罠にかかったパパとママ
1961年/アメリカ
画期的だった1人2役
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 75点
演出 75点
ビジュアル 80点
音楽 75点
デイヴィッド・スウィフト監督・脚本によるディズニー作品。エーリッヒ・ケストナーの原作「双子のロッテ」をアメリカ版にアレンジ。
両親の離婚でボストンとカリフォルニアに離れ離れに育った双子のシャロンとスージー。入れ替わって両親の再会を画策する。
ひとり2役をヘイリー・ミルズが演じて大評判になり、主題歌もヒット。続編がTVでシリーズ化するほどの人気となった。
いまなら同一画面に登場させるのは簡単にCGで処理できるが、当時は画期的なこと。スタッフの苦労がさぞかし大変だったことだろう。
黄色い星の子供たち
2010年/フランス=ドイツ=ハンガリー
衝撃的な事実をドラマチックに再現した佳作
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
ユダヤ人迫害の映画は数多くあるが、これはナチス占領下のフランス政権が行った「ヴェル・ディヴ(冬季競輪場)事件」を再現した衝撃的なドラマ。監督・脚本はローズ・ボッシュ。ジャーナリスト出身らしく綿密な取材を重ね、証言をもとに全体を見事に組み立てた構成は感動的。オスカー作品「ライフ・イズ・ビューティフル」はイタリアにおけるユダヤ系家族だったが、あくまでフィクションだった。モデルとなったヴァイスマン一家は実存していたことに驚かされる。主人公の当時11歳だった少年ジョーが公開を記念して来日して話題となった。
一家のモンマルトルの生活は祖国ポーランドとは違って、自由平等を尊ぶ国としてつつましく暮らしていた。ユダヤ人は胸に黄色いワッペンを付けることで差別は激しくなり、公共施設の使用を禁止される。42年7月16日午前4時、外国籍2万4千人の一斉検挙がフランス政府によって行われた。フランス・ヴィジー政権のペタン元帥はナチスへの忠誠、ラヴァル首相はユダヤ人移民の一掃を果たす格好の材料だったのだ。原題は「LA RAFLE(一斉検挙)」だが、直訳せず「黄色い・・・」はジョー少年や親友シモン・ノノ兄弟など子供達がテーマであることが反映されていてなかなか上手い邦題だ。
検挙されたのは1万3千人でヴェル・ディヴに収容されたのは約8千人。1万人余りは危険を察知して逃亡したり、勇気あるフランス人が匿ったりしている。このあたりの描き方もあざとくなく本国フランスでも大ヒットした理由だろう。ジョーの父(ガド・エルマレ)はフランスの良識を信じ、母(ラファエル・アゴク)は本能的に子供たちを守ることに懸命だった。無邪気に遊ぶ子供たちだが、ヴェル・ディヴでの扱いは非人道的のひとことで、水も食糧も与えられない環境は最悪。そんななか点検に来た消防士の放水は感動的なひとこまで、無事を託す手紙を受け取った消防士に的確な指示をした隊長は人道を優先する公務員の鏡でこうありたい。姉の逃亡はスリリングな出来事であり、警官の黙認なくして実現しなかっただろう。たった一人の医師シェインバウム(ジャン・レノ)にも胸には黄色い星がついていた。赤十字から派遣された看護師アネット(メラニー・ロラン)は自分を入れてたった6人の看護師しかいないことに愕然とする。
ロワレ県収容所に貨物列車で輸送された数日間はますます劣悪な環境で、大人はもとより子供たちも自分の運命を悟り始める。幼子が名前を聴かれフルネームを知らず「パパの名は?」と聞かれ「パパ」と答えるシーンが哀しい。
主要な大人たちは名優たちが顔を揃えている。
