晴れ、ときどき映画三昧

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「荷車の歌」(59・日) 85点

2013-12-21 09:53:25 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

 ・ 山本薩男監督、メジャーへのキッカケとなった力作。

     
 山代巴の原作・明治から昭和20年代まで、ある農村婦人の半生記を山本薩男が監督した。映画全盛期に大手5社から独立していた山本監督。農協婦人部のカンパを資金源にして<貧困の中姑にイビラレ夫に裏切られながら、逞しく生きたひとりの女性>を描いて共感を呼んだ。

 当時5社協定からはみ出していた三國連太郎や望月優子を筆頭に新劇の芸達者たちを集めたため、とてもリアルな人間描写が鮮やかに再現された。なかでも明治の半ば広島の山村で育った夫婦が家と田畑を得るため必死で荷車を轢く姿は、明治庶民のバイタリティがヒシヒシと伝わってくる。
 
 荷車は時代とともに馬車や貨物トラックに移りながら、夫婦は材木を切り出す仕事で実を結ぶ。その間、夫婦には5人の子供に恵まれるが、順風満帆とは程遠い姑の嫁いびりが続く。姑が亡くなると今度は夫の浮気。こともあろうに同居する始末。

 いつまでたっても苦労が絶えない主人公・セキを望月優子が演じている。苦境に立っても忍耐強く生き抜く日本の母が良く似合う。対する夫の三國連太郎は、老後の扮装では上の歯まで抜いて役者魂を見せスタッフを驚かせる熱演ぶり。

 二人に負けず脇を固める姑の岸輝子、愛人の浦辺粂子、隣家の友人・水戸光子、村のリーダー西村晃など存在感のある人たちが個性豊かな演技を見せてくれている。

 ヒトキワ目立ったのは長女役の左幸子の溌剌とした演技と子供時代の左時枝の達者な子役振り。撮影中、左に嫉妬した望月が相当いびったという。ドラマとは真逆のエピソードとして面白い。

 本作をキッカケに山本監督を始め望月優子、三國連太郎、左幸子がメジャーへと飛躍していったのも頷ける。