晴れ、ときどき映画三昧

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「父と暮らせば」(04・日)80点

2015-08-12 10:38:45 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 井上ひさしの名戯曲が黒木和雄の映像で蘇った。

                 

 作家・井上ひさしが広島の原爆被災体験者を丹念に取材して書き上げた二人芝居の名作を、黒木和雄が映画化している。

 「TOMOROW 明日」(88)、「美しい夏 キリシマ」(02)に続く黒木の戦争レクイエム三部作・完結編でもある。

 昭和23年広島。図書館に勤める美津江(宮沢りえ)は大切な人を失った心の傷が癒えないまま暮らしている。

 図書館に現れた一人の青年(浅野忠信)に淡い恋心を抱くが、幸せになることのためらいから、いざというとき心が拒否してしまう。

 それを知った父・竹造(原田芳雄)が「恋の応援団長」を買って出て、何とかこの恋を成就させようとあれこれ励まし説得を重ねる。

 その竹造は原爆投下の日に亡くなっていた・・・。悲しみを乗り越えて新しい人生を歩みだそうとする4日間の物語だ。

 自分の幸せを願う心が父親との会話で浮き彫りにされながら、戒める心を持つもう一人の美津江が存在する。

 筆者にも宮沢りえと同い年の一人娘がいるので、父・竹造の気持ちが手に取るように分かる。劇中「人がたまげてのけぞるような色気はない」というが、我が娘と比べるべくもないが、凛とした美しさは儚い色気を感じ、まさにはまり役。

 原作に殆ど忠実に描きながら映画ならではの工夫は凝らされている。復興前の広島の市街地はとても舞台では表現できない。悲惨な被災地を再現することで、この戦争の酷さが倍増されている。

 父・武造に扮した原田芳雄は時には軽妙洒脱、時には悲運を伝える悲痛な叫び、そして事実を受け止めた今は娘の幸せを願う一人の父親の心情が見事に伝わってくる。

 一人芝居<広島の一寸法師>は、舞台にも負けない映画人としての誇りすら感じさせる熱演だった。

 殆ど出番・台詞がないのに、青年役・浅野忠信の存在感もなかなかのもの。

 映画本来の特長であるダイナミズムを放棄しても、宮沢りえ、原田芳雄の出演者、鈴木達夫の撮影、木村威夫の美術、松村偵三の音楽が一体となって、原作の持つエネルギーを映像に残したいという意欲が溢れていた。

 挿入歌、宮沢賢治の「星巡りの歌」が流れ、「こよな むごい別れが二度とあっちゃいけん!」という父と、「おとったん ありがとありました。」という娘の声がいつまでも耳に残っている。
  



 
 


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