ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月20日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第8回

第2講 第1篇「序 論」 (3) 
 1930年代を「経済学の第1の危機」と命名すると、ケインズサーカス(ケインズ経済学を受け継ぐ経済学者のサロン)の故ジョーン・ロビンソン(1983年死去)は現在の状況を「経済学の第2の危機」と呼んだ。経済学の理論的枠組みが現実の制度的・経済的諸条件を適格に反映するするものでなく、政策的・制度的帰結が往々にして反社会的な結果(失業・貧困・格差・・・)をもたらすからである。このような経済的不均衡(均衡があるというのが古典派経済学の特徴であるなら、ケインズ経済学は(不平衡・不可逆の)経済過程がどのようなプロセス(ダイナミックプロセス)を経るかとする適格な理解と、より正確な現状分析か可能とする新しい理論の枠組みの構築に貢献するのではなかろうかと、著者宇沢弘文氏は期待している。「一般理論」は極めて難解な書物で、アメリカ・ケインジアンの考えはヒックスの「LS・LM分析」が有名であるが、これはケインズの考えを正統的経済学の「均衡分析」の中で理解するものである。しかしもともとケインズ経済学の「一般理論」の出発点は、現代資本主義の制度には本来不安定要因が内在し、自由放任の帰結として失業とインフレの可能性が常在し、景気の長期停滞と所得の不平等が必然的に起らざるを得ないという意味で、不均衡過程の動的分析にあった。だからケインズ経済学の「一般理論」は現在資本主義の問題解決学となりうるのである。そういう意味で本書を読む現代的意義が存在するという。ケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」で持っていたヴィジョンを問い直すことが重要である。
(つづく)

文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月20日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第80回

* KHM 125  悪魔と悪魔のおばあさん
 兵隊が三人あまりに給料が安いので軍隊を脱走し麦畑に隠れた。そこへ悪魔の化身である火の竜が降りてきて、7年の奉公をするなら救ってやると約束しました。そして7年後にやって来て謎々の答えられればお構いなし、答えられなければ命を戴くという悪魔の契約書に三人の兵隊さんは署名しました。その代り悪魔はお金の出る小さな鞭を与えて7年間の生活を約束しました。7年の年季が近くなると兵隊さんは心配で、悪魔がどんななぞが出すのか知りたくて、森の岩の小屋に住む悪魔のおばさんに助けを求めました。おばさんは兵隊さんを岩の下に隠して、魔法のおばさんと竜との話を聞き漏らさないように指示しました。竜が用意しているなぞとは、肉とは北海の海に横たわった尾長ざるのことで、銀の匙とは鯨のあばら骨のことで、酒のコップとは馬の足首の骨のことでした。こうして兵隊さんはなぞをクリアーして、命を悪魔に取られずにすみ、鞭のお陰で何不足ない生活を送ることが出来ました。これは「悪魔にさらわれ方がましだ」というような縁起の悪い事をいうと、悪魔に乗じられるというボヘミヤ地方の話が基になっています。

* KHM 126  実意ありフェレナンドと実意なしフェレナンド
貧乏な人のところに男の子が生まれ、なずけ親になってもらえる人を探しに隣村へ行こうとしました。途中貧乏臭い男に出会い、「実意ありフェレナンド」という名を貰いました。この男は鍵を渡して男の子が14歳になったら野原の城へやり、鍵で開けるとその子のものになると言いました。こうして「実意ありフェレナンド」は14歳で白馬を得て旅に出ました。途中に道端で鵞ペンを拾い、お魚を助けて呼子笛を貰い助けが必要な時に現れるといいます。更に行くと「実意なしフェレナンド」という悪意のあるずるい奴と一緒に旅をすることになりました。「実意ありフェレナンド」は宿屋の娘の口利きでお城の王様の馬番として雇われました。ところが「実意なしフェレナンド」が「実意ありフェレナンド」を陥れるため、数々の難問を王様に注進し、「実意ありフェレナンド」はその度に白馬の助言を得て、魚に助けられてクリアーしてゆきます。王様のお妃は奇術を使う女で、王様の首を落として、「実意ありフェレナンド」と結婚しました。この話はつじつまのあわない箇所が幾つかあり、終わりの結婚も怪しげな話です。かなり話の脱落と混雑、無理が目立ちます。
(つづく)