東京裁判でA級戦犯無罪を主張したインド代表パル判事の評伝 第2回
序(2)
パル判事の評伝をベンガル政治史から書き起こす中里成章氏のプロフィールを紹介する。1946年北海道生まれ、東京大学文学部東洋史学科卒業。カルカッタ大学でPh.D.を取得し、東京大学東洋文化研究所の教授を経て、2010年退官し名誉教授となった。専攻は南アジア近現代史で、研究テーマは植民地支配期インドの社会経済史、とくにベンガル地方の農村史を中心とした研究である。現在は,インド・パキスタン分離独立の背景の分析に取り組んでいる。 著書は殆どで英語で出版されており、日本語の本を紹介すると、「世界の歴史14 ムガル帝国から英領インドへ」(中央公論社 1998)、「インドのヒンズーとムスリム」(山川出版 2008)などである。中里氏はベンガル史研究者の力不足を反省して、「日本の右傾化を心配し、日印関係史の研究の一部が結果的に日本の右傾化に手を貸すことになるのではないか。特にベンガル出身のインド人、ラシュ・ビハリ・ボーズ、スバス・チャンドラー・ボーズ、パル判事らが日本の右よりの論客に利用されている」という。本書は日本の保守政治家への反論書である。しかし中里氏の潔癖さからベンガル史研究の結果が日本の右傾化を助けることを心配するが、いまや「大東亜構想」などを唱える基盤はなくなったのでは無いだろうか。アジアにおける日本の1人勝ちは太平洋・アジア戦争前のことであって、今や21世紀初頭ではアジアの中心は中国になろうとしている。冷戦終了後、中国は経済力・軍事力で次第に力をつけており、日本の保守政治家の及ぶところではない。反共という意味での「保守」という言葉はすでに死語に近い。軍事力でアジアの盟主たらんとする意志はアメリカに奪い取られた。経済力でアジアの中心にいる意識も、GDPで中国に抜かれ、企業が生き残りをかけて中国に靡いている現状では、既に昔のことである。本書が右傾化への最後の警鐘となることを願うばかりである。
序(2)
パル判事の評伝をベンガル政治史から書き起こす中里成章氏のプロフィールを紹介する。1946年北海道生まれ、東京大学文学部東洋史学科卒業。カルカッタ大学でPh.D.を取得し、東京大学東洋文化研究所の教授を経て、2010年退官し名誉教授となった。専攻は南アジア近現代史で、研究テーマは植民地支配期インドの社会経済史、とくにベンガル地方の農村史を中心とした研究である。現在は,インド・パキスタン分離独立の背景の分析に取り組んでいる。 著書は殆どで英語で出版されており、日本語の本を紹介すると、「世界の歴史14 ムガル帝国から英領インドへ」(中央公論社 1998)、「インドのヒンズーとムスリム」(山川出版 2008)などである。中里氏はベンガル史研究者の力不足を反省して、「日本の右傾化を心配し、日印関係史の研究の一部が結果的に日本の右傾化に手を貸すことになるのではないか。特にベンガル出身のインド人、ラシュ・ビハリ・ボーズ、スバス・チャンドラー・ボーズ、パル判事らが日本の右よりの論客に利用されている」という。本書は日本の保守政治家への反論書である。しかし中里氏の潔癖さからベンガル史研究の結果が日本の右傾化を助けることを心配するが、いまや「大東亜構想」などを唱える基盤はなくなったのでは無いだろうか。アジアにおける日本の1人勝ちは太平洋・アジア戦争前のことであって、今や21世紀初頭ではアジアの中心は中国になろうとしている。冷戦終了後、中国は経済力・軍事力で次第に力をつけており、日本の保守政治家の及ぶところではない。反共という意味での「保守」という言葉はすでに死語に近い。軍事力でアジアの盟主たらんとする意志はアメリカに奪い取られた。経済力でアジアの中心にいる意識も、GDPで中国に抜かれ、企業が生き残りをかけて中国に靡いている現状では、既に昔のことである。本書が右傾化への最後の警鐘となることを願うばかりである。
(つづく)