goo blog サービス終了のお知らせ 

晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ウォーターボーイズ」(01・日) 60点

2014-09-04 12:45:03 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 邦画復興のキッカケとなった?青春コミカル・ドラマ。

                   

 長編3作目で、メジャーデビュー作品と言われた矢口史靖監督・脚本による青春コメディ。前2作はマニアック向けで、云わば和製スラプスティック・コメディで注目されていたが、男子高校生がシンクロナイズド・スイミングをするという奇抜なテーマでシネコンとともに邦画復興のキッカケとなった。

 静岡・牧之原の高校水泳部は、まさに廃部寸前だったが、美人教師の佐久間(眞鍋かをり)が顧問に就任すると部員が30名に増えた。

 ところが、佐久間が教えたかったのは競泳ではなくシンクロだった。結局残ったのは頼りない部長の鈴木(妻夫木聡)ら5人だった。

 今改めて見ると、いまや若手のスターである主演の妻夫木を始め、玉木宏・金子貴俊などが渋々シンクロに挑む姿は、若々しく時の経過の早さを感じる。

 コミカルな場面を竹中直人(怪しいイルカ調教師)、柄本明(オカマ・バーのママ)に任せ切ったストーリーは多少暴走気味も、暗い内容の多い邦画とは違って、今までにない突き抜けた明るさがあった。

 実在の県立川越高校の水泳部が行っているシンクロが、TVで放送され話題を呼んで矢口監督により映画化を果たし、後にTVドラマで再ブレークした本作。監督の次回作「スイング・ガールズ」(04)に引き継がれ、スター発掘のもとともなっている。

 ただ、<青春コミカル・ドラマ>の3匹目のドジョウは、なかなか見つかりそうもない。

「蟬しぐれ」(05・日) 75点

2014-07-23 18:09:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・藤沢文学の傑作を、映像化に腐心した黒土三郎の意欲作。

                    

 「たそがれ清兵衛」(02)を始め「隠し剣 鬼の爪」(04)と続いた山田洋次監督による藤沢周平時代劇の映画化。最高傑作と言われながら映画化は難しいと思われていた本作を黒土三郎が実現した。

 黒土がTVドラマのシナリオを書きドラマ化され評判となった本作。念願叶っての映画化で、TVでは描き切れなかった作品の「気高さ」を表現することに挑んだという。

 江戸時代、庄内地方の海坂藩で起こった権力争いに巻き込まれながら、直向きに生きた下級武士・牧文四郎の、清貧な半生と切ない恋を描いた時代劇。

 原作のエピソードを忠実に守りつつ、文四郎15歳から20数年間の物語を131分に纏めるのはかなり無理があり、初めて本作を観た場合エピソードの羅列について行けないところもあったのでは?

 原作やTV連続ドラマと条件が違うので、それとの比較はあまり意味がない。結論から言うと、<行間から溢れる空気感や透明感に腐心して頑張ったが、観客をその世界に引き摺り込むインパクトには欠けるきらいがあった>というところか。

 お気に入りは元服前の前半。普請組の義父・牧助左衛門は、お家騒動のため反逆罪に問われ切腹。最後の親子の対面は最初の見せ場。父を尊敬する文四郎の一途さを石田卓也が好演し、助左衛門を演じた緒方拳の律義で慎ましい姿が流石で印象深い。

 父の遺体を大八車で泣きながら引いて行く<矢場の坂>が前半のハイライト。文四郎と彼を秘かに慕うふくとの2人の懸命な姿が痛ましい。その後ふくは江戸に奉公が決まり、最後の別れに文四郎の家に行くが不在のまま逢えず仕舞いとなる。子役の佐津川愛美がなかなかの演技で、少女の直向きさが出ていて感心させられた。

 好調な前半に比べ、元服後の中盤は?が多く原作の味とは程遠い。演じた市川染五郎の品の良さは文句のつけようもないが、下級武士には見えず終盤の郡奉行で初めてイメージが合致。石田卓也からの変換が巧くないうえ2人の雰囲気がまるっきり違っているのが致命的。これは演技上の問題ではなくキャスティングのミス。