ジャン・レノはモロッコ移民のフランス人。決して民族が絡む社会性のあるドラマには出演していなかった。それ程慎重な彼が出演したのだから心を揺すられたに違いない。メラニー・ロランは祖父がアウシュビッツ経験者。それだけに思い入れもあって、まさに精魂こめた体当たりの演技はますます好感が持てた。ほかにも父のガド・エルマレはコメディアンで日頃とは180度違う役柄だし、演技派シルヴィー・テステューも出番は少ないがシッカリ存在感を魅せている。そしてジョーを演じたユーゴ・ルヴェルデを始め子供たちのリアルさは演技を超えた感動を呼び、大人の涙腺を刺激してやまない。
Uターン
1997年/アメリカ
ラジー賞ノミネートながら楽しめた
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 75点
キャスト 85点
演出 75点
ビジュアル 75点
音楽 75点
オリバー・ストーン監督、ショーン・ペン主演と聞くと、アメリカ社会の不条理をつく壮大なドラマを想定するが間逆の肩の凝らない不条理サスペンスだった。
マフィアから逃れラスベガスへ大金を届けようとするチンピラ・ボビーが車の故障で立ち寄った田舎町スベリア。<UターンOK>と表示があったが<よそ者は出て行け>という意味もあるとか。文字通りよそ者ボビーがとんでもない土地の人間にとんでもない目に遭うものがたり。
ボビーを演じたショーン・ペンをはじめ若い人妻グレースにジェニファー・ロペス、その夫にニック・ノルティ、よそ者に金を吹っ掛ける整備工にビリー・ボブ・ソートン、盲目の物乞いジョン・ボイトと普段とは大違いの役柄を真面目?に演じている。ほかにも街のチンピラにホアキン・フェニックス、そのガ-ルフレンドにクレア・デインズ、一見真面目な保安官パワーズ・ブースなど怪しげな面々がボビーにまとわりついて気持ちをざわつかせる。カメオ出演のリヴ・タイラーを見つけるオマケまである。
製作・脚本のジョン・リドリーは<ボビーの気持ちを観客に共有させること>に熱意を注いでいてロバート・リチャードソンの映像やエンリオ・モリコーネの音楽が拍車を掛けて真剣に観ていると少し疲労感が増してくる。
その年のラジー賞に堂々ノミネートされ、興行的にも大失敗した作品ながら結構楽しめた。再び演じることのない俳優たちの熱演を、真夏の午後のんびり鑑賞できたのは拾い物をした気分。
素直な悪女
1956年/コロンビア=フランス
B.B誕生の記念碑的作品
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 85点
演出 75点
ビジュアル 80点
音楽 75点
ブリジット・バルドーが夫のロジェ・ヴァディム監督で主演してセンセーショナルな話題を提供した記念碑的作品。
冒頭、シネマスコープという画面を最大限利用したB.Bの全裸で横たわる姿が魅力的。
いま観るとそれ程衝撃的ではないが、元祖小悪魔といわれる猫のような目・ふっくらとした唇が堪能できる。18歳の孤児院育ちの少女ジュリエット(B.B)が本当の愛を模索するハナシで、彼女を巡るタルデュー兄弟と初老の実業家が絡む。
原題は<かくて神、女を創り給えり>というそうだが、ヴァデムはB.Bを神が創った最高の女として描きたかったのだろう。プレイボーイの兄・アントワーヌ(クリスチャン・マルカン)が好きなのに振られて孤児院に戻されるのを防ぐために内気な弟ミシェル(ジャン=ルイ・トランティニャン)のプロポーズを受ける。絶えず実業家エリック(クルト・ユルゲンス)はチャンスを覗うが父親のような存在から距離が縮まらない。
邦題にある<素直さ>が目立つヒロインで、決して<悪女>という雰囲気はない。M.Mと比べても健康的で言動も一致しているが、その言動が男から観ると悪女に映って見えるということか?
