晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『シャーロットのおくりもの』 75点

2011-07-13 11:56:01 | (米国) 2000~09 

シャーロットのおくりもの

2006年/アメリカ

実写で頑張ったファンタジー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆75点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆75点

E・B・ホワイトの原作を70年代にアニメ化して評判が良かったが、敢えて実写とCGを駆使してリメイク。ゲイリー・ウィニック監督の本作は前作にひけを取らない子供と一緒に楽しめるファンタジー作品に仕上がった。
主演は少女ファーンのダコタ・ファニングではなく蜘蛛のシャーロット。上手くできているが、蜘蛛はどうしても嫌われ者でヒロインには不向きな動物。クリスマスにはハムにされてしまう子豚・ウィルバーを何とか助けようと納屋の動物たちと知恵を絞る。
アニメならどうということもないシーンでも実写だと牛やウマ・アヒル・山羊・ネズミの演力?に頼るしかない場面をどの様に撮影・仕上げ加工したのか興味深い。演技賞ものは利己主義のネズミ・テンプルトンで、卵を抱えたり綿アメや泥に塗れたり大活躍。
動物が持って生まれた<命の引き継ぐ営み>を通して生きることの大切さを子供たちに伝えようという意図は分かるが、人間が食用として育てる豚を救う矛盾は拭いきれない。もう少し丁寧な説明が欲しかった。
吹き替え出演したのは子供を出産した直後のジュリア・ロバーツ(シャーロット)、スチーヴ・ブシェミ(テンプルトン)をはじめキャシー・ベイツ、ロバート・レッドフォードと超豪華。なんとなく本人の顔を連想しながら観てしまうところがミソ。


『フロント・ページ(1974)』 80点

2011-07-06 15:09:58 | 外国映画 1960~79

フロント・ページ(1974)

1974年/アメリカ

名匠B・ワイルダー晩年の佳作

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆75点

音楽 ★★★★☆75点

この年(74)の米映画は、代表作「スティング」を初め30年代を再現する懐古趣味作品が多く上映されている。「犯罪都市」(31)「ヒス・ガール・フライデー」(41)と過去2回映画化されたベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサーの戯曲を名匠ビリー・ワイルダーが3回目に挑んだ。「おかしな2人」の名コンビジャック・レモンとウォルター・マッソーの起用で大いに期待させる作品だったが、失敗作とは言わないまでも往年の冴えには程遠かった。それでもテンポの良さと台詞のシャワーに酔わせてくれて、晩年のワイルダー作品では佳作といえる。
暗黒時代といわれる29年のシカゴ。黒人警官を殺した死刑囚の特ダネ争いをする記者クラブの面々。凄腕記者ヒルディにJ・レモン、編集長にW・マッソー、ヒルディの婚約者・ペギーに若かりし頃のスーザン・サランドン。死刑囚の恋人モリーに当時TVでショー番組を持つ売れっ子のキャロル・バーネットという顔ぶれ。
なかでもJ・レモンは殆ど出ずっぱりでマシンガントーク連発。実年齢より若々しい演技で大奮闘していたが残念ながら敏腕記者という雰囲気ではなかった。ワイルダーは殆どが記者クラブ室内の舞台を、前の通りや駅のシーンを取り入れ原作にはないエピソードを織り込んでいるが、大成功までには至らなかった。市長は選挙の票集めに躍起で、警察署長は権力維持に必死という社会風刺もいまひとつ。
それでも粋なシークエンスが散りばめられていてエンディングタイトルまで眼が離せなかったのは流石。


