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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「スリー・ビルボード」(17・英 )85点

2018-07-27 14:40:41 | 2016~(平成28~)

・ 独特なユーモアがあるクライム・サスペンス風ヒューマン・ドラマ。




47歳の英国人監督、マーティン・マクドナーによる長編3作目で、米国南部を舞台に繰り広げられる人間模様。東京国際映画祭で上映され、作品賞を始め自ら書き起こした脚本などオスカー6部門にノミネートされた話題作。

ミズリー州エビング(架空の町)の町はずれに設置された3枚の大きな赤い広告看板。「レイプされて殺された」「逮捕はまだ?」「どうして?ウィロビー署長」と書かれていた。

設置したのは娘が殺され数か月経つにも関わらず犯人が見つからないことに憤るミルドレッド。それを不快に思う町の人々や警察との諍いが思わぬ方向へ展開していく。

ミルドレッドに扮したのは、「ファーゴ」(96)のオスカー女優フランシス・マクドーマンド。
最愛の娘を殺した犯人探しに懸命な悲劇のヒロイン像を予想するが、ドラマの進行とともにかなり違う人間像であることが分かる。
それは娘との最後の会話から自責の念と悔恨が深く心に突き刺さっていたから。犯人逮捕によって自分への区切りとしたい気持ちが揺り動かしていたのだ。
バンダナにツナギを身に纏いにこりともしない闘う女だが、虫や草花を愛する優しい面も垣間見せる。

町の人望を集めるウィロビー署長(ウッディ・ハレルソン)は苦境に立たされるが、問題を自ら抱えていた。決して無能ではないが退任も近く、証拠に乏しい犯人逮捕に全力で立ち向かう気配は感じられない。

署長を父親のように慕うディクソン巡査(サム・ロックウェル)は、人種差別主義者で短気な暴力警官。ミルドレッドを目の敵にし、看板を設置した広告社のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)をボコボコにして警官をクビになってしまう。

前半はミルドレッドとウィロビーのやり取りで物語が展開するが、後半はディクソンにとって変わる。

3人を中心にその周辺の人々がアメリカの象徴であるこの田舎町の閉塞感を感じさせる。さらに複合的な心理描写とともに人間の優劣や善悪が一概には決めつけられないことも。

マクドナー監督は北野武作品のファンであることを公言しているが、ブラックでバイオレンスな描写を独特なユーモア感覚を交え、最後まで引きずり込んで行く。

ネタバレなしでレビューするのが難しい「愛と赦し」がテーマの本作だが、エンディングまで見逃せない現在のアメリカを捉えた傑作だ。

オスカーは惜しくも作品賞・脚本賞を逃したが、F・マクドーマンドが2度目の主演女優賞、W・ハレルソンとともにノミネートされていた助演男優賞にS・ロックウェルが受賞した。

監督の次回作および、これからを大いに期待したい。




「15時17分、パリ行き」(18・米 )70点

2018-07-23 12:06:24 | 2016~(平成28~)

・ C・イーストウッドの飽くなきリアリズムの追求。




15年8月21日、アムステルダムからパリへ向かう高速鉄道タりス車内で起きた「タリス銃乱射事件」で、乗客3人の若者が男を取り押さえ大惨事を防ぐことに成功した。

3人の少年時代のエピソードから事件に遭遇するまでのヨーロッパ旅行を描くことで運命的な事件に遭遇するまでを描いた再現ドラマ。

監督は御年87歳のクリント・イーストウッド。このところ「アメリカン・スナイパー」(14)、「ハドソン川の奇跡」(16)と実話をもとにした作品を手掛けているが今回はその集大成と言ってもいい。

まず、主人公の3人は本人が出演している。当時、米空軍上等兵のスペンサー・ストーン、オレゴン州兵アレク・スカラトス、カリフォルニア州立大学生のアンソニー・サドラーの3人は子供の頃からの親友。
監督はテクニカル・アドバイザーとして3人を起用するうち、出演を勧めたという。

