晴れ、ときどき映画三昧

「壬生義士伝」(03・日)75点


 ・ 泣かせる作家・浅田次郎の時代劇を、手堅く纏めた滝田洋二郎監督。

                  

 浅田次郎原作の長編時代劇を中島丈博が脚本化、相米慎二監督の急死を受けて滝田洋二郎が監督した137分。

 主演・中井貴一、共演・佐藤浩市の映画界サラブレッドが、幕末に翻弄された新撰組志士に扮し初共演したのも話題となった。

 明治32年満州・奉天に旅立つ前夜の町医者の所へ、孫を連れてきた老人。古い写真立ての男に気付いた。男は新撰組の吉村貫一郎(中井貴一)で、老人が思い出を語り出す。

 老人は新撰組でも幹部クラスの斎藤一(佐藤浩市)だった。入隊希望者のみすぼらしい田舎浪人が、組第一の遣い手・永倉新八と互角に渡り合った剣の達人だった。彼が元南部藩下級武士の吉村である。

 原作同様、吉村が若いころに戻って、何故貧しいながら愛する妻・しづ(夏川結衣)と子供たちを残し脱藩したのか?を辿って行く。

 おさな馴染みだった大野次郎右衛門(三宅裕司)が上司であり、恋のライバルだった経緯、脱藩の理由などが綴られ、貧しい田舎侍の哀愁が滲み出ている。

 卑屈なまでに腰が低く守銭奴とまで呼ばれた吉村は、貧困に喘ぐ家族のために脱藩して金を送っていたのだ。人を何人も殺し虚無的な人生を送っていた斎藤には、凡そ正反対の吉村が気に入らず斬ろうとするが、必死の抵抗に会い腕を試したのだと誤魔化す。

 幕府の京都守護を任されていた旗本となったのも束の間、大政奉還後逆賊となった仇花新撰組にいる二人。人となりを知った斎藤は、鳥羽伏見での戦いで一人官軍へ斬り込んでいった吉村へ「死ぬな~!」と絶叫する。

 中井貴一の朴訥とした南部下級武士はミスキャストでは?という予想を覆す名演技。一見冷めた男だが愛情溢れる男を演じた佐藤浩市はハマり役。

 薄幸な女ぬいを演じた中谷美紀、健気な妻夏川結衣も彩りよく、脇を固める共演者も三宅裕司を始めなかなかユニーク。

 塩見三省の近藤、野村祐人の土方、堺雅人の沖田、津田寛治の大久保など本来なら脚光を浴びる役柄を斬新なイメージで適材適所に配している。

 なかでは大野家の中間・佐助に扮した山田辰夫が役得だった。
 
 盛りだくさんなエピソードを盛り込んで、時代を行ったり来たりする長編ストーリーを何とか纏め上げた中島丈博の脚本は、原作の雰囲気を壊さないよう苦慮したようで、後半は整理し切れずテンポがダレてしまった。

 滝田の演出もナレーション・台詞が過剰気味で、久石譲の音楽もこれでもか?という泣かせる映画にエネルギーが費やされたのが惜しい!

 本作は渡辺謙主演のTV新春時代劇(02)と比較されるが、むしろ前年上映された「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督・真田広之主演)を意識していたのはないか?

 この藤沢周平の原作は山形庄内を思わせる海坂藩の下級武士が主人公で、剣の達人ながら家族のために慎ましく暮らす主人公が藩命により人を斬る。境遇が良く似ている南部盛岡の吉村は、<故郷の石割桜のような侍魂を持ち>義の道を選ぶ。

 回顧シーンをコンパクトにして120分ほどだったら、余韻の残る名作になったのでは?と思わずにいられない。

 

 

  
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