黄色い星の子供たち
2010年/フランス=ドイツ=ハンガリー
衝撃的な事実をドラマチックに再現した佳作
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
ユダヤ人迫害の映画は数多くあるが、これはナチス占領下のフランス政権が行った「ヴェル・ディヴ(冬季競輪場)事件」を再現した衝撃的なドラマ。監督・脚本はローズ・ボッシュ。ジャーナリスト出身らしく綿密な取材を重ね、証言をもとに全体を見事に組み立てた構成は感動的。オスカー作品「ライフ・イズ・ビューティフル」はイタリアにおけるユダヤ系家族だったが、あくまでフィクションだった。モデルとなったヴァイスマン一家は実存していたことに驚かされる。主人公の当時11歳だった少年ジョーが公開を記念して来日して話題となった。
一家のモンマルトルの生活は祖国ポーランドとは違って、自由平等を尊ぶ国としてつつましく暮らしていた。ユダヤ人は胸に黄色いワッペンを付けることで差別は激しくなり、公共施設の使用を禁止される。42年7月16日午前4時、外国籍2万4千人の一斉検挙がフランス政府によって行われた。フランス・ヴィジー政権のペタン元帥はナチスへの忠誠、ラヴァル首相はユダヤ人移民の一掃を果たす格好の材料だったのだ。原題は「LA RAFLE(一斉検挙)」だが、直訳せず「黄色い・・・」はジョー少年や親友シモン・ノノ兄弟など子供達がテーマであることが反映されていてなかなか上手い邦題だ。
検挙されたのは1万3千人でヴェル・ディヴに収容されたのは約8千人。1万人余りは危険を察知して逃亡したり、勇気あるフランス人が匿ったりしている。このあたりの描き方もあざとくなく本国フランスでも大ヒットした理由だろう。ジョーの父(ガド・エルマレ)はフランスの良識を信じ、母(ラファエル・アゴク)は本能的に子供たちを守ることに懸命だった。無邪気に遊ぶ子供たちだが、ヴェル・ディヴでの扱いは非人道的のひとことで、水も食糧も与えられない環境は最悪。そんななか点検に来た消防士の放水は感動的なひとこまで、無事を託す手紙を受け取った消防士に的確な指示をした隊長は人道を優先する公務員の鏡でこうありたい。姉の逃亡はスリリングな出来事であり、警官の黙認なくして実現しなかっただろう。たった一人の医師シェインバウム(ジャン・レノ)にも胸には黄色い星がついていた。赤十字から派遣された看護師アネット(メラニー・ロラン)は自分を入れてたった6人の看護師しかいないことに愕然とする。
ロワレ県収容所に貨物列車で輸送された数日間はますます劣悪な環境で、大人はもとより子供たちも自分の運命を悟り始める。幼子が名前を聴かれフルネームを知らず「パパの名は?」と聞かれ「パパ」と答えるシーンが哀しい。
主要な大人たちは名優たちが顔を揃えている。
ジャン・レノはモロッコ移民のフランス人。決して民族が絡む社会性のあるドラマには出演していなかった。それ程慎重な彼が出演したのだから心を揺すられたに違いない。メラニー・ロランは祖父がアウシュビッツ経験者。それだけに思い入れもあって、まさに精魂こめた体当たりの演技はますます好感が持てた。ほかにも父のガド・エルマレはコメディアンで日頃とは180度違う役柄だし、演技派シルヴィー・テステューも出番は少ないがシッカリ存在感を魅せている。そしてジョーを演じたユーゴ・ルヴェルデを始め子供たちのリアルさは演技を超えた感動を呼び、大人の涙腺を刺激してやまない。
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