おまけに乗客や警官・看護師など当事者たちも再現ドラマに出演している。トラウマになりはしないかという懸念を乗り越えられたのだろうか?特に首を負傷したマーク・ムーガリアンとその妻イザベラの演技は迫真の演技だった。

次に少年時代から事件まで、ウソがないことに拘ったこと。運命的なエピソードの積み重ねで繋いだ無駄のないストーリーは94分の上映時間。

監督はオーバー・アクトを好まず、素人にも演技に注文を付けていない。

長年のコンビであるトム・スターンによる手持ちカメラの多様は、臨場感を誘い観客が乗客のひとりになったかのよう。

一見無駄なようなヴェネチア・ローマ・ベルリン・アムステルダムの観光旅行にも伏線がしっかりあるのに気が付いたのは観終わってからだった。

事実にタラレバは無意味だが、3人の言動はひとつでも違っていたらあの事件に遭遇しなかったことだろう。もっと遡ればサバゲーに夢中だった子供時代まで運命的だった。

とっさに銃とナイフを持った犯人に素手で突進したスペンサーは英雄になったが、日本の新幹線でナイフで殺傷された若者の勇気を思うと複雑な気分になる。

仏オランド大統領による叙勲のスピーチはニュース映像で再現されたが、オバマ大統領との面会シーンは採用されなかった。共和党びいきのイーストウッドらしい。

ヒトラーの墓で<アメリカ人の常識が正しいとは限らない>という骨っぽい皮肉には彼の視野の広さを改めて感じた。

「あなたの旅立ち綴ります」(16・米 )70点

2018-07-15 11:48:08 | 2016~(平成28~)

・ S・マクレーンが主人公にオーバーラップするハートフル・コメディ




<終活>をテーマにした作品には心温まるコメディが多いが本作もそのひとつ。

「アパートの鍵貸します」(60)、「愛と喝采の日々」(77)、「愛と追憶の日々」(83)を始め、今日までコンスタントな活躍を続けている大女優のシャーリー・マクレーン。
彼女をイメージして書き起こしたスチュアート・ロス・フィンクの脚本を「隣人は静かに笑う」(98)のマーク・ベリントン監督で映画化。

広告エージェンシーを長年経営していた81歳のハリエット・ローラーは、新聞で訃報記事を目にしてふと自分の場合はどう書かれるのだろうか?と気になる。
何でも自分でやらないと気が済まないハリエットは地元の新聞社を訪ね、訃報記者アン・シャーマン(アマンダ・セイフライド)に<最高の訃報記事>を委ねる。

S・マクレーンと若手女優A・セイフライドが反発しながらも、最高の訃報記事を満たすための4つの条件を追ううち、世代を超え友情を育んで行く。

家族・友人に愛されたか?同僚から尊敬されたか?を彼女なりに反芻するハリエット。思いがけず誰かの人生に影響を与えるにはコミュニティセンターで暮らす9歳のブレンダを手元に置くことにする。
ハリエットがアンとブレンダを伴い何年も逢っていない娘エリザベス(アン・ヘッシュ)を訪ねるシーンは、微笑ましいエピソードのロード・ムービーとなる。

最後の訃報の見出しになるような人々の記憶に残るワイルド・カードが難問だったが、ハリエットはアナログのラジオDJを選ぶ。
あまり知られていないロックミュージックを選んでタイムリーに流す監督のセンスと、ネイサン・マシュー・デービットの音楽が心地よい。

不治の病である心臓病を抱えながら湖で泳いだり、世代を超えた疑似家族が安らぎを与えるなど多少無理な設定にも関わらず、<失敗を恐れるな>というS・マクレーンの心に残るメッセージが印象的。

アンとロビン(トーマス・サドスキー)があまりにも早く恋人同士になるのが不自然な気もしたが、この共演で再会・結婚して子供も生まれたので<事実は小説より奇なり>ということか?