 剣に励みながら道場の先輩・同輩との交流も、ソレゾレは成り立っているが纏まりがなく原作の映像化に腐心しているのが窺える。リアルな斬り合いなど殺陣も見せ場があるが、決闘となった犬飼兵馬との経緯が省略されていたので深みが伝わらない。

 おふくに扮した木村佳乃は気高さと美しさを漂わせ、ヒロインに相応しい演技を魅せた。注文をつけるとすれば儚さが欠けていたように思うが・・・。

 「蝉しぐれ」というタイトルはラスト・シーンからつけられているが、本編は思い切ったアレンジとなっている。是非論はあるがこれは納得。

 庄内地方のオープンセットを組み、1年掛かりで美しい日本の風景をバックに繰り広げられたこのドラマ。できれば、庄内地方の言葉でやって欲しかった。

 私利私欲とはかけ離れたところで懸命に生きた下級武士と、好きなヒトとは結ばれなかったが20数年経っても想いは変わらなかった女の慎ましく気高い恋物語。

 大衆小説でありながら人々の心を掴んで離さない藤沢文学の映像化に全力投球した黒土三郎やスタッフに拍手を送りたい。
 

「ホタル」(01・日) 70点

2014-03-25 18:15:58 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
 ・ 健さんの熱い想いが動力源の<記念映画>。


               

 TVドキュメンタリーを観た高倉健が「特攻で亡くなった人を描くのは、映画人としての義務ではないか?>という熱い想いで完成した<東映創立50周年>記念映画。監督・降旗康男、撮影・木村大作は健さんとの黄金トリオ。試写会で観たのが12年半前だったことに、年月の経過の速さに驚かされる。

 平成の時代、昭和を振り返って太平洋戦争で戦った特攻隊を描いた最新作に「永遠の0」(13)があるが、<朝鮮半島出身の特攻兵を扱った>のは恐らく初めて。かなり冷え切った日韓問題を抱える現在、映画化は政治的配慮のあまり作れなかっただろう。現に河回(ハフェ)での1週間ロケ中も現地の人から詰問を受けたとのこと。半月後「教科書問題」が起きてロケはできなかったはず。

 それを除けば、相変わらず健さんらしく過去に触れることを避け、今を慎ましく生きる哀愁漂う男の人生が、心中で熱く・表面では淡々と描かれている。

 カンパチの養殖で暮らしを立てている山岡は、平成の世になって、かつての特攻隊仲間・藤枝(井川比佐志)が自殺したのを知らされる。愛妻・知子(田中裕子)が余命1年半だと分かり、戦時中彼女の婚約者だった韓国人特攻隊員金山<キム・ソンジエ>中尉(小澤征悦)の遺族を訪ねることを決断する。知覧の富屋食堂の女将さん(奈良岡朋子)から遺品を託される・・・。


 またしても、愛する女と故あって分かれなければならない男を演じる健さんは、コーヒーを飲んでも、ハモニカを吹いても、丹頂鶴のマネをしてもサマになっている。夫婦の情愛、男同士の友情、世代を超えた日本人の誇り、戦争で亡くなった人への尊敬など伝えたいこと満載の映画は若い世代に観て欲しいという願いにも拘わらず残念ながら健さんファンと中高年以外には伝わらなかったのでは?実在の富屋食堂の女将(鳥濱トメさん)がモデルの山本富子を演じた奈良岡朋子の熱演が全てを救ってくれている。

 <日韓の痛み>が解決するどころかドンドンエスカレートしている今、「韓国人が死んで、日本人のお前が生きているんだ!」と言われた山岡が「アリラン」を歌う気持ちも伝わらないのだろう。そして金山が出撃前「大日本帝国のためでなく、祖国と知子、そして山岡の友情のため出撃する」という言葉も一蹴されそうだ。

 そして映画を通して「二度と戦争を起こしてはならない」ことを伝えるために、太平洋戦争を描くことはなかなか難しい。

「おくりびと」(08・日) 85点

2014-02-27 16:49:16 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・ 日本の様式美と丁寧な作りで心温まる傑作となった。

