・ 独特なユーモアがあるクライム・サスペンス風ヒューマン・ドラマ。

47歳の英国人監督、マーティン・マクドナーによる長編3作目で、米国南部を舞台に繰り広げられる人間模様。東京国際映画祭で上映され、作品賞を始め自ら書き起こした脚本などオスカー6部門にノミネートされた話題作。
ミズリー州エビング(架空の町)の町はずれに設置された3枚の大きな赤い広告看板。「レイプされて殺された」「逮捕はまだ?」「どうして?ウィロビー署長」と書かれていた。
設置したのは娘が殺され数か月経つにも関わらず犯人が見つからないことに憤るミルドレッド。それを不快に思う町の人々や警察との諍いが思わぬ方向へ展開していく。
ミルドレッドに扮したのは、「ファーゴ」(96)のオスカー女優フランシス・マクドーマンド。
最愛の娘を殺した犯人探しに懸命な悲劇のヒロイン像を予想するが、ドラマの進行とともにかなり違う人間像であることが分かる。
それは娘との最後の会話から自責の念と悔恨が深く心に突き刺さっていたから。犯人逮捕によって自分への区切りとしたい気持ちが揺り動かしていたのだ。
バンダナにツナギを身に纏いにこりともしない闘う女だが、虫や草花を愛する優しい面も垣間見せる。
町の人望を集めるウィロビー署長(ウッディ・ハレルソン)は苦境に立たされるが、問題を自ら抱えていた。決して無能ではないが退任も近く、証拠に乏しい犯人逮捕に全力で立ち向かう気配は感じられない。
署長を父親のように慕うディクソン巡査(サム・ロックウェル)は、人種差別主義者で短気な暴力警官。ミルドレッドを目の敵にし、看板を設置した広告社のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)をボコボコにして警官をクビになってしまう。
前半はミルドレッドとウィロビーのやり取りで物語が展開するが、後半はディクソンにとって変わる。
3人を中心にその周辺の人々がアメリカの象徴であるこの田舎町の閉塞感を感じさせる。さらに複合的な心理描写とともに人間の優劣や善悪が一概には決めつけられないことも。
マクドナー監督は北野武作品のファンであることを公言しているが、ブラックでバイオレンスな描写を独特なユーモア感覚を交え、最後まで引きずり込んで行く。
ネタバレなしでレビューするのが難しい「愛と赦し」がテーマの本作だが、エンディングまで見逃せない現在のアメリカを捉えた傑作だ。
オスカーは惜しくも作品賞・脚本賞を逃したが、F・マクドーマンドが2度目の主演女優賞、W・ハレルソンとともにノミネートされていた助演男優賞にS・ロックウェルが受賞した。
監督の次回作および、これからを大いに期待したい。