ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月12日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第1回

序(1)
 ここに、ケインズ著/間宮陽介訳 「雇用・利子および貨幣の一般理論」 上・下(岩波文庫 2008年)という本がある。その第1篇序論 第2章古典経済学において古典経済学の公準を2つ述べている。
「第Ⅰ公準:賃金は労働の限界生産物に等しい。すなわち被用者の賃金は雇用が1単位減少したときに失われる価値に等しい。」
「第Ⅱ公準:労働用量が与えられたとき、その賃金の効用は、その雇用量の限界不効用に等しい。すなわち被用者の実質賃金は、現在雇用されている労働量を引き出すのにちょうど過不足のない大きさになっている。ここで不効用とは一人あるいは集団の人間に、ある最低限の効用すら与えない賃金を受け取るくらいなら働かないほうがましだと思わせる理由の一切を含む。」

 ヒルベルト著「幾何学基礎論」の公準のようにこの文章をすらすら理解できる人は経済学の約束事を熟知した専門家だけであろう。私にはちんぷんかんぷんであった。業界の隠語集(技術用語辞書)がなければ、たとえあったとしても理解できないだろう。というわけで私は1日かけて20ページを読んだだけで、呆然自失して読了をギブアップした。そうして本屋で棚を眺めていたら宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」を発見し、一も二もなく購入した。本書の前書きで宇沢氏は「先輩からケインズの一般理論を読むように薦められて、読み出してその難解さにほんの数ページしか読み進めなかったことは、いまでも重苦しい記憶として残っている。文章が華麗だっただけでなく、内容が難解だったから困惑したのである」と述べている。経済学を志した頃の話だそうだが、宇沢氏ですらそうだったのかと私は妙に安心した。ケインズの「雇用・利子及び貨幣の一般理論」は一般向けに書かれたのではなく、古典派経済者やケインズサーカスの専門的経済学者たちを相手に書いたプロ向け論文であるそうだ。分からせるためではなく論争するために書いた文章である。経済学の古典のなかでも最も理解し難いといわれる書物である「一般理論」を、宇沢氏は1982年岩波市民セミナーで8回の講義で一般理論の市民向け読書会を依頼された。宇沢氏は理学部数学科卒業後に経済学者を目指して転職し、職業的経済学者として、「一般理論」に始まり、「一般理論」に終る人生を送ったという。その氏をして難解と言わしめるケインズの「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を私がギブアップしても私の怠慢では無いとして、私は宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」から入って慣れることを主眼とした。宇沢氏は本市民セミナー講座においては、それでも正確を期すため専門的過ぎて分かりにくい内容になったのではないかと反省しておられる。
(つづく)

読書ノート アダム・スミス著 「国富論」 中公文庫(1-3冊)

2013年03月12日 | 書評
古典経済学が説く社会的生産力の構造と近代自由主義 第52回

第5篇 国家の収入(財政策)
第2章 社会の一般収入あるいは公共収入の財源について(2)

[第1項] 土地と家屋の賃料にかける税
 地代にかける税(地主が払う税)は不変の基準でかけることは、土地の開発が進むにつれ土地の生産性が上がるり地代が高くなるので地主に有利であるが、政府には不利である。従って地代や耕作性に応じて税を変えることは、税が最終的には租税を支払う収入源に対して公平に課税されるべきであるから、多少の欠点(地租の徴集費が高くなる)を我慢してもこれは適当な税制である。土地の借り手である耕作者にその問いの生産物にかける税は実は最終的には地主に振りかかり、地代にかかる税と同じとなる。そしてこれは欧州では教会に納める1/10税と激しく拮抗するため、農民の取り分が生産量の半分とすると、教会へ1/10、地主へ4/5へ渡ることになる。そこへ農産物税が課せられるとそれは結局地代を減額してもらうしかないのである。
家屋の賃貸料は2つの部分に分けられ、建物料と敷地地代と呼ばれる。両者をはっきりと分別することは難しい。建物料とは資本を建物に運用する同額の利子以上でなければ、賃貸家屋事業から撤退するしかないので、通常の利子率によって規制される。家屋の賃貸料総額から適当な利潤(利子相当以上)を引いた残りは超過賃貸料と呼び敷地地代の事である。この超過賃貸料は借り手が感じる長所(駅から3分とか、環境がいいとか)に対して支払う価格である。従って敷地地代は首都において最も大きい。借り手が払う家屋の賃貸総額に比例する家屋税(今の日本には賃貸料に消費税はあるが家屋賃貸税はない)借り手と地主(賃貸事業者)に様々な配分でかかる。家屋を借りてもそこから生産物は生まないので、これは一種の消費税とも考えられる。家賃は建築費の6.5%か7%という程度であるので純地代総額とそう変わらない。即ちいくら家屋が立派でも交換価値は殆どない。この税は最終的には敷地地代の受取人の負担になるので、人の住んでいない家屋の敷地地代は納税する必要は無い。
(つづく)



文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月12日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第73回

* KHM 108  ハンスぼっちゃんはりねずみ
 裕福なお百姓がいましたが、子供がいなくて「ハリネズミだって構わない」と願をかけますと、魔法に乗じられて、上半身はハリネズミで下半身が人間の子が生まれました。名前は「ハンスぼっちゃんはりねずみ」としました。8年経ってハンスは親から買ってもらった袋笛(バックパイプ)と鶏、豚、ロバを連れて家を出ました。ハンスは鶏の背中に乗って、森には入り木の上で笛を吹いては豚とロバの番をしました。この笛の音色が美しいので、森に迷い込んだ王様が笛の音に誘われて木の上にいるハリネズミを見つけました。森の出口を訪ねたところ、ハンスは王様に、城に帰って一番最初に出会ったものをくれる証文を書いて帰り道を教えました。そして最初に出会ったものはお姫様でした。同じように第2番目の王様にも条件をつけて帰り道を教えました。一番目の王様は約束を守る気はなく、第2番目の王様とお姫様は約束を守りました。第1番目のお姫様には辱めをあたえて開放し、第2番目のお姫様と結婚しました。結婚式の夜、ハリネズミがベットに入る前にハリネズミの皮を脱ぐので、家来に直ちに焼き捨てるように依頼して魔法を解いて人間に戻ることができました。

* KHM 109  きょうかたびら
 これは童話というより、悲しいお話です。おかみさんには七つの男の子がいましたが、病気で突然亡くなりました。悲しみにおかみさんは夜昼泣いてばかりいました。おかみさんの夢に白い経帷子をきて頭に花輪を付けた男の子が現れ、涕で経帷子が濡れて寝られないと訴えました。おどろいたおかみさんは泣くのを止めました。翌日の夢に男の子が現れ経帷子は乾いたのでお墓で寝ることができますと告げました。おかみさんのこころが驚愕、失望、受け入れと立ち直る過程を描いたお話です。
(つづき)