 <納棺師>という、あまり馴染みのない職業を通して、人生を改めて考えさせられるという笑いと涙の感動物語。主演した本木雅弘のアイデアが発端で映画化された。<納棺師>という職業は{納棺夫日記」(青木新門・著)が参考になている。「壬生義士伝」「バッテリー」の滝田洋二監督、TV界の鬼才・小山薫堂の映画脚本によるオリジナル。米アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。

 チェリストだった小林大伍(本木雅弘)は、妻・美香(広末涼子)を連れて故郷山形へ戻る。<旅のお手伝いをする>というNKエージェントの募集広告を見て応募すると社長の佐々木(山崎努)は即座に採用するが、<旅立ちのお手伝い>の誤植だったとあっさりと言われる。

 人に感謝される仕事であるが、誰にでもできる仕事ではない。この映画では妻に「けがらわしい」といわれ、同級生(杉本哲太)に「もうちょっとマシな仕事があるだろう」といわれたり、ヤンキー女子高生の場で、同席した暴走族に向かって「こんな仕事しかできなくなる」と名指しされたりする。

 声を大にして反論することなく、まるで茶道のように鮮やかな様式美で心を込めた死別のお手伝いのシーンが続く。一歩間違えればトンデモナイ作品になりかねないが、自ずとその偏見は一掃されて行く。
山形の冬から春への美しい風景と久石譲の音楽が心を癒してくれる。

 等身大の若者が特異な職業に触れドンドンのめり込み、大人に成長して行くサマを見事に演じ切った本木の俳優としての素晴らしさを改めて実感させられた。

 脇役陣も素晴らしい。とくに山崎努は独特のアクの強さを抑え、きめ細やかな演技で近年では最高の演技。吉行和子・余貴美子に囲まれ広末涼子が浮いているとの評価も多いが、<涙を強要するための愛と感動の物語>にしたくないためのキャスティングだったように思われる。うまくバランスが取れていた。

 蛇足ながらニューハーフの遺体役・白井小百合に敢闘賞を贈りたい。

 小山の脚本は「料理の鉄人」の放送作家らしく、命の大切さを伝えるための食べ物が随所に出てくる。生きているタコを怖がる美香や、ふぐの白子焼きを美味しそうに食べる佐々木が「困ったことに美味しいんだな、これが。」と言うシーンが印象的。

 丁寧でスキのない作りだが、後半親切すぎて想像力を掻き立てるところが無くなってしまったのがモッタイナイ。


「ぷりてぃ・ウーマン」(02・日) 75点

2014-02-25 16:59:04 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 生き甲斐とは?を暗示してくれるハートフル・コメディ。

 「居酒屋ゆうれい」の渡邊孝好監督が、実在のおばあちゃん劇団「ほのお」をヒントにしてハートフル・コメディに仕上げている。

 脚本家を目指して静岡から上京した森下加奈子(西田尚美)は夢破れて帰郷する。森下家のおばあちゃん(淡路恵子)は老人クラブ・ともしび会のリーダー格でしっかり者。加奈子の封筒から「夕空、晴れて」という脚本を見つける。

 おばあちゃん女優群(風見章子、草村礼子、イーデス・ハンソン、正司照枝、絵沢萌子、馬淵晴子)に加え、森下家夫婦に岸部一徳・風吹ジュン、市役所の福士課長と部下に益岡徹・市川実日子と個性豊かな俳優達が脇を固めている。

 さらに津川雅彦、山田邦子、すまけい、佐藤允、ミッキー・カーティス、秋野太作、金子貴俊、石丸謙次郎、蛭子能収など、ワンシーンながらお馴染みの俳優達が見られるのも楽しい。しかも彼らがストーリーから脱線していないのもいい。

 洋画の「フル・モンティ」「ブラス!」や邦画の「ウォーターボーイズ」などと同様納まるところへ納まるストーリーながら、おばあちゃんたちに元気を貰ったのは家族や加奈子だけでなく、この映画を見たヒトたちなのかもしれない。

