ギリシャ数学史に輝くアルキメデスの求積の技法 第7回
3)「方法」という著作ー図形から離れない
100年前に発見されたアルキメデスの「方法」が数学史上にセンセーションを起しました。ギリシャ数学のテキストでは証明の結果だけを公表し、どうやって発見に至ったかは何も述べません。ところがアルキメデスは「方法」の序文で、彼が証明した面積や体積に関する成果の発見法を説明すると述べているからです。方法は次の3つの部分に別れます。
①〈序文) これまでの図形の面積・体積や重心決定に用いた発見法を記述すると述べ、新たに2つの図形の体積についてその証明を与えると予告しています。
②(命題1から11まで) これまでの著作で証明した面積・体積及び重心の発見法を述べます。「方法」は立体の重心に関するアルキメデスの唯一現存するテキストです。また「方法」は「円錐状体と球状体」より後の著作となり、アルキメデス最晩年の著作と考えられています。
③(命題12以降) 序文で言った新しい2つの図形(爪型、交叉円柱)の求積法を披露している。アルキメデスはほぼ無限級数の取り扱いをしているが、「円錐状体と球状体について」で定式化された求積法は使っていない。あくまで図形から離れることはなかった。アルキメデスと近代数学の隔たりが意外に大きいことが分かる。「方法」は爪型図形の命題15の途中で切れています。
「方法」第2部分では、「方法」の基本的アプローチ法を命題4から説明します。回転放物体の重心を仮想天秤と釣り合せることで、「回転放物体の重さ(体積)はその外接円柱の半分である」ことを証明しました。放物体の頂点を支点とする仮想天秤を考え、放物体と円柱を垂直に切る断面がつくる2つの円を移動させます。その断面の2つの円の半径の2乗は頂点から放物体の距離hと円柱の高さHに比例します。そしててこの原理により釣り合うためには、重さの比が支点からの距離の逆比になることです。そうすると片方に円柱(重心は真ん中)を吊るし、片方の天秤に仮想の放物体の図形が描けるはずです。アルキメデスは仮想天秤を使わない別の証明つまり等比級数を使った証明も示します。ただし仮想天秤の方法は証明ではなく発見法だとアルキメデスは言っています。放物体や球体を仮想天秤上で無数の切断円の合成により再構築する方法です。恐ろしく巧みな方法ですが、はたしてその再統合は可能なのかどうかは議論されていません。「方法」第2部分では、「爪型」(楔型)と「交叉円柱」の求積法を示します。「爪型」(楔型)の求積法は命題14で示します。爪型とは円柱を直径を含む斜めの平面で切断し、直径を一片とする正四辺形とし高さを爪型の高さとする外接角柱を考え、爪型の体積が角柱の1/6であることを示しました。詳細は省きますが仮想天秤を2回使った非常に巧みな議論ですが、実はもっとエレガントで分かりやすい証明法も別途示しています。三角柱と爪型を垂直に切る断面が作る2つの三角形は放物線の性質から、常に相似形であることが証明されます。つまり面積比は線分比に等しいので、その断面を総和した体積である爪型は三角柱の面積の2/3であることが証明され、結局全体の角柱の1/6となります。切断図形の面積をスキャンしてつくる立体図形の体積は等価であるかどうか、アルキメデスは求積図形の切断図形と外接図形の対応する切断図形の「個数が等しい」という理屈で信とします。そこで成り立つ関係が同じである性質は個数nがおなじであれば総和S/So=Σnにおいても成り立つという考えです。アルキメデスの求積法の特徴は外接図形(円柱、角柱など体積が決定しやすい図形)との比較で何分の1という表現で決定します。複雑な図形は簡単な図形の集合体とし、体積は線分の長さの比に還元するのです。これがアルキメデスのやり方です。アルキメデスにとって図形はまず形状を持つ存在で、可測数ではなかった。彼の幾何学と近代数学との距離は大きかったといえる。
