・ 実話をもとにした漫画を、ファンタジックに映像化した森嵜監督。
認知症の母との日常をユーモアとペーソスを交えながら自身の体験をもとに描いた、岡野雄一のエッセイ漫画。題名の「ペコロス」とは<ちいさな玉ねぎ>のことで主人公ゆういちの頭からついた愛称。
自費出版からベストセラーなった原作を実写化したのは、庶民の哀歓をダイナミックに描くことに定評ある当時85歳の森﨑東監督。
漫画の持つほのぼのとしたファンタジーを、さらに昇華させた監督の手腕が光る。
オレオレ詐欺、帰り道がわからず迷子騒ぎ、汚れた下着隠し、駐車場で息子の帰りを待つなど、エピソードが交錯しながら、母の衰えを実感する息子。
<ゆういち>役の岩松は漫画のモデルに近づける工夫がみられ、原作ファンの期待を裏切らない役造り。介護という深刻なテーマを、ポジティブに生きるバツイチ広告営業マンぶりが滲み出ていた。
<みつえ>に扮した赤木は、本作による89歳で映画初主演がギネス登録され話題を呼んだ。確かな演技で現実と過去の狭間で揺れる心情を見事に表していた。
みつえの心象風景に登場する幼少期や結婚した頃や原爆症で死んだ幼馴染などの辛い思い出が、長崎で戦中・戦後に生まれ育った女性の一代記にもなって心を打つものがある。
若い頃のみつえに扮した原田貴和子・幼馴染<ちえこ>の原田知世・姉妹の共演も本作に欠かせない。気弱で酒癖の悪い夫<さとる>も、よく居た昭和一桁の男。3人が登場すると、その時代背景が色鮮やかに蘇ってくる。
現実は安サラリーマンの一人息子が認知症の母親を介護するハードルは低くない。周囲の目を気にする施設入りさえままならない。
長崎を舞台に繰り広げられるこの「介護喜劇映画」は、そんな現実を抱えた当事者に一服の清涼剤となっていることを願わずにいられない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます