晴れ、ときどき映画三昧

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「あん」(15・日) 75点

2016-04-13 16:15:05 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・ 一皮むけた、カンヌの常連・河瀬直美監督のヒューマン・ドラマ。

                   

 「萌の朱雀」(97)で新人監督賞、「殯(もがり)の森」(07)でグランプリを獲得するなどカンヌ映画祭常連で高評価の河直美監督の最新作は、初の原作もので一皮むけた作風となった。

 原作者・ドリアン助川が樹木希林を想定した主人公で、映画化するなら河瀬監督をとの念願が実現した。

 桜が満開の東京郊外にある小さなどら焼きの店。雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)のもとへ、求人の貼り紙を見て働きたいといって現れたのが70代後半の徳江(樹木希林)。

 一目で無理だと思った千太郎は断ったが、翌日お手製の粒あんをもって現れた。その味に驚いた千太郎は、手伝ってもらうことに。

 日に日に客が増え大繁盛するが、ぱったりと客が途絶える日がくる。
 そんな時オーナー(浅田美代子)が現れ、徳江にはライ病だという噂がありすぐ辞めさせるよう忠告してくる。

 元ハンセン病患者の徳江と、訳あり店長・千太郎による親子のような交流によって「働くことの大切さ」「人間としての生き方」という人間の根源的なテーマに触れていく。

 ハンセン病に対する偏見は、無理解・誤解による長年による国家の過ちとして度々ニュースやドキュメントで見ることがあっても映画にはなりにくいテーマ。
 筆者が知っている限り「愛する」(97・熊井啓監督、酒井美紀主演)くらいしかない。

 河瀬はプロデューサーとしても優秀で、スポンサーが集まりにくいアート映画で力量を発揮していた監督。見事に樹木希林を口説き落とし、永瀬・浅田をはじめ市原悦子・水野美紀というキャスティングで映画化に漕ぎつけた。

 いつもどおり役作りは徹底して四季折々の風景を取り入れ、撮影中は役柄に没頭させるという手法を守り通した。

 リアリティの追及に妥協は一切なく、グツグツ煮える小豆・遠くから聞こえる朝の電車・桜や木々の風音など「音を大切にした高いクオリティ」は、カメラの穐山茂樹の映像も呼応して際立っている。

 おそらく初主演?の樹木希林無くしてはあり得ないほど主人公に馴染んいる。彼女以外で演じられるのは故・北林谷栄以外思い出せない。今の映画界には欠かせない貴重な女優である。
常連客で母親と2人暮らしの中学生・ワカナ役で素直な演技を見せた孫の内田伽羅が気がかりだったのでは?

 予想外の好演は永瀬正敏。従来なら高倉健がピッタリな役柄を体全体で演じ、樹木希林に食われなかったのに感心させられた。

 終盤、少し観念的なシーンが少し残念だったが、原作とは違うラストシーンに救われた。
 


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