女性が社会で成功するのが現在とは比較にならないほど難しかった60年代。激しい広告業界で会社を経営していたハリエットの生き方は、S・マクレーンの歩んできた人生とオーバーラップしているようだ。

「勝手にふるえてろ」(17・日)70点

2018-06-27 12:58:22 | 2016~(平成28~)

・ 等身大の独身女性を演じた松岡茉優が好演のラブ・コメ。




芥川賞作家綿引りさが2010年発表した小説を現代女性の心理描写を映像化するのを得意とする大九明子が脚本化・監督したラブ・コメディ。

映画初主演の松岡茉優が24歳のOL女性・ヨシカに扮し、お姫様願望のある等身大の独身女性の本音をリアルに演じながらも同性から共感を得られる恋愛喜劇になっている。

誰でも中学時代異性に興味を持つが、大抵はそのまま恋愛に育っていくことはない。ヨシカは上京してOLになっても10年も忘れられず脳内片想いを続けている。

会社での同期会に渋々出席して、纏わりついてくる男に理想と現実のギャップを目のあたりにする。

中学時代の片想い同級生を<イチ>(北村匠海)、面倒な会社の同期を<ニ>(渡辺大知)と名付け、心の内で行ったり来たりするヨシカ。

元お笑い芸人の監督は、タイミングよくクスクスとした笑いに変えながら、都会で暮らす若い独身女性の孤独感を伝えてくる。

突然ミュージカル風にヨシカが歌い出したり、金髪の店員、釣りをするおじさん、オカリナが好きなアパートの隣人、駅員、コンビニの店員などとの交流がトリックとして映像化されるところは新鮮な手法だ。

同時上映された「彼女がその名を知らない鳥たち」のヒロインを比較すると、蒼井優に対し松岡茉優の人物になりきった演技が光る。
阿部サダヲにあたるのが<ニ>に扮した渡辺大知。日本の平均的男子で欠点がアカラサマだが実は魅力的な人物を好演している。

孤独な現代女子へのメッセージが、共感をもって受け入れられそうなエンディングだった。



「彼女がその名を知らない鳥たち」 75点

2018-06-25 12:05:04 | 2016~(平成28~)

・ イヤミスの女王小説を映像化した白石和彌監督による男女の愛憎劇。



湊かなえと並ぶイヤミスの女王・沼田かほかる原作の同名小説を「凶悪」「日本で一番悪いやつら」の白石和彌監督で映画化。主演した蒼井優が日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した。

15歳年上の男・陣治と同棲している十和子。不潔で下劣な陣治を毛嫌いしながら彼の稼ぎで自堕落な生活をしていた。
ある日デパート店の時計売り場の主任に、かつての恋人黒崎との想いがオーバーラップしてくる・・・。

清純派のイメージが抜けきらない蒼井優が自分勝手で自堕落な女性役に挑んだ。関西弁でデパートへクレームの電話をするさまは本当にこんな女がいるなと想わせる。
家事一切をせず家は散らかり放題、金銭的な繋がりだけで男と同居し、8年前に別れた恋人を未だに引き摺っている。

十和子を巡る男たちが3人登場する。

阿部サダヲ扮する陣治は、建築現場の作業員で十和子に<不潔・下品・下劣・貧相・卑劣>と罵られながら十和子のためなら何でもするという。食事のシーンで品格が窺えるように生理的に女性が受け付けないタイプ。

十和子が忘れられない黒崎を演じているのが竹ノ内豊。くどき上手で派手好きなイケメンの自営経営者だが利害だけで動くクズ男。

デパートの主任水島に扮したのは松坂桃李。朝ドラの清々しい2枚目から悪役まで幅広い役に挑み活躍中だが、今回は妻子持ちの好色な不倫男の役。

3人とも女性から見て結婚相手に相応しくないダメ男たちだが、現実には理想的な王子様は存在しないという恋愛指南的な作品ともいえる。

見かけで騙されてはいけないという警告でもあり、DV男やストーカーの区分けはなかなか難しい。

ねじれた男女の愛憎劇はミステリー要素を孕みながら、終盤<究極の愛>で幕を閉じる。

蒼井優の体当たり的演技が賞に結びついたが、筆者には蒼井優は蒼井優にしか見えなかった。

むしろ汚れ役の阿部が役得で本編をさらってしまった。二人のイケメンは女性ファンが減るの覚悟で演じたことに拍手を送りたい。

「ローズの秘密の頁(ページ)」 70点

2018-06-23 17:47:57 | 2016~(平成28~)

