ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月18日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第6回

第2講 第1篇「序 論」 (1)
 第2講は一般理論の第1篇「序論」を取り扱い、古典派経済学の2つの公準が極限的な場合にしか該当しない状況を指し、ケインズは一般に扱うことが出来る「一般理論」を目指す事を宣言する。そこで訳文の優劣を比べるわけではないが、古典経済学の2つの公準を宇沢氏の言葉で再度下に示めそう。
第Ⅰ公準: 労働雇用に対する需要は、労働の限界実質生産額が実質賃金に等しい水準に決まってくる。
第Ⅱ公準: 労働の雇用に伴う限界非効用と実質賃金とが等しくなるような水準に労働の供給が決まってくる。
第Ⅰ公準は労働の需要(資本家サイド)、第Ⅱ公準は労働の供給(労働者サイド)をいっているわけで、一人の実質労働賃金は1人の生産額に等しく、実質賃金が労働者の生活を維持できなければ労働者の数は減るという(これを自発的失業という)。つまり古典派は完全雇用の状態を指している。ケインズは第1公準は認めるが、第Ⅱ公準は適当でないとする(労働者はどんな実質賃金でも働きたいのだが、資本側が首を切るという非自発的失業が一般的であるという)。古典派経済学は失業は労働者の自発的意思でいつも完全雇用が成立しているというが、ケインズは第2公準を認めず資本側の投資の減退により失業は常在するのが一般的で、完全雇用は極限的な現象に過ぎないという論理の枠組みを展開する。この理論は1930年代の大恐慌の時代の大量失業という社会情勢を背景として生まれた。古典派の考えでは、労働市場における価格調整メカニズムが働けば、賃金は下がって需要は増え供給は減ることになる。つまり賃金が下がることによって失業は減るという。賃金が低いため自発的に労働市場から撤退した労働者は失業者群にはカウントされないのである(現在でも失業者の定義には、長年の就職難のため労働意欲をなくしドロップアウトした人は含まれないのと同じ論理である。彼らがどうして飯を食えるかは考慮しない)。古典派の完全雇用とはそもそも定義からして架空の話であった。古典派は労働組合による賃金交渉や最低賃金制など制度的政策的要因が邪魔をしているので賃金が下がらないためだけであるとし、労働市場の規制を取り払えば、賃金が下がって失業は減少し完全雇用に近づくという。現在の欧州における「ワークシェアリング」とはまさにこの賃金切り下げによる雇用策である。ケインズがいう「古典派」とは、リカード経済学を引き継いだジョン・スチュアート・ミル、マーシャル、エッジワース、ビグー、アーヴァング・フィッシャーらの系譜の経済学が含まれる。
(つづく)

文芸散歩  金田鬼一訳 「グリム童話集」 岩波文庫(1-5冊)

2013年03月18日 | 書評
ドイツ民俗研究の宝庫「児童と家庭向けのおとぎばなし」 第78回

* KHM 120  三人の見習い職人
  三人の見習い職人が都会で働こうと約束しましたが、金も職もなく旅に出ました。途中立派な身なりの人がきて、お金をやるからある人の魂を召し上げる手伝いをしろというのです。見ると片足が馬で片足が人間の悪魔でした。そして三人は「私ら三人とも、おかねとひきかえに、そのとおり」以外の言葉を喋ってはいけないとの約束をしました。こうしてある宿に宿泊を続けるうちに、宿屋の亭主をよく見ておりました。ある日大商人が大金を持って宿泊しました。夜になると亭主とかみさんはその商人を殺して金を奪い、その罪は三人組であると裁判所に訴えました。尋問と「私ら三人とも、おかねとひきかえに、そのとおり」がぴったり繋がり、3人組は自白したことになりました。処刑と決まり首を切られる寸前に、例の悪魔が変身した役人がきて「ご赦免」だと叫び、三人の縄を解き何を話ししてもいいので見たとおりにいえと指示しました。三人は宿屋の亭主が殺した事を話し、宿屋の地下には殺した人間が転がっていると訴えました。役人が宿屋を調べますとその通りだったので亭主は死刑になりました。ある人の魂を召し上げるというのは、悪人の宿屋の亭主のことだったのです。「必殺お仕置き人」のような悪魔です。

* KHM 121  こわいものなしの王子
vこの話は2つの物語からできています。前半は、怖いものなしの王子が武者修行に旅をしました。途中で大入道の玩具である「九柱戯」(ボーリング)で遊んでいると、大入道がやって来て命の木の実を取ってきてくれと王子に頼みました。ある庭の真ん中に木があり鉄柵で囲まれ前にライオンが見張りをしているのですが、王子は難なくラリオンを乗越え、輪に手を突っ込んで真っ赤な木の実を取りました。この輪は不思議な力を王子に与え、ライオンを家来にして引き上げました。この輪がないと木の実を取ってきた証にはなりません。そこで大入道は王子より輪を取り上げようと王子の目をくりぬきました。そして大入道は王子を崖から突き落とそうとしますが、ライオンがこれを防ぎ王子を守りました。ライオンが王子の顔に小川の水をかけますと王子の目は見えるようになりました。後半の話は全く筋としては繋がらないし、別々の話と考えられます。さらに王子が世界に旅を続けていると、美しい女が魔法にかけられて真っ黒な肌をしていました。その魔法を解くには3晩城の大広間で鬼の攻撃に耐えることです。王子はこれを引き受けて3晩鬼にいじめられますが、翌朝に女から命の水をかけてもらうと息を吹き返しました。女(お姫様)の肌の色は白くなりました。こうして城全体の魔法を解いて城のお姫さんと結婚しました。前半と後半の共通テーマは「命の水」信仰ではないでしょうか。
(つづく)