南仏ののどかな漁港だったサントロぺに天性のセクシーさを振りまき自由奔放に踊るヒロインB.Bの魅力が全ての作品でもある。
ラスト・ターゲット
2010年/アメリカ
カタルシスに溢れたハード・ボイルド
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 75点
このところ新ジャンルのキャラクターに挑み続けているジョージ・クルーニーが独特の微笑みを一度も見せず、孤独な暗殺者を演じている。
監督はオランダの気鋭でフォトグラファーとして名高いアントン・コービン。
スウェーデンの雪野原でイキナリ狙撃された主人公は相手の2人と連れの若い女を射殺する。緊張感が走るスタートだ。男はローマに現れ組織の連絡係らしき男に次の行動指示を受けフィアットででかけたのが城塞都市カステル・デル・モンテ。詳しい情報のないまま男は何をするためにこの街へきたのか?ジャック、エドワード、ミスター・バタフライと呼ばれる自称写真家のジョージ・クルーニーの新たな魅力探しの旅に付き合うことになる。このあたりは70年代のフィルム・ノワールと雰囲気が似ていて、アラン・ドロンの「サムライ」を想起させる。カタルシスがたっぷりのハード・ボイルドだ。ただしストーリーは大どんでん返しというほどのインパクトはなく序盤の緊張感がシークエンス毎に何処まで続くかが勝負。
ロケ地イタリアのアブルッツォはイタリア中部地震で被害を受けた場所。雄大な風景を見事に映像化しながら孤高の暗殺者を繊細に描いて見せたコービン監督に独特の感性を感じた。ズームやハイスピードを使わずこれだけの映像美を醸し出す手腕はなかなかのもの。また重要な小道具・サプレッサー(減音器)銃制作のディテールを微細に描写した映像は見所のひとつ。
最初に狙撃されたイリーナ・ビョークランド、街の娼婦でヒロインのクララを演じたヴィオランテ・ブラシド、組織の一員で狙撃ライフルの受け渡し役・マチルダのテクラー・ルーテン。ジャックを巡る3人の女は何れも美女揃いでサービスカットもあるがフォトジェニックなので品は悪くない。
共演陣では街の神父のバオロ・ボナチェッリがユニークな存在感をみせている。原題「ザ・アメリカン」そのままに<アメリカ人は歴史を尊重せず、現在しか興味がない>といい、言動や手の特徴から写真家ではないことを見抜いてしまう。いっぽう神父でありながら修理工・ファビオという子持ちでもある。
孤高の中年男が愛する人ができたことで新しい人生を歩もうとする役を演じたJ・クルーニー。彼のファンと大人のハードボイルド好きには、充分満足の作品だろう。
それでも恋するバルセロナ
2008年/アメリカ
バルセロナ観光とラテン気質を満喫
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 85点
演出 70点
ビジュアル 80点
音楽 80点
バルセロナが大好きというウディ・アレンが観光名所を舞台に繰り広げる得意の恋愛ドラマ。
才気溢れるアレンがバルセロナ観光局から資金を捻出してもらって、気軽に作ったように覗える。しかしそこはアレン流。スペインを代表する男優ハビエル・バルデムをラテン気質丸出しの画家として起用。アメリカからカタルーニャについての論文を纏めるため親類に身を寄せたヴィッキー(レベッカ・ホール)と親友でひと夏のバカンスを楽しもうとしたクリスティーナ(スカーレット・ヨハンソン)の2人。気が合う2人だが人生感が両極。ファン・アントニオ(H・バルデム)は画廊で見かけた2人に声をかけ「オビエドへ旅行へ行こう。ワインを飲んでセックスしよう」と誘う。元妻と刃傷沙汰を起こして有名な画家のおよそ常識外れの誘いに最初から乗り気のクリスティーナと婚約中で常識派のヴィッキーはまるっきり違う反応だったのに...。
アレンの人間観察は、尻軽女のクリスティーナは<望まないものは分かる>ので実感して判断する女として描かれ、エリート婚約者と理想的な結婚を望むヴィッキーに本当にそれで良いのか?と疑問を投げかける。
