市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第6回
第2講 第1篇「序 論」 (1)
第2講は一般理論の第1篇「序論」を取り扱い、古典派経済学の2つの公準が極限的な場合にしか該当しない状況を指し、ケインズは一般に扱うことが出来る「一般理論」を目指す事を宣言する。そこで訳文の優劣を比べるわけではないが、古典経済学の2つの公準を宇沢氏の言葉で再度下に示めそう。
第Ⅰ公準: 労働雇用に対する需要は、労働の限界実質生産額が実質賃金に等しい水準に決まってくる。
第Ⅱ公準: 労働の雇用に伴う限界非効用と実質賃金とが等しくなるような水準に労働の供給が決まってくる。
第Ⅰ公準は労働の需要(資本家サイド)、第Ⅱ公準は労働の供給(労働者サイド)をいっているわけで、一人の実質労働賃金は1人の生産額に等しく、実質賃金が労働者の生活を維持できなければ労働者の数は減るという(これを自発的失業という)。つまり古典派は完全雇用の状態を指している。ケインズは第1公準は認めるが、第Ⅱ公準は適当でないとする(労働者はどんな実質賃金でも働きたいのだが、資本側が首を切るという非自発的失業が一般的であるという)。古典派経済学は失業は労働者の自発的意思でいつも完全雇用が成立しているというが、ケインズは第2公準を認めず資本側の投資の減退により失業は常在するのが一般的で、完全雇用は極限的な現象に過ぎないという論理の枠組みを展開する。この理論は1930年代の大恐慌の時代の大量失業という社会情勢を背景として生まれた。古典派の考えでは、労働市場における価格調整メカニズムが働けば、賃金は下がって需要は増え供給は減ることになる。つまり賃金が下がることによって失業は減るという。賃金が低いため自発的に労働市場から撤退した労働者は失業者群にはカウントされないのである(現在でも失業者の定義には、長年の就職難のため労働意欲をなくしドロップアウトした人は含まれないのと同じ論理である。彼らがどうして飯を食えるかは考慮しない)。古典派の完全雇用とはそもそも定義からして架空の話であった。古典派は労働組合による賃金交渉や最低賃金制など制度的政策的要因が邪魔をしているので賃金が下がらないためだけであるとし、労働市場の規制を取り払えば、賃金が下がって失業は減少し完全雇用に近づくという。現在の欧州における「ワークシェアリング」とはまさにこの賃金切り下げによる雇用策である。ケインズがいう「古典派」とは、リカード経済学を引き継いだジョン・スチュアート・ミル、マーシャル、エッジワース、ビグー、アーヴァング・フィッシャーらの系譜の経済学が含まれる。
(つづく)
第2講 第1篇「序 論」 (1)
第2講は一般理論の第1篇「序論」を取り扱い、古典派経済学の2つの公準が極限的な場合にしか該当しない状況を指し、ケインズは一般に扱うことが出来る「一般理論」を目指す事を宣言する。そこで訳文の優劣を比べるわけではないが、古典経済学の2つの公準を宇沢氏の言葉で再度下に示めそう。
第Ⅰ公準: 労働雇用に対する需要は、労働の限界実質生産額が実質賃金に等しい水準に決まってくる。
第Ⅱ公準: 労働の雇用に伴う限界非効用と実質賃金とが等しくなるような水準に労働の供給が決まってくる。
第Ⅰ公準は労働の需要(資本家サイド)、第Ⅱ公準は労働の供給(労働者サイド)をいっているわけで、一人の実質労働賃金は1人の生産額に等しく、実質賃金が労働者の生活を維持できなければ労働者の数は減るという(これを自発的失業という)。つまり古典派は完全雇用の状態を指している。ケインズは第1公準は認めるが、第Ⅱ公準は適当でないとする(労働者はどんな実質賃金でも働きたいのだが、資本側が首を切るという非自発的失業が一般的であるという)。古典派経済学は失業は労働者の自発的意思でいつも完全雇用が成立しているというが、ケインズは第2公準を認めず資本側の投資の減退により失業は常在するのが一般的で、完全雇用は極限的な現象に過ぎないという論理の枠組みを展開する。この理論は1930年代の大恐慌の時代の大量失業という社会情勢を背景として生まれた。古典派の考えでは、労働市場における価格調整メカニズムが働けば、賃金は下がって需要は増え供給は減ることになる。つまり賃金が下がることによって失業は減るという。賃金が低いため自発的に労働市場から撤退した労働者は失業者群にはカウントされないのである(現在でも失業者の定義には、長年の就職難のため労働意欲をなくしドロップアウトした人は含まれないのと同じ論理である。彼らがどうして飯を食えるかは考慮しない)。古典派の完全雇用とはそもそも定義からして架空の話であった。古典派は労働組合による賃金交渉や最低賃金制など制度的政策的要因が邪魔をしているので賃金が下がらないためだけであるとし、労働市場の規制を取り払えば、賃金が下がって失業は減少し完全雇用に近づくという。現在の欧州における「ワークシェアリング」とはまさにこの賃金切り下げによる雇用策である。ケインズがいう「古典派」とは、リカード経済学を引き継いだジョン・スチュアート・ミル、マーシャル、エッジワース、ビグー、アーヴァング・フィッシャーらの系譜の経済学が含まれる。
(つづく)