市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第14回
第6講 第4篇「投資誘因」(1)
第6講「投資誘因」は、350ページくらいの本書のなかで100ページの分量を占める。経済社会活動の中心は「投資」にありというようだ。雇用の総需要を構成する2つの要素(消費と投資)のうち、投資を議論する。ここで資本(投資)の限界効率と流動性選好という2つの概念を構成する。そして最後に「雇用の一般理論」の枠組みが要約されている。ケインズの投資は、設備資本、固定資本、流動資本を含有するが、ここで議論している理論は固定資本だけである。ケインズのいう資本の効率とは投資効率のことである。投資とはある資本・資産を購入することにより、その資産が生み出す収穫の系列を受けとる権利を手に入れることである。投資の基毎の期待収益Qiと資産の供給価格Pは、割引率(償却率)をrとすると、投資を回収するには複利計算と同様にP=ΣQi/(1+r)^iとなり、割引率を投資の限界効率mと呼ぶ。投資資産の収益性を表す尺度である。mは小さいほど収益は大きい。結局現時点での将来の期待収益が中心的役割を果す。購入した資産は簡単には処分できない固定的な性質を持っている。企業・社会の総投資が増加すればその限界効用は低下する。期待収益が投資量によって変化するということは、投資財がストックとして市場で売買されていないからである。需要に対する投資の基本的なスケジュールを「投資の限界効率表」と呼ぶ。期待されるネットキャッシュフローを市場利子率で割り引いた価格が投資の供給価格に等しくなければ投資は有り得ないので、投資の限界効率は現行の市場利子率に等しくなる。利子率が高くなると資本は市場金融に流れ投資に向かわなくなり景気を抑制する。このように、投資の限界効率表が、将来の市場条件に対する期待に依存すると言うことは、景気循環の過程において起る激しい景気変動を誘発する要因となっている。
資本設備の期待収益はそもそも不確実な事象であって、不確実な将来の状態に対する心理的期待を「長期の期待」と定義する。もし利子率が一定と仮定して、確信の度合いが投資の限界効率にどのような影響を与えるだろうか。今日のように企業の所有と経営が分離され。投資市場(株式市場)が組織化されると全く新しい局面に遭遇する。即ち投資は容易になる半面、経済の不安定性は一層高まるのである。ケインズは不安定性を増幅する要因としいくつかを挙げている。
①株式の評価が企業の実質的な知識から離れている。
②利潤の短期的変動が株価に過大な影響を与える。
③ニュースや群集心理が支配する。
④職業的投資家は一般大衆より先に株式評価を予測することに向けられる。
これを「美人投票」といい、株式評価ではなく平均的な評価がどうなるかに注意を払うのである。ケインズはこれを投機といい市場の心理を予想する活動を指す。特にアメリカではファンダメンタルよりも短期的なキャピタルゲインを求めて投資することが一般的となっている。投資市場が「流動性」を求めて組織化された結果である。そしてケインズは不安定性要因として投機だけでなく、楽天的な「アニマルスプリット」という積極的(冒険主義的)行動を選択する内面的衝動を指摘する。これも利益を上げるときは慎重だが、失敗をリカバリーする際に急に果敢となる心情である。景気の回復は企業活動に望ましい雰囲気の形成が不可避であり,政治的社会的な雰囲気作り、特に政府の投資方向への介入も必要であるとケインズは考えた。
(つづく)
第6講 第4篇「投資誘因」(1)
第6講「投資誘因」は、350ページくらいの本書のなかで100ページの分量を占める。経済社会活動の中心は「投資」にありというようだ。雇用の総需要を構成する2つの要素(消費と投資)のうち、投資を議論する。ここで資本(投資)の限界効率と流動性選好という2つの概念を構成する。そして最後に「雇用の一般理論」の枠組みが要約されている。ケインズの投資は、設備資本、固定資本、流動資本を含有するが、ここで議論している理論は固定資本だけである。ケインズのいう資本の効率とは投資効率のことである。投資とはある資本・資産を購入することにより、その資産が生み出す収穫の系列を受けとる権利を手に入れることである。投資の基毎の期待収益Qiと資産の供給価格Pは、割引率(償却率)をrとすると、投資を回収するには複利計算と同様にP=ΣQi/(1+r)^iとなり、割引率を投資の限界効率mと呼ぶ。投資資産の収益性を表す尺度である。mは小さいほど収益は大きい。結局現時点での将来の期待収益が中心的役割を果す。購入した資産は簡単には処分できない固定的な性質を持っている。企業・社会の総投資が増加すればその限界効用は低下する。期待収益が投資量によって変化するということは、投資財がストックとして市場で売買されていないからである。需要に対する投資の基本的なスケジュールを「投資の限界効率表」と呼ぶ。期待されるネットキャッシュフローを市場利子率で割り引いた価格が投資の供給価格に等しくなければ投資は有り得ないので、投資の限界効率は現行の市場利子率に等しくなる。利子率が高くなると資本は市場金融に流れ投資に向かわなくなり景気を抑制する。このように、投資の限界効率表が、将来の市場条件に対する期待に依存すると言うことは、景気循環の過程において起る激しい景気変動を誘発する要因となっている。
資本設備の期待収益はそもそも不確実な事象であって、不確実な将来の状態に対する心理的期待を「長期の期待」と定義する。もし利子率が一定と仮定して、確信の度合いが投資の限界効率にどのような影響を与えるだろうか。今日のように企業の所有と経営が分離され。投資市場(株式市場)が組織化されると全く新しい局面に遭遇する。即ち投資は容易になる半面、経済の不安定性は一層高まるのである。ケインズは不安定性を増幅する要因としいくつかを挙げている。
①株式の評価が企業の実質的な知識から離れている。
②利潤の短期的変動が株価に過大な影響を与える。
③ニュースや群集心理が支配する。
④職業的投資家は一般大衆より先に株式評価を予測することに向けられる。
これを「美人投票」といい、株式評価ではなく平均的な評価がどうなるかに注意を払うのである。ケインズはこれを投機といい市場の心理を予想する活動を指す。特にアメリカではファンダメンタルよりも短期的なキャピタルゲインを求めて投資することが一般的となっている。投資市場が「流動性」を求めて組織化された結果である。そしてケインズは不安定性要因として投機だけでなく、楽天的な「アニマルスプリット」という積極的(冒険主義的)行動を選択する内面的衝動を指摘する。これも利益を上げるときは慎重だが、失敗をリカバリーする際に急に果敢となる心情である。景気の回復は企業活動に望ましい雰囲気の形成が不可避であり,政治的社会的な雰囲気作り、特に政府の投資方向への介入も必要であるとケインズは考えた。
(つづく)