(つづく)
3)「方法」という著作ー図形から離れない
100年前に発見されたアルキメデスの「方法」が数学史上にセンセーションを起しました。ギリシャ数学のテキストでは証明の結果だけを公表し、どうやって発見に至ったかは何も述べません。ところがアルキメデスは「方法」の序文で、彼が証明した面積や体積に関する成果の発見法を説明すると述べているからです。方法は次の3つの部分に別れます。
①〈序文) これまでの図形の面積・体積や重心決定に用いた発見法を記述すると述べ、新たに2つの図形の体積についてその証明を与えると予告しています。
②(命題1から11まで) これまでの著作で証明した面積・体積及び重心の発見法を述べます。「方法」は立体の重心に関するアルキメデスの唯一現存するテキストです。また「方法」は「円錐状体と球状体」より後の著作となり、アルキメデス最晩年の著作と考えられています。
③(命題12以降) 序文で言った新しい2つの図形(爪型、交叉円柱)の求積法を披露している。アルキメデスはほぼ無限級数の取り扱いをしているが、「円錐状体と球状体について」で定式化された求積法は使っていない。あくまで図形から離れることはなかった。アルキメデスと近代数学の隔たりが意外に大きいことが分かる。「方法」は爪型図形の命題15の途中で切れています。
「方法」第2部分では、「方法」の基本的アプローチ法を命題4から説明します。回転放物体の重心を仮想天秤と釣り合せることで、「回転放物体の重さ(体積)はその外接円柱の半分である」ことを証明しました。放物体の頂点を支点とする仮想天秤を考え、放物体と円柱を垂直に切る断面がつくる2つの円を移動させます。その断面の2つの円の半径の2乗は頂点から放物体の距離hと円柱の高さHに比例します。そしててこの原理により釣り合うためには、重さの比が支点からの距離の逆比になることです。そうすると片方に円柱(重心は真ん中)を吊るし、片方の天秤に仮想の放物体の図形が描けるはずです。アルキメデスは仮想天秤を使わない別の証明つまり等比級数を使った証明も示します。ただし仮想天秤の方法は証明ではなく発見法だとアルキメデスは言っています。放物体や球体を仮想天秤上で無数の切断円の合成により再構築する方法です。恐ろしく巧みな方法ですが、はたしてその再統合は可能なのかどうかは議論されていません。「方法」第2部分では、「爪型」(楔型)と「交叉円柱」の求積法を示します。「爪型」(楔型)の求積法は命題14で示します。爪型とは円柱を直径を含む斜めの平面で切断し、直径を一片とする正四辺形とし高さを爪型の高さとする外接角柱を考え、爪型の体積が角柱の1/6であることを示しました。詳細は省きますが仮想天秤を2回使った非常に巧みな議論ですが、実はもっとエレガントで分かりやすい証明法も別途示しています。三角柱と爪型を垂直に切る断面が作る2つの三角形は放物線の性質から、常に相似形であることが証明されます。つまり面積比は線分比に等しいので、その断面を総和した体積である爪型は三角柱の面積の2/3であることが証明され、結局全体の角柱の1/6となります。切断図形の面積をスキャンしてつくる立体図形の体積は等価であるかどうか、アルキメデスは求積図形の切断図形と外接図形の対応する切断図形の「個数が等しい」という理屈で信とします。そこで成り立つ関係が同じである性質は個数nがおなじであれば総和S/So=Σnにおいても成り立つという考えです。アルキメデスの求積法の特徴は外接図形(円柱、角柱など体積が決定しやすい図形)との比較で何分の1という表現で決定します。複雑な図形は簡単な図形の集合体とし、体積は線分の長さの比に還元するのです。これがアルキメデスのやり方です。アルキメデスにとって図形はまず形状を持つ存在で、可測数ではなかった。彼の幾何学と近代数学との距離は大きかったといえる。
(つづく)