・ 時代に翻弄されたアイルランド女性の大河ロマン。




セバスチャン・バリーの原作を大胆に脚色してメガホンを撮ったアイルランドの巨匠ジム・シェリダン。

「マイ・レフトフット」(89)、「父の祈りを」(93)が代表作だが、筆者にはアイルランドから渡米した自伝的ファンタジー映画「インアメリカ 三つの小さな願いごと」(02)が印象深い。

時代に翻弄された一人の女性の半生を描いたラブ・ロマンは、美しいが過酷な環境のアイルランドの風景がミハイル・クリチマンのカメラと月光の旋律が映えるブライアン・バーンの音楽が花を添える。

80年代半ば、アイルランド西部の精神病院の取り壊しが決まり、転院する患者の中で頑なに拒否するローズ。彼女は40年前赤ん坊殺しの罪を背負いながら精神科医グリーン(エリック・バナ)に自分の人生を語り始める・・・。

年老いたローズを演じたのは大女優ヴァネッサ・レッドグレーブ。80歳を超えて毅然とした佇まいは、ローズが本当に自分の子供を殺したとは思えそうもなく興味が沸いてくる。

若い頃のローズには、ルーニー・マーラ。その一途な瞳には薄幸の女性にはピッタリで、「ドラゴンタトゥーの女」(11)、「キャロル」(15)など今目が離せない女優。

まるっきり似ていない二人だが殆ど気にならなかった。

この時代の背景を理解していると、ローズの置かれた環境が如何に理不尽なものかがよく分かる。

ローズは戦火が激しくなって、英領アイルランドから叔母を頼ってアイルランド共和国へ移ってきた。英国と違って中立を宣言していたアイルランド。思想・宗教も違っている。

都会からやってきた若くて美しい女性の存在は、それだけで注目の的。なかでもゴーント神父(テオ・ジェームズ)と酒屋の息子で英国軍人となったマイケル(ジャック・レイナー)は環境が好対照でローズを巡って争う破目になる。

余りにもでき過ぎの感は否めないが、ローズを巡る40年の愛の物語は聖書に書かれた日記により終結を迎える。たった一つの愛を貫いた女性の壮大なラブストーリーだ。

「ロング、ロングバケーション」(17・伊)75点

2018-06-17 12:34:00 | 2016~(平成28~)

・ ユーモアたっぷりな老夫婦の終活を描いたロード・ムービー。




50年連れ添った老夫婦が、愛用のキャンピング・カーでボストンの自宅からヘミングウェイが暮らしたキーウェストを目指して旅に出る。
人生の終わりを見据え過ぎ去った時を懐かしみながら夫婦の愛を確かめ合う、ユーモラスなロード・ムービー。

マイケル・ザドュリアン原作<旅の終わりに>をイタリアの巨匠パオラ・ヴィルズイ が監督。夫婦役をヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドという名優が共演している。

H・ミレンは知的な役柄が多いが本作では末期ガンながら強い生命力と夫への愛を全面に出した快活な女性エラに扮し、ほゞ完璧な演技は流石のオスカー女優。

D・サザーランドはヘミングウェイ研究の元・文学教授ジョンで、アルツハイマーが進行中。

こんな二人が娘や息子に行き先を黙って愛用のレジャー・シーガーに乗って旅に出る。それは終活への旅でもあった。

現実には認知症の夫が運転するキャンピングカーで長い旅を全うすることはできそうもないが、そこは映画ならではのこと。

本作ではガソリンスタンドで給油中、エラを置き去りにしたり、蛇行運転して警官に止められたりする。これもエピソードとして笑って済ませたい。

<ユーモアを忘れずに、夫婦の愛を描きたかった>というP・ヴィルズィは旅のエピソードのなかで如何に夫婦愛の絆が深いかを随所に織り込んでくる。

教え子の女性に遭遇したジョンは名前をしっかり覚えているのに、自分の娘や息子の名前を思いだせなかったり、妻のエラを隣人のリリアンを混同したりする。そのリリアンとは2年間浮気をしていたのが判明する。知らなかったほうが良かった昔の秘密がエラを怒らせ老人ホームに置き去りにする。