『夜を楽しく』 80点

2011-07-04 17:25:57 | 外国映画 1946~59

夜を楽しく

1959年/アメリカ

時代を感じるがテンポよく品のあるラブ・コメ

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆85点

ドリス・デイとロック・ハドソンのラブ・コメは本作をキッカケに3作続くがこれが最初のコンビ。
働く女性の花形職業であるインテリア・デザイナーをしているジャン・モロー(D・デイ)は共同電話をしているが、いつも共同使用者の男が毎晩違う女へのラブコールに悩ませられる。会ったこともない男はブラッド・アレン(R・ハドソン)といい流行歌の作曲家だった。
独身のプレイボーイの一目惚れとなるがハイミスで純粋なジャンはテキサスからNYへ出てきたレックス・ステットソンと名乗る男が忌み嫌っていた共同電話のアレンとは気付かないまま惹かれて行く。
お決まりのストーリーながらテンポの良さと品のある展開でほのぼのとさせてくれる。ちなみにスタンリー・シャピロとモーリス・リッチマンの脚色がオスカーを受賞していて、ラッセル・ラウスとクラレンス・グリーンの原案をシェイプアップした手際の良さが評価されたのだろう。
主演のD・デイは当時もっとも結婚したいアメリカ女性の1位で歌手としても人気がありヒッチコック作品での「ケ・セラ・セラ」など多くのヒット曲を出している。洗練されたキャリア・ウーマンとはイメージが合わない気もするがとても可愛らしい雰囲気は魅力的。R・ハドソンは長身のプレボーイ役がまさにはまり役。このときがピークで晩年は恵まれていなかった。2人を上手くバランスを取っていたのが親友でジャンにプロポーズしていたジョナサン役のトニー・ランドール。2人の共演作品には欠かせない脇役だ。相変わらず秀逸なのは家政婦・アルマ役のセルマ・リッター。日本では樹希樹林がそうだが画面に出ただけで主役を喰ってしまうインパクトがある。
当時の良きアメリカを反映した楽しい作品だった。


『BIUTIFUL ビューティフル』 80点

2011-07-02 13:18:15 |  (欧州・アジア他) 2010~15

BIUTIFUL ビューティフル

2010年/スペイン=メキシコ

シビアな現実、安易な感動ものではない。

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆80点

自身の制作会社が「ikiru」というほど黒澤明監督を崇拝しているアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥが「死を間近に控えた男が、残された人生について思い悩む」という黒澤監督の「生きる」と同じテーマに思い入れを込めて挑んだ。主演はハビエル・バルデムで舞台はバルセロナだが、「恋するバルセロナ」とは両極の世界で薄暗く寒々しい大都会の裏街で物語は繰り広げられる。
ウスバルは裏社会で移民や不法滞在者を世話して手数料を稼いだり、特殊な霊能力を活かして死者との対話で遺族から小遣い稼ぎをしたりして生活している。環境は最悪で安アパートに娘と息子を養い、妻・マランブラは双極性障害でドラッグ中毒で心身ともに蝕まれ別居している。悪いことは重なり、体調が悪く病院で検査すると末期ガンと宣告を受けまさに八方塞り状態だ。
こんなとき、残された僅かな人生で何をすればいいのか?2人の子供をだれに託せばよいのか?自分の人生は何だったのだろうか?血尿が自分をドンドン追い込んで行く。
イニャリトゥ監督は「21グラム」「バベル」など得意の群像劇ではなく、ひとりの主人公をじっくり描いて見せる。シーン・シーンで多面的な性質をもつ複層的な人物として描き、リアルな人間像を浮き彫りにしている。それは彼を取り巻く人物にも言えて、妻・マランブラの描写は2人が如何に泥沼でもがいて苦しんでいるかを切々と訴えるものがある。
バルデムは見事カンヌの主演男優賞を獲得しているが、米オスカー受賞作「ノーカントリー」のような特異な役柄ではなく等身大の男をこれだけ演じ切れたのは流石で自己最高の演技を魅せてくれた。妻を演じたマリセル・アルバレスも負けず劣らずの名演だった。難しい役柄で人選に難航したらしいが、アルゼンチンの舞台女優である彼女を見出した監督の眼力は大したもの。彼女も期待に応え、自分ではどうしようもない哀しい女のサガを体当たりで表現していた。
失業率が高く経済的に苦しい大都会バルセロナがもつ現実は、地中海に沈む夕陽・サクラダファミリアの風景とは違うシビアな世界。セネガルの移民も中国人の不法滞在者も理解・同情を拒絶する現実があり、主人公にもシビアな世界を突き付け安易な感動ものにしない厳しさがある。それでも、生を全うしようと必死に生きた男には娘に教えたBIUTIFULという綴りと父から受け継いだ指輪が証しとして残された。そして父に出逢って「向こうにはなにがある?」と聴くことを願いながら痛みから解放されたのが救いになったのでは?
ラベルのピアノ協奏曲が心を安らかにしてくれた。エンド・ロールがとてもゆっくりと流れたのは、自分だったらどのような人生の終わりを迎えるのかを考えさせる時間だったのだろうか?
もちろん結論は出ないだろうが...。