「クライマーズ・ハイ」(08・日) 80点

2014-02-14 20:09:17 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 仕事・家族・命を改めて想う人間ドラマ。

 上毛新聞の記者だった横山秀夫のベスト・セラーをTVドラマ化して評判を呼んだ「日航機墜落事故を取材した地方記者の人間ドラマ」を原田眞人が脚本化・監督した。「金融腐蝕列島 呪縛」「突入せよ! あさま山荘」など事件をもとにした社会派ドラマを得意とする原田監督らしい作りとなった。

 <クライマーズ・ハイ>とは「興奮状態が極限になると、恐怖感がマヒする」ことをいうが、大事件に遭遇した人間が正常化したトキ、その恐怖感が何倍にも増してしまうという。

 事件直後、大新聞社と地方新聞社の悲哀、販売・広告とのせめぎ合い、上層部と現場との葛藤など、組織で働いた人間なら誰でも似たような経験があるシーンが次々と描写される。

 主人公の北関東新聞・遊軍記者、悠木(堤真一)は不幸な生い立ちをトラウマに抱え、父親として悩みながら仕事に没頭する。

 残念だったのは、父と子の物語が伏線としてあるのだが少し弱い。23年後親友の息子麟太郎(小沢征悦)の補佐で谷川岳に挑むシーンがクロスオーバーするが、堤が若すぎて年月を感じさせなかったあたりもキメ細かさに欠けていた。

 秀逸なのは、事件発生の8月12日から20日までの群像劇。敵対しながらも特ダネ記事をバックアップする社会部長(遠藤憲一)や、正義感溢れる記者魂を見せる整理部長(でんでん)など、きめ細やかな人物描写は厚みのある脇役陣が応えている。なかでも当時売り出し中の堺雅人が、昔の「事件記者」を彷彿させるような美味しい役柄で目立った存在。

 2時間半の長さを感じさせない、緊迫感のある人間ドラマとして堪能することができた。

「山桜」(08・日) 75点

2014-02-12 17:53:21 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
 

 ・ 藤沢周平作品の行間を映像化する難しさを感じた。

 藤沢周平の短編集「時雨みち」の一編「山桜」を「初恋」の篠原哲雄監督が手掛けた初の時代劇。

 江戸後期、庄内海坂藩に暮らす野江(田中麗奈)。叔母の墓参りの帰り、ふと目に目に留まった山桜。一枝撮ってくれた武士は手塚弥一郎(東山紀之)というかつて縁談を断った相手だった。

 夫に先立たれ再婚したものの、居場所が見つからない野江の心に光が射してきたのを感じる。藤沢作品にしては珍しく女の視点で描かれた純愛物語だ。

 原作の雰囲気を映像化するのに苦心の跡が見られ、その行間を表現する難しさが窺える。庄内の四季の移ろいを丁寧に映しているが、究極の美しさとは言い難い。おそらく厖大な製作費がないと無理なのだろうが、この手の作品には致命傷に成りかねない。

 主演の田中麗奈は頑張っているが、所作に欠点が見えたのはモッタイナイ。それに引き換え東山紀之はイメージにぴったりで殺陣も美しくまるで絵に描いたよう。

 壇ふみ、冨司純子のベテランがこの時代の女を彷彿させてくれるが、出演者の言葉遣いが現代風なのが気になったのと、主題歌(一青窈・栞)は劇中よりエンディングが相応しいのでは?

「紙屋悦子の青春」 (06・日) 80点

2014-02-11 11:57:12 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 遺作となった黒木和雄の可笑しくて哀しい反戦ドラマ。

 ATGの代表的監督・黒木和雄の戦争三部作に続いて、可笑しくて哀しい反戦ドラマ。残念ながら完成公開を待たずに遺作となってしまった。

 黒木はPR映画出身で、筆者が42年勤めた会社のPR映画<「太陽の糸」(’63)>の監督でもあり個人的にも想い出深いヒト。

 この作品は戯曲(松田正隆・作)の映画化のため登場人物も少なく、場所も病院の屋上と紙屋家が殆ど。音楽もエンドロールに流れるのみで、あとはSEを効果的に配した静かな展開。自ずと出演者の演技力が問われる作りである。

