ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

林 良祐著 「世界一のトイレ・ウォシュレット開発物語」 朝日新書

2012年08月31日 | 書評
新時代のトイレをリードするTOTOの開発史 第2回

TOTO「ウォッシュレット」開発
 トイレ業界(陶製便器と温水洗浄器)の巨人TOTOとはどんな会社なのだろうか。TOTOのルーツは1876年に創立された「森村組」という海外貿易商に始まる。日本の美術品の壺、皿などの陶磁器を扱った。1904年に名古屋に陶磁器を製造する日本陶器合名会社を設立(現在のノリタケ)、1912年「製陶研究所」を作って欧州の浴槽、便器、洗面台の製造を志し、1914年国産第1号の腰掛式衛生陶器が誕生した。1917年に北九州市小倉に工場をたて、日本陶器から独立して「東洋陶器株式会社」が設立された。当時は下水道は整備されていなかったため、皿等の食器生産も行い、1969年まで食器生産は続いた。1923年の関東大震災以降、東京の再建に衛生陶器の大量受注を受け、下水道も始まって衛生陶器の生産は軌道に乗ったという。TOTOの温水洗浄器開発の歴史を振り返ってみよう。1964年TOTOはアメリカのベンチャー企業、アメリカン・ビデ者で販売されていた便器に取り付け使用する「ウォッシュ・エア・シート」の輸入販売を行なった。これは痔の患者さんの医療用として開発されたものである。同じ頃伊奈製陶はスイスのメーカーから洗浄機器一体型便器を輸入販売していた。価格は48万円台で当時の自動車1台分もしたという。国産第1号の温水洗浄便座は1967年に伊奈製陶から発売された。高額で鉄によるサビが出るなど問題が多く普及しなかった。TOTOは1969年暖房機能つき温水洗浄便座シートを発売し福祉施設・病院などで使用された。お湯の温度が不安定で水の焦点も定まらないという代物であっという。1970年代のオイルショックで住宅着工件数が激減しトイレの販売台数も落ち込み、TOTOは温水洗浄便座の製品開発に向かった。お湯の温度、乾燥空気の温度、ノズル角度、ICによる温度制御、ヒーター材質、漏電などの技術上の諸問題を解決し、1980年新しい温水洗浄器が誕生した。「ウォッシュレット」と命名された。温水貯蔵型と瞬間給湯型の2種類とした。1982年これまでタブー視されていたトイレ製品のテレビコマーシャルを「おしりだって洗って欲しい」(戸川純出演)で一躍ヒットさせ、「ウォッシュレット」の認知度も上がった。1980年代は多機能が求められ、ビデ機能、蓋のソフト開閉、消臭芳香カセット、着座センサー、リモコン、オゾン脱臭、触媒脱臭などニーズに応じた新機能を満載した機種が次々開発された。陶磁器商品だった便器が、エレクトロニクス製品という位置づけになった。1993年、水を溜めるタンクを取り払い、「ウォッシュレット」の機能を内蔵したすっきりしたデザインで「ネオレスト」が市場に出た。ローテクとハイテクの結合商品となった。
(つづく)

読書ノート 鈴木宗徳 編 「リスク化する日本社会ーウイルリッヒ・ベックとの対話」 岩波書店

2012年08月31日 | 書評
グローバル化社会で生きる道  理論社会学の視点 第9回

2)第1部 「再帰的近代化の中の個人と社会」(3)
 第3の論者である愛知大学文学部教授の樫村愛子氏は「ラカン派精神分析学」の立場より、ベックの理論を近代社会の困難性を指摘するものとして批判評価し、そして日本社会の個人化の現状を分析した。樫村氏は最初からベックの個人化の条件が成り立たないとする。ベックは個人化が自律した個人を出発点とするが、現実には個人は脆弱で他者依存的であることを、「新心理学経済」から説き起こす。第2にベックはリスクを政治課題としテクノクラートの専有から市民の手に取り戻す事を提案するが、産業における精神衛生管理が問題解決の社会関係を抜きにして個人を病人にするやり方は、リスクを増加させる悪循環であり、権力と監視社会は個人と社会を破壊しておりよりリスクは高まっているのである。流動化する現代社会において「社会的なもの」の構造分析が必要であるのも係らず、ベック理論は社会的なものへの追求が不十分であると樫村氏は批判する。グロバーリゼーション・ネオリベラリズムを絶対的な歴史状況として歓迎していることがベックの立場である。そして日本の個人化の特殊性を、戦後一定の民主主義のもとでスタートしたが、開発主義・企業主義・家族主義的社会体制のもとで個人化が抑制されてきたと樫村氏は断定する。そういう意味で個人化は限定的である。90年代以降ネオリベラリズムによる規制緩和・福祉行政放棄によって企業の利益最大化が進行し、個人は社会に放り出される状況を「個人化」と定義すると、樫村氏は個人化の否定的側面の逆定義を行なっている。日本の民主化の不十分な国では、グローバル資本のむき出しの意図を国家が代行し市場主義の管理国家となっている。リスクが政治的契機となるとベック理論は期待するが、民主化の弱い日本では管理社会でリスクは社会分断と差別の温床となっている。それは今回の福島原発事故の風評被害をみれば、東北被災県を差別化してさらに過疎に追いやる契機となる。又日本において個人化の背景にある文化・社会的特性としての象徴性の不在(宗教など共有価値観)は、サブカルチャーの全盛を生み出した。これを退行性、病的化、ガラパゴス化と呼ぶ人もいる。個人特に若者にたいする労働環境の悪化は、引きこもり、鬱の増加、社会拒否、自閉症化、オタク文化という矮小な文化を生んだ。日本文化の特徴といえるかどうか別にして、脱力性、コミカル漫画志向、パフォーマンス表出性社会運動、炎上型ネットワークコミュニティなどである。こんなところから批判精神が育つのだろうか。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「江村新涼」

2012年08月31日 | 漢詩・自由詩
暑退先知守故林     暑退き先ず知る 故林を守る

秋光冷照緑沈沈     秋光冷照 緑沈沈

西風一夜梧桐落     西風一夜 梧桐落ち
 
東畔千山江水深     東畔千山 江水深し


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(韻:十二侵 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 「ふきのとう」 スーパーベストアルバム

2012年08月31日 | 音楽
「ふきのとう」 スーパーベストアルバム
ADD 1974-1984 SONY MUSIC

①白い冬 ②南風の頃 ③初夏 ④雨降り道玄坂 ⑤おやすみ ⑥美しく燃えて ⑦風来坊 ⑧流星ワルツ ⑨影法師 ⑩思い出通り雨 ⑪初恋 ⑫春雷 ⑬柿の実色下水曜日 ⑭やさしさとして想い出として ⑮冬銀河 ⑯五月雨