器と言われた電器冷蔵庫や洗濯機が大人のシンボルであり、TVは子供たちにとって最高の憧れだった。近所で観た力道山のプロレス番組でマットを掃除していた掃除機も珍しかった時代だが、筆者も実のトシまで近所のお金持ちの家に相撲やプロレスを観に行っていた。
歌は「有楽町で逢いましょう」ではなく「お富さん」だった。おでこを突っつくと下から音を出すオナラ遊びは経験がないが、芋しか食べていなかった近所のお兄ちゃんは連発していたのを思い出す。
建ち並ぶ住宅街は山の手育ちの奥様から下町のおかみさんや水商売の夫婦まで軒を並べ住んでいて女の噂話が飛び交い、どこかで背伸びをしながら暮らしている。一家の構成もさまざまで実・勇兄弟の家には独身の叔母さんが同居しているし、原田家にはお祖母さんが元気だし、宮沢家は初老の夫婦2人暮らし。小津監督は50年後を予測したように定年後の不安をさり気なく描いてもいる。この辺は脚本の上手さが際立っている。絵画のような構図や、カラーならではの色使いのこだわりはキメ細かで、赤のアクセントが効果的。
笠智衆・杉村春子・田中春男・沢村貞子・長岡輝子などソツのない演技はさすが。佐田啓二・久我美子の恋の行方も加わるなど、さり気ないハナシの積み重ねが微笑ましい。無駄な言葉のヤリトリは人間としての潤滑油だと改めて思う。