 主演の紙屋悦子を演じた原田知世は、実年齢より20年も若い青春時代を違和感なく好演している。30年以上の老け役には無理があったが、アップを避けた映像で何とかカバーできている。

 共演の永瀬正敏(永与少尉)は、朴訥な風貌が当時の軍人を彷彿とさせてチンピラ役イメージからの脱皮を果たしている。明石少尉役の松岡俊介とともに、礼儀正しく祖国のために命を投げ打つ一途な若者像は類型的ながら感動的。<おはぎ>でのお見合いは微笑ましく思わず笑ってしまう。

 脇役ながら兄夫婦(小林薫・本上まなみ)の会話もクスクスと笑いを誘う。終戦間近の2週間に起きた5人のドラマが、哀しみを一層深く漂わせる。

 監督自身、中学時代に起きた爆撃のトラウマをこんな形で昇華させたと思うと、とても感慨深いものがある。

「海は見ていた」(02・日) 80点

2014-01-29 15:41:42 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 山本周五郎の人情劇を堪能した。

 山本周五郎の短編2つを黒澤明が脚本を書きながらコスト面で映画化を断念した作品。黒澤久雄が企画し、監督は女の情感を描くのに定評ある大ベテラン・熊井啓。

 江戸の岡場所・深川の遊女お新(遠野凪子)と菊乃(清水美砂)を巡る人情劇。弱い人間を温かく見つめる山本周五郎の世界を充分堪能できた。

 登場する男たちは、類型的ながら長所・短所がくっきりと見え、2人の女を浮かび立たせるにはもってこいのキャラクター。

 前半登場する房乃助(吉岡秀隆)は育ちの良い武士で、性格は素直だが世間知らずでヒトを傷つけることを気付いていない。菊乃にまとわりつく銀二(奥田瑛二)は絵に描いたようなヒモで、それぞれがはまり役。温かく見守る御隠居(石橋蓮司)が遊女たちの救いで、老後はこうありたいと思わせる好々爺だ。

 後半登場する良介(長瀬正敏)こそ周五郎の世界そのもの。女優の2人は前半・遠野、後半・清水が主役で、時代劇としては珍しい構成になったのは黒澤脚本を崩せなかったためだろう。

 コスト面で終盤の洪水シーンがプアになったが、その分人間に焦点を当てた熊井ワールドが形成できていて、これはこれで良かった。黒澤作品には欠かせない黒澤和子の衣装によって、絢爛豪華な吉原とは違う深川の遊興文化を垣間見ることができた。

「明日への遺言」(07・日) 80点

2013-12-27 07:53:46 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 真のリーダーとは?を問う法廷闘争ドラマ。藤田まことの熱演が光る。

     
 大岡晶平原作の「ながい旅」を小泉堯史監督で映画化が実現した。太平洋戦争末期に、米軍による市街地爆撃兵を処刑した戦犯・岡田資中将の法廷闘争物語。家族に愛され部下に慕われる日本人男性の理想像を、岡田資に託した小泉の15年越しの執念が実った。

 その殆どのシーンが法廷だが、静かな法戦に挑む岡田中将を演じた藤田まことの凛とした姿勢に、リーダーとしての美学を観た。実在の人物を演じた藤田にとって、歌の司会・コメディアン・必殺シリーズなどのTVを経た長い芸歴の集大成といってもいい。

 人柄に打たれた裁判官が<報復>による処刑では?と救いの言葉をも否定している。<報復>と言えば米軍による裁判では死刑にならずに済んだのに。映画を通してB級裁判でも、このような公平な裁判があったのを知った。

 国際法では禁じられている無差別爆撃がつい最近まで堂々と行われ、それを戦争終結の手段だから仕方ないと割り切ってあたかも合法のように大量殺人が行われていた矛盾。幼くて記憶にはないが、筆者の幼児期には東京大空襲があったと親から聴かされているので、決して他人事ではない。東アジアが緊張感を増す今日だからこそ、若い人たちにも観て欲しい作品である。