ここまでは単なる恋愛ドラマだが強烈な味付け役となったのがファンの元妻マリア・エレーナのベネロぺ・クルス。後半に登場するが3人を圧倒する強烈な印象で全てをサラってしまう。スペイン語でまくしたてたり、ピストルを持ち出したり精神不安定な女なのにクリスティーナとの3人の生活は穏やかなのが何とも皮肉。
「成就しない愛だけがロマンティック」といわせる台詞とパコ・デ・ルシアの「ルンバ」や「アストゥリアス」など情緒溢れるギターの音色がぴったりとマッチしていた。
ただナレーションでストーリー展開したり速射砲のような台詞が字幕では本当のニュアンスが伝わりにくい。アレンが苦手な理由はここにある。
ユアン少年と小さな英雄
2005年/イギリス
愛犬家とファミリー向け
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 75点
音楽 75点
19世紀エジンバラを舞台に孤児となった少年と忠犬バリーとの心温まる物語。
旧市街区を管轄する警察官ジョン・グレイの愛犬テリアはバリーという名で街の誰にも愛されていた。主人のグレイが不慮の病で亡くなるとき少年ユアンに「偉人伝」の本とともに託される。エジンバラは紡績工場を経営する資本家それを補佐する新市街地区の人々が支配していて貧困地区復興を説くリー牧師が煙たい存在だった。動物を入れてはいけない墓地なのにグレイの墓から離れようとしないバリー。
主役の忠犬バリーが愛くるしく愛犬家には堪らない。少年ユニフ・少女ジーナを囲む大人たち
が豪華キャストで墓守にジェームス・コスモ、牧師にグレッグ・ワイズ、市長にクリストファー・リーなどファミリーで楽しめる作品に仕上がっている。
登録犬制度ができ裁判で措置をするなんて如何にもスコットランドらしい。エジンバラにはバリーの銅像があるとか。10数年前に訪れたことがあるが19世紀がそのまま残っているような街並み。銅像の存在は知らずに見逃してしまったが、映画の雰囲気そのままだった。
小学校低学年の子供がいる家庭なら<ぼくとボビーの大逆転>という題名でDVD化されているので一家で鑑賞することをお薦めしたい。
蜂蜜
2010年/トルコ=ドイツ
健気で直向き、少年の成長ものがたり
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 90点
音楽 0点
トルコの新鋭セミフ・カプランオーレ監督のユスフ3部作の最終章。ユスフとは主人公の名前で第1作が壮年期「卵」(07)、第2作が青年期「ミルク」(08)で、本作がベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞した。もし受賞していなければ注目もされず上映されなかったかも。
霧が立ち込めた深い森にやってきた男。縄を使って高い木に登りだす。どうやら巣箱を置いて蜂蜜を採る仕掛けのようだ。ゆっくりとトキが経過する。突然縄を掛けていた枝がミリミリと音を立て宙ずりに。
冒頭のシーンが変わり少年が父に夢のハナシをする。少年がユスフで父が冒頭の男だ。ユスフの夢は父との秘密になった。サントラが一切なく梢の音、鳥のさえずりが沁み入るように効果的。
養蜂家の父はユスフの憧れで絶対的な存在。吃音癖がありながら父との会話や日めくりの朗読は澱みない。花の名前、蜜の色や味、燻製器の扱い方まで嬉嬉として覚える様子は健気で直向きだ。父はユスフの苦手なミルクを代りに飲んでくれる優しい存在でもある。その父がいつもの巣箱が全滅で少し遠くへ巣箱を置きに行くことに。ついて行くというユセフに父は男として家族を守れと諭される。
質素だが優しく働き者の母、寡黙で養蜂ひとすじの父に育てられたユセフ。学校で本を朗読すると貰える<よくできましたバッジ>が貰えず暗記するが違うページを読むように先生からいわれ失敗する。詩を読むリボンの少女への淡い想い、宿題をしないで隣の少年のノートと交換するなど微笑ましいシークエンスが一編の詩のように続いてゆく。
映像に独特の感性がありとても美しく、主人公も少年らしく可愛いが、淡々とドラマが流れるように進んで行くので、気合いを入れて観ていないとついつい睡魔に襲われそう。筆者はしっかり見届けたが左右の隣席から寝息が聴こえていたので寝不足のトキは要注意。
従妹ベット
1998年/アメリカ
原作とは違う結末が相応しい?
