晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『蒲田行進曲』 80点

2012-10-11 11:01:54 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

蒲田行進曲

1982年/日本

風刺の効いた人情コメディ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

直木賞作家つかこうへいの戯曲を自ら脚色し深作欣二監督起用による人情コメディ。角川映画が名実ともに評価された記念すべき作品でもある。
京都太秦の東映京都撮影所は時代劇「新撰組」の撮影中。主演は、土方歳三役のスター倉岡銀四郎(風間杜夫)。坂本竜馬役の橘(原田大二郎)とはライバルで絶えず大部屋俳優の取り巻きに囲まれている。銀四郎の取り巻きのひとりヤス(平田満)は銀ちゃん命の俳優バカ。落ち目の女優で銀ちゃんの恋人でもある小夏(松坂慶子)は子供を宿していた。
銀ちゃんは華のあるスター俳優で人情も篤いが、気が小さくて感情の落差が激しいし、ヤスは大部屋暮らしでなんでも銀ちゃんのイイなりになり甲斐性がない。小夏の、銀ちゃんとヤスというタイプの違う男の間で揺れ動く女ごころが愛おしい。
もとは東映の大部屋俳優・汐路章の<階段落ち>の体験からヒントを得た戯曲なので、大スター至上主義の時代劇で隆盛を極めていた当時の映画製作の裏話が面白くて哀しい逸話のオンパレード。映画化に当たって東映が拒否したのは興行上の理由もあるが、プライドを傷つけられたこともあるのでは?銀ちゃんはスター中村錦之助を思わせるし、ライバル大川橋蔵との競演はオールスター映画以外はなかった。元夫人・有馬稲子の述懐にあったがヒトのいい錦ちゃんは撮影終了後毎日自宅にスタッフを呼んで大盤振る舞いしたという。ヤスも、<階段落ち>を引き受けて一世一代のスター気分を味わってみたくなったのだろう。
題名は蒲田にあった現・松竹の撮影所の所歌で、戦前の五所平之助監督「親父とその子」の主題歌として使われている。東映に断られた角川が松竹に配給を頼んで公開にこぎ着け大ヒット、この年の賞を総なめしたのは皮肉な現象だ。桑田佳佑の作詞・作曲で中村雅俊の挿入歌「恋人も濡れる街角」もヒットしている。
風間・平田は舞台そのままの勢いでテンポのある熱演が彼らの出世作となり、大根の陰口がささやかれていた松坂が大女優へのキッカケとなった作品でもある。脇では「おれの映画だ」といいながら俳優に気を使う監督役の蟹江敬三、息子を知り尽くし小夏に頭を下げるヤスの母役の清川虹子がきらりと光る流石の演技。
ヤクザ映画を始めエネルギッシュな演出に定評のあった深作欣二の底力を改めて感じる。