晴れ、ときどき映画三昧

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「はじまりのみち」(13・日)65点

2016-04-17 13:11:56 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 木下恵介へのリスペクトと平和への願いを込めた記念映画。

                   

 木下恵介といえば、黒澤明、小津安二郎、溝口健二と並ぶ日本映画の代表的監督だが、その生真面目な作風から評価には恵まれていない印象がある。

 筆者も3人に比べると49作中観たのはほんの数本で、最も馴染みの薄いひと。本作は松竹が<木下恵介生誕100年プロジェクト>の一環で製作した。監督・脚本はアニメで有名な原恵一で実写初作品。

 ’44<大東亜戦争3周年記念>と銘うって陸軍省が戦意高揚・国威発揚のため松竹に依頼して作られた映画「陸軍」。木下恵介(加瀬亮)が起用されたが、その内容が軍部に不評だったため睨まれ次回作が決まらない。木下は所長城戸四郎(大杉漣)に辞表を出し、故郷の浜松へ戻ってくる。

 故郷には大好きな寝たきりの母・たま(田中裕子)が迎えてくれた。だが実家の気田も空襲の危険が迫り、山間の親戚へ疎開することとなった。母想いの恵介(本名・正吉)はリヤカーで山越えをすることを提案し、兄(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)とともに出発した。

 軍部に睨まれた映画「陸軍」とリヤカーで母と山越えしたというエピソードをもとに、木下の人間性と作風を織り交ぜながら作られた本作には全作49本中15作が流れ、木下へのリスペクトに溢れた91分だ。

便利屋がシラスのかき揚げでビールを飲むエア食事は「破れ太鼓」(49)で阪妻がカレーライスを食べるシーンに、女の先生(宮あおい)が生徒を連れて歩くところは、「二十四の瞳」(54)で高峰秀子の先生に、正吉が母・たまを背負って歩いた記憶は、「楢山節考」(58)での息子が老いた母(田中絹代)を背負う名シーンに繋がっている。

 木下の映画は「また木下恵介の映画を観たい」とたどたどしい手紙を残した最大のファンである母であり、便利屋のような庶民の共感が支えている。

 大ヒット作「喜びも悲しみも幾年月」のリメイク「新・・・」のラストシーン、大原麗子が「戦争に行く船じゃなくて良かった」という言葉が、映画「陸軍」の田中絹代とオーバー・ラップしてくる。

 筆者が生まれた年に作られた「陸軍」は、戦意高揚・国威発揚には効果なかったかもしれない。しかし「お国のために立派に務めを果たしなさい」とは思っていなかった大多数の母親の気持ちを代弁していたのだ。

 


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