エラの初恋相手ダンはヒッピーの黒人男性だった。ジョンは未だに嫉妬してしていて老人ホームで再会すると銃を向けたりの騒ぎを起こす。

目的地キーウェストはすっかり観光地化して昔の面影はなかったが、人生を謳歌している人々に触れるだけで老夫婦の終活は目的を果たしたのだろう。

死を待つのみの老人ホームを拒否し、娘や息子に迷惑を掛けたくないというエラの想いは清々しいエンディングを迎える。

ジョンは果たして満足した人生を全うしたのだろうか?自分がジョンだったらと我が身に置き変えてみるとと少し気分が重くなってしまった。











「はじまりの ボーイミーツガール」(16・仏)70点

2018-06-10 11:52:25 | 2016~(平成28~)

・ 優等生少女に恋する落ちこぼれ少年の青春ラブストーリー。




パスカル・ルテールのベストセラー「点字で書かれた心」を、監督3作目のミシェル・ブジュナーで映画化された、青春ラブストーリー。

チェリストを夢見る優等生少女マリー(アリックス・ヴァイヨ)へ密かに恋心を抱く落ちこぼれの少年ヴィクトール(ジャン=スタン・デュ・パック)。

ある日マリーが急接近、ホホにキスされ電流が走ったと舞い上がってしまう。それにはある秘密があった。

12歳の少年少女の恋といえば「小さな恋のメロディ」(71・英)を連想するが、主演のマーク・レスターに負けないデュパックの巻き毛でつぶらな瞳がとても可愛い。

「女は信用できない」などと大人びた言葉とはウラハラにドキドキだったり、親友アイカムに「どん底のお前に最後のチャンスだ」と励まされ勇気百倍。

マリーの急接近の理由が自分が利用されていることに気づき落胆し父親から「ウソのない愛は愛じゃない」とアドヴァイスを受けたり、さすがはアムールの国フランスならではの展開。

マリーは遺伝的難病で視力が落ち失明するかもしれないが、音楽学校の受験を諦めていなかった。その情熱の心を動かされ代返・代筆を買ってでるヴィクトールが生き生きとしていた。

二人の家庭環境の違いや、友達との関係などを織り込みながら最後は強引ながらマリーのチェロが劇場いっぱいに響く。

マリーに扮したヴァイヨはヴァイオリニストだけに楽器を演奏する表情はリアル感が溢れ吹き替えなしでチェロを演奏。

小説は4年後の続編があるそうだが、同一キャストで映画化されたら観てみたい。

「gifted / ギフテッド」(17・米) 75点

2018-06-07 17:29:39 | 2016~(平成28~)

・ 家族や子供の教育の在り方をハートフルに描いたドラマ。




題名のGiftedとは、アインシュタインのように先天的に高度な知的能力を持った人のこと。天才的な数学の才能がありながら普通の子供として育てたい幼い姪と暮らす独身男の物語。

フロリダのタンパ近郊でボート修理で生計を立てているフランク(クリス・エヴァンス)は7歳の姪メアリー(マッケナ・グレイス)と二人暮らし。

学校で天才的な数学の才能があることが判明。校長は天才児教育プログラムのある学校へ転向を進めるが、フランクは断ってしまう。それは亡くなった姉との約束でもあった。

ところが断絶状態のフランクの母イヴリン(リンゼイ・ダンカン)が突然現れ、孫の英才教育のため引き取りにくる。

脚本のトム・フリンは、コメディ脚本で売れたが半ば引退状態の人。実の姉と飼っている猫をヒントに書いたとのこと。大作「アメージング・スパイダーマン」シリーズから解放されたマーク・ウェヴが監督。