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 85点
音楽 75点
フランス文豪・バルザックの150編もある「人間喜劇」の一編で舞台監督デス・マカナフの監督デビュー作。「トッツィー」「ブルー・スカイ」のオスカー女優ジェシカ・ラングを起用したアメリカ映画。19世紀半ばのパリなのに英語の台詞なのは最初違和感があるが、字幕に頼る筆者には減点対象にはならない。それでもなんとなく雰囲気の違いは否めない。
フランス革命直前の貴族社会で自分の名誉や金に執着する人間を痛快に皮肉った人間ドラマで、女の復讐ドラマでもある。
賢くて自分を前面に出すことがない地味な女ベットをJ・ラングが演じていて<はまり役>。一味違う悪女を気持ちよさそうに演じている。
何しろ大好きな男へクターを従姉アドリーヌに奪われ、彼女の死に際に娘を託される。へクターから後釜にと請われたと思ったら娘ホルテンスの家政婦にという、つれないハナシ。スタートからベットの境遇に中年女の切なさが漂う。しっかりしていても独り身は寂しく、貧乏彫刻家ウェンセラスを面倒看ることで愛人関係になるが、なんとホルテンスに奪われてしまう。でてくる老若男女が他人を裏切ったという罪の意識なく、当然のように利己主義に走るアンモラルな姿は正に人間喜劇。
こんな惨めな中年女がどのようにして復讐を果たそうとするのか?原作とは違う結末が待っているがこの映画には相応しいエンディングのように感じた。
脇役では妖艶な歌姫エリザベス・シューが田舎出で大都会で逞しく生きる女を好演、可愛いお尻を魅せてくれた。他には当主・へクター役のヒュー・ローリーが思いやりがなく欲しいものに対しては貪欲な貧乏貴族をさりげなく演じ流石。対して若い彫刻家アデン・ヤング、当主の娘ケリー・マクドナルドの魅力に欠けるきらいがあったのが残念。
ネバー・クライ・ウルフ
1983年/アメリカ
動物とのスミ分けを声高ではなく訴える
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 85点
ファーレイ・モワットのノンフィクション「オオカミよなげくな」をカーティス・ハンソンなど3人が脚色、キャロル・バラードが監督したウォルト・ディズニー・ピクチャーズ第1回作品。ディズニーとはいっても大人向けなので大自然を相手に悩む主人公が英雄としては描かれていないところがいい。
北極圏でのトナカイの減少は狼が原因だとカナダ政府に6か月の派遣調査を指名された若い生物学者。たった一人で狼の生態調査で知ったドキュメント風ドラマ。ドキュメントといってもこの主人公タイラーは人間味たぷりで単発機で出発して直ぐ後悔するが、何もしないで引き返すと何を言われるか分からないと必死に挑む姿がとてもユーモラス。演じたのはチャールズ・マーティン・スミスでなかなかの適役。ナレーションが独りごとのように感じられた。
イヌイットの老人と英語が話せる青年ハンター以外はもっぱら狼との出会いと観察。北極狼は想像より大きく体重80Kg体長しっぽまで入れると2mにもなるという。白いその姿を観るだけで動物好きには堪らない。タイラーは狼に認められるためにマーキングをしたり、名前を付けたり狼の主食らしいネズミを食べたりしてその距離を縮めてゆく。ただし単なる部外者でしかなくトナカイの大群と狼の大群が遭遇したとき裸でうろうろするばかり。
人間がしたことは都会から来たハンターを案内することや生計を立てるために狼を殺すこと。自然界との共生は人間が壊してゆく実態を如何にスミ分けするかでしかない。
カナダの壮大な季節毎の景色と北極オオカミをヒロ・ナリタの撮影、マーク・アイシャムの音楽が臨場感たっぷりで画面を引き立てて猛暑のとき観ると、そこはかとない清涼感を漂わせてくれた。