・ 椿三十郎と遠山の金さんをミックスした市川崑監督の時代劇
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’69に結成された黒澤明・木下恵介・市川崑・小林正樹による<四騎の会>。山本周五郎原作「町奉行日記」を映画化しようとシナリオは完成していたが結局果たせなかった。
その前に勝新太郎主演<町奉行日記 鉄火牡丹>が映画化され、岡本喜八が仲代達矢「着流し奉行」でTV時代劇化されている。
00年84歳だった市川が30年ぶりにメガホンを取って実現した。かつて錦之助、裕次郎、勝新などが候補だった主演は役所広司。
ある小藩に「壕外(ほりそと)」と呼ばれる治外法権と化した地区に蔓延る腐敗を糺すべくやってきた町奉行。あだ名が「どら平太」で道楽の限りを尽くした小平太をもじった望月小平太(役所広司)が八面六臂の活躍を描いた時代劇。
主人公は椿三十郎と遠山の金さんをミックスしたような黒澤色が濃いキャラクター。
随所に銀残しと呼ばれる影と光あふれる映像を駆使、大胆なカット割りなど市川節は健在だ。
ただ、コミカルな要素が空回りして爽快感が沸いてこない。
原因は、巨匠四人の個性が足を引っ張り合い出来上がった脚本を尊重するあまり、勧善懲悪の痛快時代劇として完成度が今ひとつだったこと。
さらに主要な共演俳優(浅野ゆう子、宇崎竜童、片岡鶴太郎)がイメージ・ギャップとなって盛り上がりに欠けるキライがあった。
反面、大滝秀治、加藤武、神山繁など藩の重臣が流石の演技で脇を固め、壕外の三悪(菅原文太・石橋蓮司・石倉三郎)や流れ者の壺振り女・岸田今日子などが惹きたてていた。
菅原は大物過ぎて役所は貫禄負けしていたが、飄々とした爽やかな演技と奮闘した殺陣で今後の活躍が想像できる主演ぶりが目立った。
脚本の欠点を露呈してしまった本作だったが二一世紀に時代劇の火を灯した記念すべき作品として拍手を送りたい。