・ 反戦なのに清廉潔白ではない主人公がユニーク。
サリー(カール・マルコヴィス)はパスポートや紙幣偽造を生業とする一匹狼。逮捕されるが、その腕を見込まれユダヤ人強制収容所の秘密工場に送られる。そこは「ベルンハルト作戦」によるポンド偽装工場だった。ここで出会った印刷技師アドルフ・ブルガー(アウグスト・ディール)や画学生コーリャなどの生死を懸けた人間模様が描かれる。
アドルフ・ブルガーの実体験をもとにした原作をステファン・ルツォヴィッキー監督が脚色した戦争ドラマ。ナチスをテーマにした映画は多いが、紙幣偽装をユダヤ人側から観たものは珍しくオスカー最優秀外国語映画賞を受賞している。
精巧な贋札ができなければ処刑されるし、完成すればナチス・ドイツに協力し同胞を裏切ることになる。ユダヤ人技師たちの葛藤を描きながら、善悪をハッキリさせる人物描写ではなく玉虫色の性格描写がユニークで面白い。
ナチス・ドイツのヘルツォーク少佐(デーヴィト・シュトリーソフ)も、善き家庭人の姿を見せたり、敗戦間近を察し小心さを見せたりする。<究極な環境で、人はどのような言動をするのか?>改めて考えさせられる。
反戦映画なのに、主人子が犯罪者なのもユニーク。実在の人物で、戦後も贋札偽造を重ね国外逃亡、ブラジルでおもちゃ工場を経営したという。A・ブルガーが正義感溢れる人物像なのは、主人公との落差を狙ってのこと。決して原作者への過度な配慮ではないだろう。
タンゴ「ボルベール」、オペラ「トスカ」などが劇中巧みに取り入れられている。そしてエンディングの「マノ・ア・マノ」が余韻を残して終わる。エンディング・クレジットも丁寧で、好感が持てた。