ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 吉澤誠一郎著 「清朝と近代世界 19世紀」シリーズ中国近現代史 ① 岩波新書

2011年10月31日 | 書評
存亡の危機に直面した清朝の近代化への挑戦 第3回

 この国内多民族国家と属領周辺国家(ベトナム、朝鮮など)を抱えて近代国家になってゆくには、近代国民という観点が必須であった。「満」と「漢」の融合もままならない国内問題で清朝の統治範囲内部での国民意識の形成は容易ではなく、民族国家となると清朝はたちまち多数の国家に分裂する。清朝の統治と国民理念のずれはいまもなお中国の大問題である。チベット騒動、新疆騒動、台湾問題、モンゴル問題は清朝以来の問題を不明確なまま引きずっているのである。人種も民族も生物学的(遺伝学的)には殆ど意味を持たないにもかかわらず、古い意味での民族対立をあおる論は、経済格差問題、宗教問題と絡んでますます過激になってゆく。伝統的古代王朝を引き継ぐ清朝は20世紀になって、日本を意識してか立憲君主国すなわち「帝国」を名乗り始める。しかし近代化は辛亥革命をもって開始されるのである。古代王朝はその近代化努力の成果(そもそも言語的矛盾で、今の北朝鮮の体制に同じ)を見ることは出来ずに崩壊した。本書は18世紀末から1894年の日清戦争前夜までの清朝の歴史を描くものである。「眠れる獅子」といわれた清朝はその図体(領土)の大きさから、抱える問題の多さ・複雑さ・大陸国としての軍事統治の難しさ(侵入のしやすさ)など問題対処が緩慢で、欧・米・ロシア・日本が蟻のようにたかり凄まじい植民地的餌食となって倒壊した。
(つづく)

読書ノート 岩波新書編集部編 「日本の近現代史をどうみるか」 岩波新書

2011年10月31日 | 書評
現代歴史学が問う、明治以来の日本の通史 第9回

第4 大正デモクラシーとはどんなデモクラシーだったのか (成田龍一)

 大正デモクラシーという言い方は実は1955年ごろから使用されたもので、1900年から1930年までの日本の動きをデモクラシーという観点で捉えようとする歴史認識である。ところが「大正デモクラシー」とは実に危うい・果敢ない・一時の夢だったのかもしれないほど、実態の薄い、歴史への影響力の少ない現象で、あっという間に昭和ファッシズムに飲み込まれてしまった。デモクラシーの内容とは、政党政治の実現と社会運動の活性化をさす。吉野作造はこれを天皇制欽定憲法と矛盾しないように、「民主主義」とはいわず「民本主義」と言い換えた。国家権力は日露戦争後の社会運動を「大逆事件」をでっち上げて抹殺し、デモクラシーの圧迫者として強権を振るう。大正デモクラシーというものがあったなら、それは近代国民の成長と国家主義といった2つの極の思想の狭間で苦悩する日本のことであった。基本的に海外権益拡大路線を是認する限り、日本の政治・社会運動は社会民主主義から変質して、戦争をきっかけに国家社会主義へと傾斜してゆく。もちろん、平沢計七、山本宣治、小林多喜二の虐殺に象徴される国家による弾圧という片方の力が押しやった結果であるが。
(つづく)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2011年10月31日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第36回

[108] 「方弘はいみじう人に・・・」 第2類
方弘(源方弘、蔵人、修理亮、式部丞、阿波の守となる)はめっちゃくちゃおかしな奴だ。これに使われているお供でさえ、「何でこんな奴に使われているのかな」という。宿直物を二人で取りに来るようにといわれても1人でやって来て「一升瓶に2升がはいるか」とおかしなことをいう。はやく返事を書くようにと催促されると「うるさい、筆と紙を隠された」と言い逃れをする。女院(詮子)様が病で御使いに出されたが、院の殿上には誰がいると問われて「4、5人と寝ている人」と答えるのでみんなに笑われた。徐目の夜、さし油するのに、灯台の打ち敷を踏んで倒して大地震のような大騒ぎ、蔵人の頭が着かぬ間、台所の障子の後ろに隠れて豆を食っているので大笑い。

[109] 「見ぐるしきもの・・・」 第1類
見苦しいものとして、背中の縫い目が肩によって着ている、珍しいお客さんおまえに子供を背負って出てくる、法師・陰陽師が紙の冠で祈祷している、色の黒い女と鬚むじゃで痩せた男が昼寝をしている、夜は暗くて見えないので、普通はそうなのにブスだから昼やるというほうは無いでしょう、痩せて色黒の人が単の生絹を着ていれば、醜い体が丸見えでしょう。清小納言さんはかなりいきり立って怒っておられる。よほど醜いのでしょう。

[110] 「いひにくきもの・・・」
言いにくいものとして、人の手紙の中に貴人の言葉が沢山あるのは全部は言いにくい、立派なお方から贈り物を頂いて返事をする、大人になった女の子が思いがけない事を聞くのだが、人前ではいいにくい(初潮のことか、色事か)。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「江村晩秋」

2011年10月31日 | 漢詩・自由詩
渚清沙白早霜繁     渚清く沙白く 早霜繁し
 
遠仰寒山紅葉村     寒山を遠く仰ぐ 紅葉の村

掩屋竹叢遮雨露     屋を掩う竹叢は 雨露を遮り
 
東籬黄菊給晨昏     東籬の黄菊 晨昏に給す


●○○●●○◎
●●○○○●◎
●●●○○●●
○○○●●○◎
(韻:十三元 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)