天才少女メアリーを演じたのはオーディションで選ばれたM・グレイス。06年生まれなので実年齢は3~4歳上だが、健気でちょっぴりオシャマな7歳児を演じ、役柄同様天才児ぶりを発揮。彼女の好演なしではドラマは成立しなかったことだろう。

ただお涙頂戴の感動ドラマのみの要素ではなく、家族の在り方や子供の教育を保護者はどうあるべきかを提示していて、ちょっぴり考えさせられる。

メアリーのような天才少女は特例だが、スポーツ・芸術・芸能など子供の長所をどう育てるべきか環境で左右されることは多い。

親権を巡り裁判を起こすドラマは収まるところへ収まったが、現実はなかなか難しいのでは?

祖母の<普通の子として育てることは人類の発展に大きなマイナス>という主張は極論だが、エリート大学で哲学を学び大学教授への道を断った独身男が育てるほうが良いのか?は絶妙なドラマ構成となっている。

「ノクターナル・アニマルズ」(16・米 )80点

2018-05-27 12:28:47 | 2016~(平成28~)

・ 現在・過去・小説の世界が交差するミステリアスなドラマ。




自らのファッション・ブランドを持つトム・フォードが「シングルマン」(09)以来2作目の監督作品で、オースティン・ライトの原作「ミステリー原稿」を脚色した現在・過去・小説が交差する美的感覚溢れる物語。

豊満な女性がほゞ全裸で踊るショッキングなオープニングに思わず目を見張り、何が起こるか身構えさせる。

これは、アートギャラリー会場でのシーンであることが判明、オーナーであるスーザンがスキのないドレスで無表情で腰掛けている。演じているのは「メッセージ」(16)のエイミー・アダムス。役柄も清純派からドンドン役柄の幅を広げている売れっ子のアラフォー女優だ。

スーザンのもとに20年前別れた元夫から小説原稿が送られてくる。題名は「夜の獣たち」でスーザンに捧ぐとあった。

元夫はエドワードといい小説家を目指していたがものにならずスーザンに捨てられた気弱な男だが、<君のいた頃の作品とは違う>と書いてあった。

L.Aに住むスーザンの現在、スーザンがテキサスから出てきて同郷のエドワードと再会した20年前のNY、エドワードが書いたテキサスでの小説の世界が交差するミステリアスなドラマで、なかなか先が読めない。

現代アートのメッカL.Aに暮らすスーザンは裕福だが、夫は事業に失敗し借金を重ね浮気をしているダメ男で孤独な状態。
スーザンは送られた小説を読みながら、保守的な中西部から大都会NYでエドワードと再会し意気投合した過去を思い出していた。母から<性格が脆く財力もない男>と一蹴されたエドワードに見切りをつけたことも・・・。

テキサスを舞台に繰り広げられるドラマは、デヴィッド・リンチを連想させる残酷で悲惨なバイオレンスな世界。

エドワードと小説の主人公トニーをジェイク・ギレンホールが演じていて、<気弱なダメ男>から<繊細で優しい気質だが正義を履行する男>へ変身したエドワードに重なって見える仕掛けだ。

J・ギレンホールの優男から狂気が見え隠れするトニー役はまさにピッタリで、怒りや後悔、やるせなさが画面に溢れていた。

さらに小説内で登場する警部補マイケル・シャノン、サイコパス役アーロン・テイラー=ジョンソンなど、脇を固める個性豊かな俳優陣の好演が本作を盛り上げてくれている。

瀟洒なアートとコーディネイトされたファッションに包まれる大都会と荒涼としたテキサスの対比が色鮮やかなドラマは、ラストシーンでまた観客の想像力を掻き立ててエンディングを迎える。

観終わってもまだ映像世界が残像となるインパクトある作品だ。